Access 1
施設の中で知っている場所なんて殆ど無かった。自分達が育てられた育児施設ぐらいしか、判る場所なんて無い。それでも誰かがいるのだということは知っていた。俺は、走る。白い施設の中、知らない廊下、ばたばたと鳴るのは足音。
まだ発達しきっていない身体。すり抜けるのは白衣の職員達。エマージェンシー発令中でごたついているそこで、俺の事なんて誰も気にしない。冷たいナンバーを呼ばれることも、不本意な字名を呼ばれることも、ここでは何も無い。ゼェゼェと呼吸が上がる。気持悪い、気持悪い。
妹達は逃げただろうか、弟達は逃げただろうか。ちゃんと、この真白な施設から逃げ出すことができたのだろうか。自分が起こした『最悪』が、どの程度の可能性を持つものなのかなんて知らない。どれだけあれ得ないのかなんて知らない。だって俺が起こすのは、いつだって『あり得ない』ことばかり。ありえないことなんて、本当に、この世には一つも無いのだと思わされる――それが、俺だ。
自分が何なのかなんて、知りすぎるほどに知っている。最悪を導き出す死神。そういう遺伝子の掛け合わせなのだと、『父親』達は言っていた。『母親』達は言っていた。最高を作り出すはずが、最悪を作り出すことに。そういう、失敗の出来損ない――。
黒白鳥機関。異能種、エスパーの掛け合わせ。新人類創造。総理大臣直轄。
いくつものキーワードの元、俺達は作られた。
十二人の子供達。
十二人目を迎えに行く。
俺は白いドアを開ける。
そこにいたのは、小さな少女。
身体よりも長い髪を足に絡めて、ぼんやりと天井を見上げる子供。
くるぅり。
焦点の合わない眼が、俺を、見た。
「だ、ぁーれ」
「……お前が、『玄霞』だな?」
「だぁ、れー」
「俺は、霧玄。お前の兄だ。立てるか、逃げるぞ。すぐにこの施設は崩壊する。一緒に逃げるんだ」
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