第8話 皆川朱莉(ママ)視点
あんのばかああああああっっっっ!!
私は思わず大きな声を上げていたみたい。
みんなびっくりして私の方に視線を向ける。
私はすみませんすみませんと皆さんに謝る。
私はちょうど撮影が一区切りして、スマホをいじっていた時にちょうど春ちゃんからラインが入ってきていたから確認をしたら、なんで陽人さんが春ちゃんの学校に行ってるのよ!!あれだけダメって言ったじゃない。
大鳥監督がどうしたんだい?って聞いてくる。
大鳥監督は私が子役時代からお世話になってる監督。
大鳥組に戻ると実家に戻ってきたような感覚になる。
だから思わず、監督に愚痴ってしまった。
大鳥監督のトレードマークの口髭を撫でながら、私に言ったの。
「君も行ってきなさい。ちょうどいいじゃないか。陽人さんを引き取りに行くついでに、君も皆川朱莉として春斗くんに会いにいけばいい。陽人くんも君も、春斗くんの父親であり母親であるのに、父親参観や母親参観や行事のたびに変装して参加して、そろそろもういいんじゃないのか?君たちが春斗くんのれっきとした親なんだから。
そろそろ誘拐の呪縛から解き放たれるべきだ。」
実の親みたいに感じてる大鳥監督。最後の誘拐の呪縛から解き放たれるべきという言葉が私の胸に響く。
私が春ちゃんを産んで、初めて春ちゃんと対面した時。私はとてつもない多幸感に襲われていた。
その時はすでに縁を切っていたけど、うちの両親は、今の言葉にして言えば毒親だった。
私を子役にしたのも、私が可愛かったというよりも、子供に稼いでもらおうという気持ちが強かったに違いない。
成人をしてから、私は弁護士を立てて実の親と縁を切った。
そこから、私は一人で生きていた。芸能界というところに身を置いて、いろいろなものを目に見てきても、私が擦れずに生きてこれたのは、大鳥監督や周りの大人たちのおかげだと思う。ちゃんといけないことをしたら、きちんと叱ってくれ、逆にいいことをしたらちゃんと褒めてくれる。
実の親からでは与えられなかったものを周りの大人が教えてくれた。
子役の時に自分の進路で悩んでいた時に、私の道筋を見守りながらも示してくれたのは大鳥監督だった。
「君を子役の時から見ていたけど、君はだんだんと末恐ろしいほどに演技に深みが出てくるねえ。この深みは慣れとかでは出てこないからね。君が演技が好きなら僕はちゃんと日本を代表できる女優になれるよう、バックアップするよ。
いや。この言葉は違うな。単なる私のわがままなんだ。君の演技をこれからも見てみたいんだよ。」
大鳥監督がそんなことをポツリと言ったのは私が17の時。
演技をするのもテレビに出るのも、私のライフラインのためと割り切っていたときだ。
少なくとも、テレビとかに出ていれば、お弁当は出てくるし、ご飯に困ることはなかた。
あの親は自分たちを着飾ったり自分がよく見せるためならお金をいくらでも払うのに、それ以外に関しては全くもってお金を出さなかった。
そんな生活が当たり前だと思っていた時期が終わり、この生活がおかしいんだと自覚したそんな歳だったと思う。
私がこの生活から抜け出すために、結果何ができるんだろう?と必死に考えていた時期。大鳥監督の言葉を聞いてからもずっと考えて考えて考え抜いて、私は女優になることを選んだ。
そこから演技をもっと勉強した。大鳥監督をはじめお世話になった人たちが勧めてくれる映画や、舞台。自分の演技を磨くためにいろいろなものを吸収した。
そして、20の時に私は陽人さんと出会った。私が主演したドラマの主題歌を担当したという理由で打ち上げで出会った。
一目見た瞬間。あ!この人は私側の人間だ。親の愛を知らずに育った人間だとわかった。ただ、この人は私とは違って、本当に愛を知らずに育ってきてしまったみたいな・・そんな闇が最初からあった。私はその闇に惹かれてしまった。
私もろくに愛を知らないけれど、でも演技をしてきた分愛を知ってる。だから
その愛を彼に与えたい。って思ってしまった。
陽人さんと出会って、彼がイギリスへ行ってしまった時は私もちょくちょくイギリスに遊びに行った。
陽人さんが私にのめり込んだのか、私が陽人さんにのめり込んだのかわからない。
わからないけど、私たちは手探りで愛を育んでいった。
そして私が23の時、陽人さんに会いにイギリスで遊びにいっていつも通りに愛を育んでいた時に、私は妊娠した。
妊娠のことを陽人さんに伝えた時のあの表情。
私は一生忘れない。
そして6年後。春ちゃんが誘拐され発見されるまでの3年間の
あの地獄も私は忘れない。
自分を責め、互いを責め、お互い憎しみあって傷つけあったあの地獄の様な日々。
春ちゃんが戻った後、元の日常に戻そうと必死になって頑張った。
頑張ってやっと元の日常が戻ってきた。
でも、どうしても怖かったのがある。
それは春斗の親だということ。
学校で親として参加する行事があっても、私たちは親として参加するのができなかった。
もし、春斗の親として参加して、私たちのファンがまた春斗を誘拐したら・・って
思うと怖くてできなかった。
でもそんな恐れを大鳥監督は見抜いていたのかもしれない。
「監督。私ちょっと陽人さんを引き取りに行かないといけないので、少し出てきてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ。行っておいで。」
私は監督にお礼を言ってマネージャと共に春ちゃんの学校に向かった。
春ちゃんにラインでこれからママも向かいます。ともちろん伝えるのを忘れずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます