第11話 村はケダモノに支配されていました
「それはご丁寧に。スケイ、カーク。私が話している間、この近くに人が来ましたか?」
「「誰も見ていませんね」」
「で、でも。悲鳴は確かに聞こえたんだ!」
「スケイ、カーク。私の悲鳴なんて聞こえました?」
「「いえ……。大根役者の悲鳴っぽい何かしか聞こえませんでした」」
2人とも……。あとで覚えてなさいよ、と思いながら笑顔でオスカーの方を見る。
「そういうことですので、私は何ともありませんのでお引き取りくださいませ」
「ふざけんなよ! 俺が誰だと――」
「村長の息子さんのオスカーさんですよね? それがどうかしました? おっと、自己紹介が遅れて申し訳ありません。私、ローズ公爵家令嬢、フローレス・ローズですわ。二人は私の騎士と執事ですのよ」
私はダガーを取り出すと鞘の家紋を見せる。
「くそっ、公爵家だと? 俺は村長の息子だぞ!」
オスカーの言葉に私たちだけではなく村人まで「何言ってんだこいつ」的な顔になった。そのことが気に入らなかったのか、顔を真っ赤にして怒りだした。
「公爵家だかなんだか知らねえが、この村で村長の息子である俺に逆らったら、村で生きていけなくなるんだぞ!」
「そんな言葉で私が怯むとでも? そもそも、この村の住民じゃありませんからね」
「くそっ、覚えていやがれ!」
私が折れないと分かって、オスカーは潰れたトマトのような顔をしながら立ち去っていった。そして、その雰囲気に流されるように他の村人たちも潮が引くように帰っていった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありませんわ。でも、あの態度……。やはり気狂いになった家族の方に聞き込みをしましょうか」
「かしこまりました」
私たちが気狂いになった家族の家の1つにお邪魔しようとした時、私たちを見た娘さんがカッと目を見開いた。
「いやああああ、だめえええええ!」
狂ったように叫び声を上げた彼女に驚きつつも、私はスケイリアとカークライトに家から出るように促した。
「もう大丈夫ですよ。2人はいません」
「はあはあ、す、すみません」
「落ち着いてください。私はしがない旅の令嬢ですが、少しお節介なところが玉に瑕でして、よろしかったら詳しいお話を聞かせていただけますか?」
「あの……。娘の方は少し困ったことになっておりまして、私から話させていただく形でもよろしいでしょうか?」
「わかりました。お願いします」
娘さんには奥の部屋に退避してもらい、母親から話を聞くことにした。彼女は問題ないとのことだったので、カークライトを呼んでお茶をいれてもらう。
「単刀直入に伺いますが、娘さんの症状の原因は、村長の息子であるオスカーと彼の友人、インディアとマイクが原因ですよね?」
「……全てご存じですのね。そうです。あの3人が私と娘を……」
「やはり……大方、父親が働けなくなって、生活を支援する見返りに、とでも言われたのでしょう?」
「はい……。正直、八つ裂きにしたいくらい憎いのですが……。今の私たちの状況では抵抗するどころか逃げることもできず……うっうっうっ」
私は話をしながら泣き出してしまった彼女が落ち着くのを待って話を続ける。
「では、完全に……とはいきませんが、少しでも元の生活に戻すために戦う気はありますか?」
彼らを断罪するためには、彼女らの戦う意思が必要だった。もちろん、無くてもいくつかの証拠を押さえる手筈は整えているのだが、彼女らの証言はアイツらを追い詰める鍵の一つだと考えている。そんなことを考えながら、彼女を見つめていると大きく頷いた。
「はい、是非とも戦わせてください!」
「お母さん! 私も戦いたい!」
「ですが、アイツらに復讐をさせることは認めることができませんがよろしいですか? 復讐の結果として処刑することも不可能ではありませんが、それは人としての尊厳を認めることになります。私としては人としての尊厳を認めない形での処刑を行う予定です」
「……是非ともお願いします。あのようなケダモノに人としての尊厳など認めたくはありませんから」
「私も」
「ありがとうございます。後ほど、よろしくお願いしますね」
そう言って、彼女たちの家を出た私たちは、同じ境遇の人たちの家を回り数人を除いて同意をこぎつけた。そして、その夜、決定的な状況証拠を手に入れるために隔離施設を見張ることにした。
しばらく待つと、予想通りオスカーとインディアとマイクがやってきた。
「おい、今日やるのか? 公爵令嬢が来てるって噂だぞ、もしバレたら俺たち絞首刑だぞ」
「くそっ、ビビってんじゃねえぞ。アイツに薬を与えて廃人にしないと、あのことを喋られる方がまずい」
「何がまずいですって?」
2人の会話に私が割って入ると、ハトが豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
「お、お、お前、聞いていやがったのか?」
「あ、いや、ちょっと散歩してたら偶然……」
「おい、やるぞ!」
そう言って3人は私に襲い掛かってきた。
「きゃあああ、何するんですか!」
「ええい、黙ってろ!」
オスカーがイラつきながら腹を殴ってきた。もちろん、体勢を調節してダメージは最小限に抑えている。
「がはっ、うぅぅ……」
だが、私はあえてお腹を押さえて蹲った。すると、インディアとマイクが左右に分かれて私の手足を押さえつけ、オスカーが私の服を脱がそうとしていた。
「いやあああ、やめてください! たすけてええええ!」
首を左右に振りながら嫌がる素振りを見せると、3人は興奮してきたようで鼻息が荒くなってきた。私は自分の演技力の恐ろしさに鳥肌が立つのを感じた。
「おい、何やっている!」
「す、スケイ、たすけてくださいいいい!」
スケイリアは3人を軽く殴り飛ばして、私を助けてくれた。
「スケイ、ありがとうぅぅ」
私はスケイリアに抱き着いていたところ、遅れてやってきたカークライトがやたらと殺気立っていた。
「おい、お嬢様から離れろ!」
「お前だって、お嬢様と抱き着いていただろうが! 今度は俺の番だ!」
「ちょっと、せっかく役に浸っていたのに台無しじゃないの! 順番とかないんだから、私みたいにしっかり演技しなさいよね!」
「「お嬢様みたいに、しっかり?」」
「さっきのお嬢様の演技っぽい何かに引っかかるのは、そこの3バカくらいですよ」
毎度毎度、失礼なカークライトであった。
「まあいいわ、スケイ、カーク。あいつらを縛っちゃって!」
「「了解」」
そう言ってサクサクと3バカを縛り上げた私たちは、夜中だったが村人全員をたたき起こして隔離施設まで来てもらった。
「な、何をした?! ワシの息子に!」
「襲われたから返り討ちにしただけですわ、ここのスケイリアがね」
最初のうちこそ動揺が見えていた村長も、私たちが返り討ちにしたと言ったことで、一転して冷静になったようだ。
「それは見解の相違というものではありませんかな? お互い合意の上ということもありましょう」
「私が合意してませんので、その理屈は成り立ちませんわ。それとも公爵令嬢である私が、こんな辺鄙な村の人間を陥れたとでも言いますか?」
「そこまでは申しておりません。ですが、アプローチをしようとしてちょっと行き過ぎてしまうこともあるかと……」
「押し倒して、2人がかりで手足を押さえて襲い掛かるのがちょっとだとでも?」
「……そうです」
「では、村長さんにも体験していただきましょう。スケイ、カーク、彼を押さえてちょうだい」
そう言って、2人は村長を私の時と同じように左右に分かれて手足を押さえ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます