第十二話


 ベッドにテーブルを近付け、太郎はベッドに座る。

 椅子にはハンナに座って貰う。

 太郎が煙草に手を伸ばし一本取り出す。

「この世界にはこう言うの在るのか?」

「……それってシガーですか?少し違うみたいですけど、火を点けて煙を吸うんですよね?」


 そうだと答え、煙は平気かと聞くと、村長さんが吸っていて、祝い事がある度にお酒とシガーを村の皆に配るらしく、ハンナの爺さんや父親も偶に吸っていたそうだ。

 たた、やはりシガーは高いらしく、なかなか平民が自力で買うことが出来なかったらしい。


 ハンナの許可を貰い、煙草に火を点けて煙を吸う。

 甘い香りが部屋を満たす。


「そのシガー、とても甘い香りがするんですね。村長さんのシガーは何か生臭くって苦手でした」と、ハンナがわらう。

「まぁ、煙を吸わないのが体には良いらしいが、俺は止められなくてな」


「ハンナには俺が"迷い人"だと話したよな」


「はい」と、ハンナは肯く。

「これはハンナも知っている"辣腕"のマシュタールから聞いたんだが、"迷い人"には特殊な知識や能力があるそうだ」

 

 太郎は煙草を吸う。


「その知識と能力が俺にもある」

「………はい」


 太郎はハンナに次元マーケットの事、太郎のいた世界の物を買うことが出来る事を話だ。


「ハンナからは見えないが、今からそれを見せる」


 太郎はマーケット画面を呼び出し、金貨を一枚画面に投入して、商品を選ぶ。

 太郎の目の前に小さなカップが現れた。落ちる前に手で掴みハンナの前に置く。


「…何ですかこれ……」

「蓋を開けて食べてみな。このスプーンで掬って食べるんだ」


 ハンナが恐る恐る手を伸ばしカップに触れ直ぐに手を離した。


「冷たいですけど……」

 

 そう言う食べ物だと説明すると、ハンナはカップの蓋を取りスプーンで掬い、口に入れた。

 

「!!~な、何ですかこれ!冷たくて、甘くて、美味しいですよ…」


 ふむ。流石ゴ◯ィバのストロベリーチョコチップ入りアイス……いや、俺は食ったこと無いが。

 食べ終わったハンナは"ありがとうございます。美味しかったです"と言った。


「こんな感じで色々買う事が出来る。食べ物、衣類、道具。それに、俺がいた世界の武器もだ」

「太郎さんの世界の武器……」


 太郎は革袋からお金を取り出し、九十万少しあるうち、金貨一枚を残し画面に投入する。

 画面を操作して太郎の目の前に現れたのは…


「……何ですかそれ?」

「向こうの個人用武器で"拳銃"と言う」


 太郎はマガジンを抜いて、一緒に購入した9✕19㎜のパラペラム弾を装填する。

 9✕19㎜パラペラム弾は多分世界で一番出回っている弾で、100発梱包が20ドル程で手に入る。

 拳銃は少し前迄自衛隊で使われていた拳銃だ。


 弾を装填した太郎は立ち上がり、宿の窓から隣に広がる空き地に向い一発撃つ。

 パンッ

 乾いた音がする。

 弾倉を引き抜き、デコッキングレバーを下げる。


「……何ですかそれ…凄い音しましたけど…」


 太郎はベッドに腰を掛けて弾丸をハンナに見せる。


「この金属の塊が、この筒から目で追えない速さで飛び出し相手の体を破壊する武器だ」

 

 この武器を普段使う気は無いが、いざと言う時に備えて携帯する事を伝える。

 そのまま画面を操作してハンナ用に同じ拳銃とホルスターを二つ。

 そしてこれもハンナ用に、軽量ボディーアーマーと、フード付きコートを買う。

 見たことも無い品物にハンナは目を丸くする。

 拳銃に弾を込めてロックしてからホルスターに収める。


「ハンナ。立ってみて」


 ハンナは肯いて椅子から立ち上がる。

 太郎はハンナに軽量ボディーアーマーを装着する。

 頭から通し、前後のアーマーを脇のベルトで止める。

 次にホルスターを左脇に装着する。


「どうだ?動きに問題あるか?」


 ハンナは体を捻ったり傴んだりしてから"大丈夫。革鎧より軽いですね"と評価する。

 最後に装備を隠す為にフード付きコートを渡す。


「わー凄く高そうなローブですね」


 まぁ、実際はそんなに高くは無いが、A◯KASHAのロングコートは質が良い。


「拳銃の使い方は明日ダンジョンで教えるけど、基本的には今迄道理の戦い方をしていくつもりだから」

「わかりました…太郎さんもですか?」


 太郎はニヤリと笑いながら肯く。


「剣で戦うつもりだ。何れは元の国の剣を買うつもりだが、高くて今は買えん」

「そんなに高いんですか?」

「安いのは大金貨五枚程で買えるが、本当に凄い奴は白金貨が一枚必要だな」

 

