第一章 サンクチュアリのアルヴィエ男爵家②
そこからは本当にあっという間だった。
父親が亡くなった日の夜、
返事もできないでいるうちに勝手に
母親の
父親の死を受け入れられず泣きじゃくるニネットは、気がつけばティルとともに庭の
離れと言えば聞こえはいいが、元は物置小屋である。造りは信じられないほどに
後日、使用人用の部屋から簡素な造りのベッドとテーブルが運び込まれたものの、ほかには何もなく、ニネットはとても困惑した。
けれど、
それまでニネットをお
たった一晩で、これまでの
当然、ティルに付けられていた特別な家庭教師やニネットの
まさに、父親の後妻と連れ子に『家を乗っ取られた』が正しい表現である。
父親が万一のときのために準備していた遺言書では『跡継ぎはニネット・アルヴィエ』と指名されていた。
だが、そもそも未成年のニネットの後見人は継母だ。大人になるまでは従うしかない。
(こんな家、出ていきたいと思ったことは何度もあるわ)
けれど、イスフェルク王国でのアルヴィエ
(イスフェルク王国は
町を歩きながらぼうっと考えていたところで
「ニネット様! 今日こそはデートの約束を」
「!?」
見ると、顔見知りの男性がニネットの腕を
顔見知りとはいっても、彼は残念ながらあまり
すかさず、
「何をしている?」
「私はただニネット様とお話がしたいだけで」
「彼女に近づくな」
「!? ひ……っ」
男がもう一度ニネットへ手を
十三歳のティルはニネットと同じぐらいの身長しかないが、幼い頃から英才教育を受けてきたため、身のこなしも力の入れ方も大人の護衛と
ティルに腕を掴まれた男は、悲鳴をあげて逃げていってしまった。
「ティル、ありがとう。ぼうっとしていたからかも、ごめんね。もっとちゃんとする」
「……」
ティルが何も答えない代わりに、遠巻きに見ていた
「うわぁ。男たらしのニネット様だよ」
「今の人、イネスの
「本当に誰でもおかまいなし……最低ね」
ニネットのお礼の言葉には無反応だったティルは、彼女たちの言葉にはぴくりと反応する。そしてニネットを背にして守ったまま、今度はそっちを
「……今なんて言った?」
「「「!!!」」」
あまりの
かと思えばまだ話し足りないことがあるようで、少し離れた場所でまたひそひそと
「あの子かっこいい……っていうかきれいだよね」
「ダメだよぉ。ニネット様のものだもの」
「
はっきりとは聞こえないが、恐らくこんなところだろう。
どれも、これまでの人生でニネットが何度も言われてきた言葉だ。
(私だってこんな体質は
すっかり慣れてしまったニネットは遠い目をする。
実は、ニネットは少し
そのせいで、こんなふうに『男を
(……だけど、ティルがわかってくれるからそれでいいの。誰か一人でもわかってくれればいいし、それが大事な弟分のティルなら
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