第7話 盗賊団は終了しました

 領主を成敗したのち、私たちは屋敷や詰所を徹底的に捜索した。しかし、捕らえたはずの盗賊は1人も見つからなかった。


「どうやら全員逃げたようですね」

「当然壊滅させるわ。あんなのが残っていたら、みんな不安でしょうからね」

「当然だ。こっちも国王からの討伐依頼書を受け取ってあるから、全滅させても問題はないぜ」


 スケイリアが懐に入れておいた依頼書を取り出した。いつの間に取ったのかわからないが準備が良い。


「でも、どこに逃げたかわかるんですか?」

「うーん、全員は分からないわね。でも、捕まえたやつらなら、どこにいるか分かるわよ」

「マジか。すげえな!」


 暗殺者の天職は、その特性上ターゲットと定めた相手の状況を任意に把握することができる。私は盗賊たちを捕らえた際に、全員を暗殺のターゲットとしていた。


「どうやらいくつかのアジトに数人ずつ分かれているみたいね」

「どうする? 手分けするか?」

「いえ、さほど時間もかかりませんし、このまま3人で壊滅させていきましょう」


 私たちは、その足で街の入口へと向かった。


「この街の領主は処刑されました。我々は王命に従って盗賊団の討伐へと向かいます」


 そう門番に告げると、怪訝な顔をされたがスケイリアが国王からの討伐依頼書を見せたことで、すんなりと外に出してもらえた。


「お嬢様、領主の処刑については余計です。お陰でだいぶ怪しまれておりました」

「頼むぜ、お嬢様。討伐依頼書が無かったら、足止めどころか拘束されていたかもしれないんだぜ」

「あら、これは失礼を。まあ、無事に出られたので良かったではありませんか。では、さっそく向かいますわよ」


 意気揚々と盗賊の居場所へと向かった。そこでは街から逃げてきた盗賊が入口で見張りをしていたので、聞き耳を立ててみた。


「おい、聞いたか? ワルーイ子爵が捕まったらしいぞ」

「マジか。俺たちはどうすればいいんだ?」

「知るかよ。俺たちは子爵が討伐した後にアイツの手で作られた盗賊団だぞ。アイツがいなかったら続ける意味はねえぞ」

「といってもよぉ。これで稼げなくなったら、極貧生活に逆戻りだぜ」

「その心配は不要だ。なんでも子爵のケツ持ちのアクドーイ伯爵が大量に人材を募集しているらしいんだ」

「でも、俺たち何も得意なことないだろ。大丈夫なのか?」

「なんと、未経験者可らしい。それに採用人数も無制限ときたもんだ」

「でも採用条件はあるだろ?」

「あるっちゃああるけどな……。やる気があって、約束を守る誠実なヤツなら問題ないらしい」

「お前……。俺たちどっちもないだろ? ダメじゃねえか!」

「大丈夫だって。ワーカーズボイスっていう、現役の人の声が書かれた冊子が配られているんだけど、最初はやる気も誠実さもなかった自分が、仕事を続けていくうちにやる気と誠実さが身についていったっていう話があるんだ。俺達でもできるさ!」

