第6話 わるーい領主を断罪します
宿に戻ってスケイリアと合流した私は大通りを通って領主の屋敷へと向かう。
「お嬢様、どうされますか?」
「いつも通りよ」
「かしこまりました」
そして、私たちは領主の館の正門前へとたどり着いた。夜中に漆黒の鎧をまとった騎士と、喪服を着た執事を連れた純黒のドレスを着た令嬢という、いかにも怪しい3人組を見て門番の衛兵があからさまに警戒する。
「なんだ、お前たち――」
私は声を掛けてきた衛兵に接近すると、すれ違いざまに膝をいれて沈黙させる。
「スケイ、よろしく」
「おうよ」
私の指示を受けたスケイリアは剣を抜くと門の扉を斬りつける。すると、あっという間にばらばらになって崩れ落ちてしまった。
「襲撃だ!」
扉が崩れた音を聞きつけたのか、屋敷の中から叫び声が聞こえた。それと同時に中から大勢の衛兵が迫ってきた。
「貴様ら何者だ?!」
「私はフローレス・ローズ。ローズ公爵家の者ですわ。あなた方がよろしくないことをしていると聞いて、こうして足を運んで差し上げたのですわ」
横暴に問い詰める衛兵に対して、優雅にお辞儀をしながら自己紹介をする。
「ローズ公爵家? こんなところに来るわけないだろうが! 不届き者め!」
しかし、場違いな状況もあって信じられなかったようで、衛兵はさらに激昂した。
「スケイ、カーク。殺っちゃってください!」
「はっ」
さすがに衛兵は人数が多すぎたので、私は奥の手を使うことにした。それが『殺害許可』である。『王国の影』は暗部とはいえ、むやみに殺したりはしないのだが、やむを得ない状況となった場合は許可を出すことで手加減なしで戦えるのである。
スケイリアは向かってくる衛兵たちを正面から切り捨てていく。一方のカークライトは正面から胸に一突きして心臓を掴み取っては引きちぎっていた。
そして、当然ながら私にも衛兵は襲い掛かってきていた。
「死ねえぇぇぇ!」
「甘いですわ」
「なんだ?! 消えた……? がはっ!」
迫ってくる衛兵から隠れて背後に回って、喉元を掻き切った。切り口から血を吹き出して絶命する。一方的に殺しているような状況ではあるが、私に死ねと言ってきていたし、これは完全な正当防衛だろう。
次々と死体を作り出していく私たちに衛兵の腰が引け始めた頃、彼らを叱責するような声が響き渡った。
「貴様ら! 何をやっている! とっとと殺してしまわんか!」
叱責を受けた衛兵が私たちに向かって殺到する。しかし、その程度で地力の差を埋められるほど私たちは甘くない。
1分と経たないうちに死体の山を作った私は領主へと詰め寄る。既に衛兵は10人ほどまで減っていた。
「貴様ら……俺はワルーイ子爵だぞ。この俺に刃を向けてタダで済むと思うなよ!」
領主は追い詰められながらも、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「ローズ公爵」
「ん?」
「私はローズ公爵家令嬢、フローレス・ローズですわ」
そう言って、胸の前でダガーを鞘に納める。その鞘にはローズ公爵家の家紋が刻まれている。
「その家紋は……。まさか!?」
「そう、そのまさかよ。先ほども名乗った通り、ローズ公爵家令嬢、フローレス・ローズですわよ。子爵ごときが頭が高いですわ!」
「これはこれは、暗殺公爵様の類縁がいらっしゃるとは思いもよらず、失礼いたしました」
恭しく頭を下げるワルーイを見下ろしながら、私は言葉を続ける。
「ワルーイ子爵よ。お前は国王より爵位と領地を頂く身でありながら、盗賊団と手を組み馬車を襲って金品を強奪しようとしたこと、到底許されることではありませんわ!」
「お言葉ですが、フローレス公爵令嬢。俺は領民の生活を豊かにするべく最低限の税金でやりくりをしている身。盗賊団と手を組むなどと言った卑劣な真似をする余裕などございませぬ。」
「盗賊団と関係は無いと言うのか?」
「もちろんでございます。俺も何回にもわたって討伐隊を派遣しております。最初のうちこそ順調ではございましたが……。敵も狡猾でして、最近は尻尾すら掴ませてもらえませぬ」
どうやら、彼は盗賊団とは無関係だと言い張るつもりのようだ。
「では、お前の指示で私を捕縛しようとしたことに関しては如何に釈明をするつもりだ?」
「こちらは手違いというものにございます。あなた様の部下の独断とは思い至らず……」
「では、私が無実であると証言した御者に暴力を振るったことに関してはどうだ?」
「それは衛兵の独断でございます。追って厳罰に処するつもりでございます」
「ならば聞くが、私を捕縛し損ねたことを衛兵に詰め寄ったのは何故だ?」
「そのようなことは決して……」
ワルーイの往生際の悪さに思わずため息が漏れる。
「ということだが、カーク。こいつの言っていることは真実か?」
「いえ、確かに私が入れられていた牢の前で、彼が衛兵を詰っていたのを確認しております」
「だそうだが、申し開きはあるか?」
「な、な、き、貴様! 何で貴様がここにいる?!」
「何でも何も。重要な証人を連れてくることに何か問題でもあるか?」
「お言葉ではありますが、こやつは殺人犯でございます。こやつの言葉を信じるのは部下とは言え正しいとは思えませぬ!」
私は肩をすくめてため息をついた。
「やれやれ、重要なのは彼の証言ではありません。私を捕縛した理由について尋ねているのです。そもそも、私に殺人の疑いをかけたということは、彼が殺害した場所にいたということでしょう?」
「な、な……」
「彼が殺害した者は乗客を装った盗賊団の一味であることは既にわかっているのですよ。もちろん、他の乗客の証言についても男を弁護することはありえませんわ」
「だがしかし!」
「駄菓子も菓子もありませんわ。お前は乗客の証言ではなく、盗賊団の連中の話を聞いて冤罪をでっち上げたのでしょう。私を捕えるために。ご安心くださいな。すぐに王国の騎士団が到着して、あなたに相応しい罰を与えてくれるでしょう」
私の断罪を聞きながら、彼は俯いて拳を強く握りしめていた。しかし、騎士団と言う言葉を聞いて顔を上げると私を睨みつけてきた。
「ぐぬぬぬ。こうなってしまっては俺もお終いだ。だが、貴様も道連れにしてやるわ!」
そう言って、腰に差した剣を抜いて振りかぶる。私も彼の動きに合わせて距離を詰め、ダガーを抜いて一閃した。彼とすれ違い、私はダガーを鞘に再び納めた。
「成☆敗! キュピーン☆」
直後、ワルーイ子爵は喉元から血を吹き出して倒れた。雇い主が死んだことで、残りの衛兵たちにも動揺が広がり、一目散に逃げだした。
騒ぎが落ち着いたあたりでスケイリアとカークライトが私に駆け寄ってきた。
「お嬢様、無事でしたか!」
「お嬢様……。いまさらではありますが、先ほどの決めゼリフは如何かと思いますが……」
「いいじゃない! カッコいいでしょ?」
「気持ちはわかりますが……キュピーンと口で言うのはちょっと……」
「お、おい。そんなはっきりと言うなって! 俺はお嬢様の味方ですから!」
内容から察するに、カークライトだけでなくスケイリアも微妙だと思っていたということだろう。
「ふっふっふ、これは時代が私に追いついていないだけよ! だから私は今のまま突き進むわ!」
私は周囲の白けた雰囲気を無視して、大きくガッツポーズをした。
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