Access 2
首相官邸前には巨大な自然公園がある。白々しいぐらい綺麗に磨かれたベンチに腰掛けて、私はぼんやりと噴水を眺めていた。立ち上がる水柱、同じ国の中で乾いている人間が居ることになど知らん振りをしている透明。塩素まみれのそれを綺麗だと思う感覚は一切無い。私はただ、眺めている。ただ、それを見ている。ぼんやりと、ぼんやりと。
大時計を眺めれば午後三時。そろそろ官邸に車が帰ってくる頃だろう。日課として向かわなければならない、いつものように何気なく散歩をしている少女として、向かわなければならない。
許される限り常に側にあること、それでしか自分の能力を相手に伝えることができないのだから、兄さんと違って少々使い勝手が悪いのだとは思う。常に近くにあって、そして、そして。
そろそろ行くか。
私は立ち上がる。
「ちょっと待って」
「…………」
「ちょ、ちょっと待ってーっ!」
……。
もしかして私を呼んでいたりするのだろうか、この声は。
と言うか、スカート引っ張られてるし。
振り向けば、ベンチの背もたれの隙間から手が伸びていた。ぷはッと植木から顔を出したのは青年。兄さんよりは年下といった風情、私よりは、多少上だろうか。眼が少し大きめで童顔、あどけない様子。勿論、知らない顔。
知らない人間、しかも男にスカートを掴まれる筋合いは、無い。私は訝しげな顔を作る、とは言っても、元々こんな顔なのだけれど、無愛想だの無表情だの散々言われることではあるけれど、大して気にも留めない。兄さん以外の人間に対して何か感情を見せる必要なんて、無いんだから。
よいしょ、と身体を茂みから出した男は、妙に肌が白かった。日に当たったことがないような様子は、少しだけ昔の私を連想させる。細長い身体、ぱたぱたと葉を払って、ふーッと息を吐く。何をしたいのか、まるで判らない。だから無視して歩きだろうとしたのだけれど――
「ま、待ってってば、おねーさんッ!」
…………。
年上におねーさん扱いされると、反応に困る、かも。
「あのねあのね、僕ってば迷子なんだよっ!」
「……あっそう」
「だから、道を教えてほしいのっ。ね、ここってどこ?」
「……
「あー、そんなとこまで来ちゃったんだ……ね、首相官邸ってどっち側だか知らない?」
首相官邸。
行き先は同じ、だけど。
こいつ、何者なのだろう。
「あんた、何者?」
「僕? 僕ね、
「あっそう。私は黒鳥玄霞。ちなみに私はその首相を今から殺しに行くところなのだけれど、一緒に行くのなら来れば」
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