 白金貨と聞いてハンナは無言になってしまった。


「そう言えばハンナ。マジックバッグっていくら位するんだ?」

「マジックバッグですか……あれは普通に売ってません。買えるとすれば、王都で三月に一度開催されるオークションくらいでしょうか…」

「他に手に入れる方法は?」

「C等級ダンジョンから極稀に出ると聞いた事があります」


 成る程と太郎は呟く。


「何れ手に入れたいな」

「そうですね。買うとなったら物凄い金額でしょうからね…」


 その後何回か装備を外したり付けたりハンナが覚える迄繰り返した。


「太郎さん、もう大丈夫です」


 太郎はベッドに腰掛けふと、気付いて画面を操作する。

 太郎はニヤリと笑う。

 

「ハンナ」

「はい…」

「俺の世界の女の下着見てみたいか?」

「…………下着ですか……ここの下着と違うんですか?」

「いや、俺はこっちで女の下着見たこと無いからわからないが、多分全然違うと思うぞ?」

「………み、見せてもらって良いですか…」

「ああ、取り敢えず俺の見立てで、選ぶからな」


 太郎は画面を操作して下着を選んで出す。

 テーブルの上に置かれた下着を凝視するハンナ。


「手にとって良いですか?」

「ああ」


 ハンナはショーツを手に取る。


「凄い……スベスベだわ…」


 クックック…そりゃそうだろ、なんせシルクだからな。

 ハンナはもう一つの下着を取り上げじっと見つめる。


「それはブラジャーって女の下着だ。胸を押さえる下着だよ」

「胸を……」

「こっちの世界であるか知らないが、ブラジャーはちゃんと着けとくと歳をとっても綺麗な胸の形を保てるって聞いたな」

「ほ、本当ですか!」


 凄い食いつきだな……


「着けてみるか?」

「良いんですか!」


 構わないと太郎が言うと、ハンナはその場でさっさと服を脱ぎ出したのだ。


「ま、まて!」

「え?はい……」

「何でここで着替える………」

「………え?何でって…?」

「男の前で恥ずかしく無いのか?」

「あー……御免なさい。冒険者やってから何処でも直ぐに着替えなければならないから、つい……」

「うーん…そうなのか……まぁハンナが気にしないなら良いんだが…」

「あ、あの…隣で着替えてきます…」

 

 そう言って下着を抱えハンナは部屋を出ていった。


 暫くしてハンナが部屋に戻って来るが、手にはブラジャーを持っていた。


 ああ、やはり着け方が分からないのか…


「あの……これ着け方がわからなくて…」

「だと思ったよ。ハンナそれかしてみな」

「は、はい」

 

 太郎はブラジャーを受取り、先ずホックの止め方をハンナに見せる。


「あー…この金具で引っ掛けるんですね…」

「まぁ、俺だとサイズ的に合わないけど途中迄はやれるから見てな」

「は、はい」


 ストラップに腕を通し、調整してからバックベルトを背中に回す。


「俺じゃちょっと届かないな。まぁハンナなら届くから、後ろ手でホックを止め、高さを調整したら、前かがみになってブラジャーのこの膨らみの部分に胸を押し込む」

「……押し込むんですか…」

「そう、押し込む!その時前のストラップの付け根を摘みながら上から手を回して脇から胸の肉を寄せて詰め込む!」

「は、ハイ詰め込むんですよね…」

「まぁ、こんな感じだ。自分でやってみな」

「はい、あのいちいち戻るのも何ですから、太郎さん後ろを向いてくれますか」

「ああ、初めからそうすればよかったな」


 そう言って太郎はハンナに背を向ける。


 暫くゴソゴソしていたハンナの声が聞こえてきた。


「た、太郎さんもう平気です。これ……凄いです。私こんなに胸あったんだ……」


 太郎が振り向くとハンナが下着姿で立っていた。


「下のベルトはキツくないか?」

「丁度良いです」

「動きにくく無いか?」

「少し胸がキツイ感じですが、多分初めて着けたからだと思います」


 改めてハンナね全身を見る。

 うん、眼福、眼福。


「あの、この下着貰っても良いんですか?」

「ああ、サイズがあってるなら替えの下着も何着か買っとくよ」

「ありがとう御座います。でもこれ、物凄く高いんじゃ無いんですか?こんな生地…」

「拳銃よりは全然安いよ」

「…………………」


 太郎は五セット程色とデザインを変えて購入してハンナに渡した。


「太郎さん有り難うございます」

「明日から本格的にダンジョンに潜るから、ゆっくり寝て体を休めてくれ」

「は、はい。……太郎さんおやすみなさい…」


 そう言ってハンナは自分の部屋に戻って行った。


 太郎は椅子に座り直し、マーケットで缶ビールを購入してテーブルに置く。

 ……多分若い頃の姐さんもあんな感じだったんだろうな…

 プルタブを引き上げ、太郎は冷えたビールを喉に流し込む。


 ………今度こそは……


 太郎は暗い天井を見上げ、ゆっくり目を閉じたのだった。

 

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