第9話 結果的にママまで来ました。

パパがきたことをラインしたら、ママも来ることになりそうで、僕は一瞬パニクってしまう。

え?待って!!どゆこと??


「とりあえず。パパを捕まえに行かなくっちゃ。」

て思って、席を立ったら、クラスの女子たちが悲鳴を上げた。


担任も目がハートになってるし・・。

パパの後ろについてる先生も釘つけになってる。

そうだよね。パパ色気あるもんね。

イケメンではないと思うんだけど、色気があるんだよなぁ。

「きゃああああああっっっっっっ!!!!」

「嘘まじか!!オブシディアンの陽人がえ?うちのクラスにいる??」

「え?一体何の用があってきたの??」


僕は逃げ出したかった。

亮介も美花もレンも目が諦めろって言ってる。


「あ!春くん見つけた!!」

パパの言葉にクラス中の視線が一気に僕に向いた。

「え?春くん??春咲と陽人ってなんか関係してるの??」

「え??ま!!」


「「「春パパこんにちはー。」」」

亮介と美花とレンが挨拶する。

「あ!亮介くんも美花ちゃんもレンくんも久しぶりー。」

「パ・・パパじゃない。お・・お父さんなんで学校に来たの??」

いつもパパと言ってるから外向きの言葉のお父さんがなかなか出てこない。

お父さんという言葉にクラス中が騒然とする。


「うん?そりゃあ可愛い息子の学校生活をのぞいてみたくって??」

可愛い感じで言わないでください。

のぞいてみたくってで学校にこられたら、みんな大パニックじゃん。


「え?待って待って待って待ってーー!!」

「どうした。」

クラスの女子がベランダを見ながら叫んだ。

「み・・皆川朱莉を見たんだけど」


「は・・春くん。ママも呼んだのかな??」

小声で僕にそう聞いてくるパパの顔は顔面蒼白になってる。

「素直に怒られるといいよ。パパ。」

「春くん冷たい。パパは春くんの学校生活を見たかっただけなのに。」

くすんって泣いてるけど、いーや。怒られてください。


「あらぁ。陽人さんじゃないの。なぜ春ちゃんの学校にいるのかしらぁ??」

ママが優雅な雰囲気を纏ってクラスに入ってくる。

「春ちゃん・・。え??皆川朱莉って春咲とどういうつながり。」

ママはパパに艶然な微笑みで威圧しながら、クラスの全員に頭を下げる。


「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません。このクラスの春咲春斗の母皆川朱莉と申します。この度はうちの愚旦那の春咲陽人が突然伺う行為で皆様をはじめ学校に迷惑をかけたことはお詫びいたします。」

ママが頭を下げて、パパも見習って頭を下げる。




クラスのみんなは僕の顔を見て、そしてママとパパを見る。

「え??え??え???」

クラスのみんなパニクってるなぁ。


「え・・とね。父と母です。」

僕はパパとママの間に入ってみんなに紹介した。


「えええええっっっっっっっっ!!!!」


「とりあえず。陽人さん。私と一緒に校長先生に会いに行くわよ。ご迷惑をおかけしたんだから・・」


「ええーーせっかく来たんだから春くんの勉強姿とか見たいよ!!」

あ!ママの微笑みがさらに深まってる。

「一緒に行くわよね?校長室。」

パパはコクコクとうなづいて、一緒に教室を出て行った。

「またねーー春くん。みんな!!」

パパはひらひら手を振って愛想を振り撒き、ママはひたすら謝って教室を出て行った。


本当嵐だったなあ。

みんなも呆然としてるもんね。



5時限目が終わった後、みんな僕のところに来た。

僕はみんなの質問にできる限り答えて行ったら、十分なんてあっという間だよね。


でも実は僕は困ったって言っておきながら、パパとママをみんなに紹介できて嬉しかった。

学校の行事に、もちろん来てくれたけど、パパもママも僕の父親母親とわからない様に変装してきてたんだ。


パパもママも僕が誘拐されて以来、念入りに表に出る時は自分を消していた。


それが少し寂しかったのも事実。

だから、今日こんな突発的な出来事で紹介できて嬉しかったんだ。


で、パパとママは校長室でちゃんと謝ってるのかな?




「んもう!!あれだけ言ったのに、なんで行くのよ?」

「いやあ・・。無性に怖くなってね。」

「朱莉さんは、春くんが急にいなくなるっていう恐怖に襲われることないかい?」

「あるわよ・・。でも学校にご迷惑をおかけするのは違うじゃない。」

「そう・・なんだけどさ。あの時のフラッシュバックが戻ってきたらいても立ってもいられなくね・・・。」

「そうなのね・・・。」

多分。私たちはずっと苛まれるのだ。誘拐に。


でも・・。

「ねえ・・陽人さん。私たちこれからちゃんと春ちゃんの親に戻れるんじゃないかしら?」


不安だった。いや、恐れていたのかもしれない。

一度春ちゃんを手放してしまった私たちは親を名乗っていいのだろうか?


何をそんなことと思うかもしれない。

でも、私たちは親というものにある種強迫観念みたいなものがある。

親なら子供がちゃんと育つまで子供のそばにいないといけないとか。

親なら子供に誠実に愛さないとダメだとか。

親なら・・親なら・・親なら・・。

私たちは親なら・・に自縄自縛しながら生活をしていた。


そんな私たちに訪れた誘拐。

私たちの親という意義が一気に崩壊した。


そんな私たちの元に春ちゃんが戻ってきた時に感じた気持ちをなんて答えればいい?

お腹を痛めた自分の子供に対して、どこか他人のような気持ちの違和感。

確かに春ちゃんなのに、私たちが知ってる春ちゃんではない。そんな違和感。


その違和感はきっと勝手に親を名乗って春ちゃんを親だと洗脳していた誘拐犯の

影が纏まりついてるのが私たちが感じた違和感に違いないって。


私たちは元に戻ってから、その影を払拭しようと頑張った。

何事もなかったように生活をする。

そうすれば、また元に戻るだろうって・・。

でも、それは違った。影を払拭するどころか徐々に生活に浸食していった。


その影は私たちをいつも嘲笑う。


それも今日で終わりにしよう。私たちはその影を受け入れないといけない。

頑なに拒否をしたところで、あっちが私たちを嘲笑うのなら、私たちがあっち側を嘲笑わないといけない。


「ねえ。陽人さん。私決めたの。ずっとまとまりついてる影を頑なに拒否していたけど、本当は受け入れないとダメなのよね。だから私は受け入れるわ。」

「はは・・。朱莉さんは強いな。僕は・・まだ怖い。」

「・・私が強くないなんて知ってるじゃない。でも強さを装うことはできるのよ。

だって私女優ですもの。」

「強さを装うか・・。そうだな。確かにそれがいいのかもしれない。」


「ええ・・。だから強さを装う前準備として校長先生にきちんと謝りましょ!」

私は笑いながら陽人さんを見る。

陽人さんは君には構わないなあと言いながら、表情を改める。



校長先生は私たちの行為をあっけらかんと咎めなかった。

しかし、それでは気が済まないので・・と言ったら、今度の文化祭に陽人さんがオブシディアンとして出て欲しいこと。

私は演劇部の上級顧問として時々部活動の生徒の演技指導をしてほしい。

とお願いされた。


そのくらいなら・・ともちろん了承したけど、もしかして校長先生。

人が良さそうな顔をしてるたぬきさんではないかしら??

どっちにしろ、私たちは春ちゃんの学校に関わることになってしまったのが嬉しい。





















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