Access 3

「――そう、か。お前みたいなのが、出来た……んだな」


 彼はそう言って、僕を見詰めた。僕の眼の高さぐらいの身長、髪は茶色。サングラスの向こうの眼は、多分黒なのかな。玄霞ちゃんと似てるってことは、玄霞ちゃんのお兄さんなのかもしれない。

 僕自身はよく知らないことなのだけれど、どうやら僕以前にも『プロジェクト』があったらしい。児増局の前身、黒白鳥機関。名前と大雑把な概要は聞いたことがあるけれど、そこで製造されたバイプロダクト十二人は全て死亡したと言われていた、はずだ。

 でも玄霞ちゃんは年齢から換算すると第四期だし……このお兄さんは、第一期の人なのかな。だとしたら、二十六歳、ってところだろうか。むー、大きいお兄ちゃんはちょっと怖い、かも。


 僕が作られた場所、児増局と言うのは、表向きには子供を増やすための人工授精を行う公的な機関、らしい。でも実際の所は国民から遺伝子や精子、卵子の類を集めて、その中から『変種』の人間を割り出しているものなのだという。何か違う遺伝子、何か違う、人間の亜種とも呼べる者。大災害を抜けた人類としての新たな可能性を探すために、そして、そこから新たな人類を創造するために、働いている機関。

 一応僕は、その中でも成功例――ハイエンド、って呼ばれているものなのだと、聞かされた。あり得ない奇跡を起こす異能。エスパーの能力ではあるが、まだ未開に近い能力なのだという。仮説としては変型のESPで、因果律に干渉しているとか、なんとか。まあ、僕にはよく判らないことなのだけれど。


 おにーさんはふっと、僕の顔に手を伸ばす。びくっと肩を竦めて眼を閉じるんだけれど、存外にふんわりと頭を撫でられた。慣れない感覚はそれでも気持ち良くて、ちょっとホッとしてしまう。眼を開けて前の顔を見ると、彼は、ふんわり微笑んでいた。

 僕の隣で玄霞ちゃんが怒っている気配。な、なんでだろう、びくびくびく。怖いよー、怖いお姉さんだって嫌いなのに、くすん。


「お前の名前は?」

「え、えぅ。靂巳だよ。あと、白蛇とかも呼ばれる……おにーさんの名前、は?」

「俺は、霧玄。黒鳥霧玄と名乗っている。そこの玄霞の、兄で―― 一応お前の兄、と言うことにもなるのかな?」

「僕の、おにーさん?」

「そうだ」


 彼は、霧玄さん、は。

 僕を抱き締める。

 ぽんぽんっと、背中を叩かれる。


「今日からお前は、黒鳥靂巳。俺達の新しい家族だ。新しい弟だ。新しい親友だ。ここが、お前の帰る場所。お前の家だと、思って良い」

「え、えう」

「おかえり、靂巳」

「た、ただい、ま……?」


 戸惑う僕に彼は笑う。玄霞ちゃんは僕の靴を踏みつけた。きゃいん、叫ぶと、霧玄さんが笑う。僕はえぐえぐと泣き真似。くすんくすん、だったら玄霞ちゃんもすれば良いのに。僕は玄霞ちゃんを抱き締める、二人を一緒に抱き締める。

 家族。知らない言葉だけれど。

 こういうの、暖かくて、嫌いじゃないかもしれない。

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