「マジかよ。そりゃ、こんなところで盗賊まがいなことなんてやってる場合じゃねえぜ。他のヤツらに気付かれる前にとっとと行くぞ!」


 そう言って、見張りの一人はもう一人を引っ張って逃げ出そうとしていた。しかし、盗賊団の掟は厳しいらしく、2人の前に1人の大男が立ちふさがった。


「おう、おめえら。どこに行くつもりだ?」

「あ、えーと、トイレに……」

「誤魔化すんじゃねえ! ユーロポートに行くつもりだろうが! アクドーイ伯爵の仕事に釣られたか? 馬鹿め!」

「いや、ですけど……。もう盗賊団なんて時代遅れなんですよ。俺たちが食っていくためには、伯爵に媚びていかないといけないんです!」

「ちっ、そんな見え見えの餌に釣られやがって。俺たちはな、そんな生半可な覚悟で盗賊団やってねえんだよ!」

「でも……。給料、今の盗賊団の倍なんですよ」

「何だと? もっと詳しく話してみろや」


 どうやら給料が倍という言葉に、大男も心が揺らいでしまったようだ。遠目ではあるが、彼が熱心に見張りの話を聞いているのがうかがえた。


「おおし、こんだけいい条件なら悪くねえ。ちょっと待ってろ!」


 そう言って、アジトの奥に消えていった大男は10人ほどの男を連れて戻ってきた。


「よし、俺たちはユーロポートへ向かう。いいな?」

「えっと、盗賊団は?」


 大男の突然の話に付いていけない男が訊ねると、突然大男が怒鳴り散らした。


「ばっきゃろい! 盗賊団は終わりだ終わり。これからは伯爵についていく。いいな!」

「「「はーい」」」

「おい、お前たち。他のアジトの連中にも話をしておけ。ユーロポートで落ち合うぞ!」


 3人が集団から離脱して他のアジトに向かおうとしていた。そのため、私は慌てて飛び出して待ったをかける。


「待ちなさい!」

「あん? なんだお前は!」

「あ、ああ、あああ! 何でお前がここに……」


 私が彼らを呼び止めると、大男は振り向いて訝し気な視線を向けたが、盗賊の1人が私を指差して震えていた。


「こ、こいつです。仲間の1人を殺して、子爵を処刑したヤツらです!」

「ぐっ、俺らを消しに来たのか!?」


 動揺する盗賊団に私は敵意が無いことを示すために笑みを浮かべる。しかし、なぜか彼らは余計に警戒を強めたようだ。


「お嬢様の笑顔が極悪だからですよ」

「シャラップ、カーク! 私たちは交渉をしに来たのです。大人しく、奪った品を置いていくか、首を置いていくか、選ばせて差し上げますわ」

「どっちにしても俺たちを殺すつもりじゃねえか!」

「いえいえ、私たちにも事情がありまして、盗賊団を追い払った証拠が必要なんですよ。それで奪った品かあなた方の首が必要なんです」

「だが、品を渡したらたどり着く前に野垂れ死ぬわ!」

「そこで提案です。品を置いていってくれたなら、相応の食料をお渡ししますわ」

「マジかよ。それをしてお前に何の得があるんだ?」

「先ほども申し上げました通り、私たちはあなた方がこの街からいなくなったことを証明したいのです。私としては首でも良いのですが、荷物や食料を運ぶのに協力してくれる人はいても、死体を運ぶのに協力してくれる人はあまりいないでしょう?」


 私は破格の条件を提案して、盗賊たちを納得させようとする。大男も知恵はあるようで、私の提案に納得してくれたのか大声で笑い出した。


「がはははは。わかった、良いぜ。荷物は他のアジトにあるものもここに集めておこう。俺たちは、それで明日の朝ここを出発する。その後に荷物は取りに来てくれ」

「交渉成立ね。今日の夜までには食料を用意しておくわ」


 こうして、私たちは奪われた荷物を受け取り、食料を渡して盗賊団を見送った。


「いいんですかい? むざむざ逃がしちまって」

「いいのよ。スケイ」

「泳がせるつもりなんでしょう?」

「そうよ、彼らの言っていたアクドーイ伯爵の話。どう考えても胡散臭いわ。だから、彼らに潜入調査を手伝ってもらおうってね」


 私がカークライトの言葉に同意する意味を込めてウインクをすると、スケイリアが憮然とし出した。


「おい、カーク! まぐれ当たりしたくらいでいい気になるんじゃねえ!」

「ふっ、何を言い出すかと思えば。まぐれなはずないでしょう。脳筋なあなたと一緒にしないでください!」

「おう、いいぜ。今日と言う今日は決闘だ!」

「スケイ。あなたの剣の腕前はよぉぉぉく分かってます。私も何度も助けられましたからね。でも、そんな詰まらないことで喧嘩するようなら追い出しますよ!」


 決闘を始めようとしたスケイリアをなだめるために叱ったら、予想以上にしょぼくれてしまった。その様子は、まるでワンコのようであった。


「スケイ、カーク。そしたら街に戻って回収部隊を編成しますわよ!」

「「かしこまりました!」」


 こうして、私たちは街の人の協力によって、奪われた品を街に全て運び込んだのだった。

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