第4話 前世は忍者

ハリスさんは、とても物静かです。たまーに、すごく小さい声で返事をしてくださる。それくらい控えめな方。

更にハリスさんは、とても静かに歩かれます。まさに『そろりそろり』と忍び足。それはもう『忍者』のよう。


ハリスさんが、この施設に来てすぐのことでした。

職員会議の日。ホールの半分を仕切って、片側に利用者さまたち。もう片側には職員が集まっていました。

会議が始まって、ほんの少し経った頃です。仕切っていたブラインドを避けながら、ハリスさんがこちらに顔を出しました。

私たちは、近くにあった椅子を指し「どうぞ。ここに座っていても良いですよ」と声を掛けます。ハリスさんは無言で、そろりそろりと椅子に腰掛けました。

会議再開です。ちなみに、この時ハリスさんは丁度、私の真後ろに居ました。


会議を進めていると、ふと背後に気配が……。もちろんハリスさんなのは分かっています。私は振り返ってみました。

「おお!」

びっくりです。最初よりハリスさんが椅子ごと、少しだけこちらに近付いています。

会議に戻ります。


しばらくして……。

私の向かいに座っていた職員が小声で言います。

「後ろ後ろ」

振り返ると、ハリスさんが更に近付いていらっしゃる。

段々近付いてくるのが、何だか可愛らしくて、ちょっと笑ってしまいました。きっと、この施設に来てから初めての会議の日。急に職員の姿が見えなくなって、寂しかったのだと思います。


そして、会議の中盤にはハリスさんが私のすぐ隣に。

静かに私たちの話を聞いているようで、職員皆で「ハリスさんも会議に参加ですね」と笑顔になりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る