First impressions
ぜろ
天使
「これは――何と表したら良いものか、判りかねますね」
白衣の男は並んだガラスの瓶を眺め、嘆息しながらそう呟いた。
一つの瓶の大きさは、直径六十センチ程度。縦にはその倍ほどあるだろうか。そんな円筒状の瓶が、七つ並んでいた。こぽこぽと、中に込められた水が音を立てる。濁ったそれの中に、赤い肉の塊が丸くなっていた。下部からは幾本ものチューブが垂れ、水底に吸い込まれている。
それは、子供だった。
子供と評して良いのか分からないほどに小さな肉の塊。まだその形すら朧の状態のそれ。灰色の部屋に集まった人々は、それぞれの仕事をこなすために計器に向かいながら――絶えず、それらを視界に入れている。
一人の女性が、男に訊ねる。
「何、って?」
「胎児とは呼べないでしょう、彼らは胎生ではないし、胎内にもいない。これは、一体何と呼んだら良いものなのでしょう」
「あら、そんなの決まっているわ」
女性は化粧っ気の無い顔に薄い微笑を浮かべ、ガラス瓶の群れを見る。子供達を見る。こぽこぽと水音、そして、機械の静かな稼動音。PCをいじる職員の素早いキータッチの音、それでも、そこは静寂の空間だった。
うっとりとガラス瓶の一つに触れて、女性は答える。
「『天使』よ」
「それじゃ――それを作る僕達は?」
「さあ? 神様かしらね」
くすくす。
くすくすくす。
くすくすくすくす。
子供が。
まだ穿たれたばかりの口元を、静かに歪ませて。
笑っていた。
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