第3話 春咲春斗

僕。春咲春斗の幼少年期には光と闇がある。


幼少期の光の部分はずっとパパとママがそばにいて当たり前だと思っていた時期。

パパはミュージシャン。ママは女優だった。


時にパパはギターを弾いたり、ピアノを弾いたり、時にはママと一緒に音楽をかけながらダンスをしたり、そこに僕が加わって一緒に踊りながらたくさん笑う。


時に映画デイだと言って、バケツいっぱいのポップコーンにポテトチップス、そしてガロン単位のアイスを床に並べて、それを食べながらパパとママが好きな映画を見る。

「「ねえ。春くん(ちゃん)はパパが好きな映画とママが好きな映画どっちが好き?」」

と僕にきいて、パパだよな?ママよね??と言って二人が僕を挟んで好きな映画についてプレゼンをする・・。それが言い争いになるけど、キスをしてすぐに仲直り。


そんなキラキラな光に溢れた幼少期を過ごしていた。




でも・・・そんな日に終わりが来る。

幼少期の闇の部分。

その幼少期の闇の部分はあんまり覚えていない。


暗くジメジメした部屋に僕は閉じ込められていた。

と言う事実。


ご飯も毎日三食くれる日もあれば、1日もない生活。

そんな生活。

時々、閉じ込められている部屋の扉を開けるのは「僕の新しいお母さん。」


そして新しいお母さんは僕に毎日愛してるって呟くんだ。


「春くんのこと愛してる。愛してる。愛してる。私以上に愛してるお母さんなんていないわよ?」

僕はその時に間違った答えをしてはいけないんだ。

もし間違った答えをしたら、僕はお仕置きされちゃうから・・。


お仕置きは痛かった。とても痛かった。痛くても泣いたらダメなんだ。

泣いたらもっと痛いお仕置きがくる。


そんな時はお仕置きが通り過ぎることを祈ってる。

神様・・お願いです。早くパパとママと会わせてください。

お願いです。僕いい子にするから。今までずっといい子にするから。

お願い早くパパとママと会わせて・・。

そして亮介くんと美花ちゃんとレン君に会いたいな・・。


僕はずっとずっと願っていた。


そんなある日本当に願いが叶う日が来る。


暗くてジメジメした扉を大人がたくさん入ってきた。


僕はその大人の一人に抱き上げられて、部屋を出た。

そしてすごくすごく眩しい光の中、僕は意識が失ったんだ。




春斗ちゃん誘拐事件。

誘拐されてから、なんと僕は3年間誘拐されていたらしい。


僕はなんで誘拐されたのかよくわかっていなかったけど、後から事件を記した記事を片っ端から読んで、僕は理解をした。


僕は父親のストーカーに誘拐されたらしい。

僕がパパとママと一緒にお出かけしていた時に、パパとママが目を離した隙に、一人でフラフラしてしまったらしい。

その時にそのストーカーが僕を見つけて・・・拉致した。


そして3年後。僕はストーカーの家の地下から見つかった。


その後僕はまたパパとママと幸せな生活に戻りました・・・・。

とはもちろん行かなかった。

パパとママは僕が見つかってから、過保護の度合いが一気に増した。

優しくて甘い監獄生活の始まりだった。


それでも、僕はパパとママの元に戻れて幸せで、その幸せが今度はずっと続くようにってずっと願っている。


9歳で戻ってから、学校生活に戻れるまでは家庭教師にきてもらって、勉強を教えてもらった。

知らない知識を吸収するのは楽しくって、僕は勉強するのが楽しかった。


僕は幼児退行をするようになってしまった。

そんな時はパパとママがすぐにきて抱きしめて一緒に寝てくれるようになった。

それは恥ずかしいけど、つい2年くらい前まで続いていた。




中学校の時に、僕は亮介君と美花ちゃんとレン君に再会した。


小学校の時は学校と掛け合って、保健室で勉強をしていたし、

まだ誘拐事件が尾を引いていたから、学校のいじめとかを親が心配してくれたんだと思う。


三人とは会えなかったけど、僕の家で会ってたくさん遊んだ。

誘拐された時間を取り戻すようにたくさん遊んだんだ。


三人のご両親も実にいい人たちで、僕のことを誘拐された可哀想な子供。親と言う視線で見てこなかったのもパパとママが好印象だったと思う。

そしてパパとママの提案で、僕たちが一緒の中学校高校に通えるようになったんだ。


そして高校一年の時に、僕は彼女と出会って、半年で別れを経験した。




タクシーは家の前で降りた。

案の定ママが玄関の前でうろうろしていた。

僕がタクシーに降りてから急いでかけてきて抱きしめる。


「春ちゃん!!よかった無事で!!亮介君美花ちゃんありがとう。

うちによっていく??」

「いいえ。春ママ。僕たちは今日そのまま帰ります。」

「そう?そうだ!!亮介君も美花ちゃんもこのタクシーに乗って帰りなさい。

運転手さん。この子達を送ってもらえます??」

「ありがとうございます!じゃあまた明日学校でな。」

「うん。またね!!」

僕は亮介と美花に手を振って家に帰る。



「春ちゃん。今日のご飯はパパがスタジオ行って遅くなるから、春ちゃんの好きなものウーバーしようか??」

「いいの??え??何がいいかなあ??」


僕はママのスマホ越しのウーバーの画面を見る。


「本当はお料理したいけど、明後日からママ撮影が開始するから脚本読みに専念したいのよ。だからごめんね。」

「ううん。いいよ!僕相手役やりたい!!」

「まあ・・春ちゃんがやってくれるの??ならママ張り切って覚えなくっちゃ!!」


僕の生活は甘くて優しい監獄だ。

日常の通奏低音の中に誘拐という二文字があるかぎり多分ずっと続いていくんだと思う。













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