第十三話


 朝のギルドは混雑していた。

 何時も、こんな感じなのかとハンナに聞く。


「はい。朝は新しい依頼書が貼り出されますから、良い依頼を皆取りたいですからね。それに、今回青銅ダンジョンに制限が掛かったから多分その影響も…」


 ハンナが一番左の受付に向うと、女の冒険者が近付いて声を掛けてきた。


「ハンナ、パーティー残念だったな」

「はい……」

「まぁ、あんただけでも生き残ったんだ。運に感謝しないとな」

「はい。有難うミランダ」


 ミランダと呼ばれた戦士系の女が太郎を見る。


「ところでハンナ」

「はい」

「そこのおっさんは誰だい?」


 おっさん……確かにおっさんだが…


「え……太郎さんはダンジョンで私を助けてくれたんです。命の恩人なんです」

「ふーん………で、もしかしてハンナ、このおっさんとパーティー組んだのか?」

「はい……」


 ミランダがジロっと太郎を見る。


「ハンナあんたまさか…」

「え?違います。ミランダが思ってる様な事は何も有りませんから」

「へー……ん?…ハンナ、あんたやけに良いローブ付けてるな…」

「…………太郎さんに貰いました…」

「あー?やっぱこのおっさん!」

「違う。違う。違うからー!本当に違うのミランダ」


 太郎に向かって来ようとしたミランダを必死に抑えるハンナ。


「ふん……まぁハンナがそこまで言うなら……」


 それまで黙っていた太郎が口を開く。


「ハンナとパーティーを組むことになった太郎だ。君はハンナの友達か?」

「まぁ…そうだけど。あんた、本当にハンナの体目当てとかじゃ無いんだろうね?」

「下心が有るかと聞かれればあるぞ?」

「テメェ!」

「待って待ってミランダ。大丈夫だから!」

「むーん……」

「まぁ安心しろ。ハンナを死なせる事だけは絶対にしないからな…」

「………………そうか…本当だな?」


 "ああ"と肯き「送金の手続き終わる迄椅子に座ってるから」と言ってその場を離れた。


 その後ミランダはハンナに、二言三言話すと離れて行った。


 

 少しするとハンナが太郎の前にやってきた。

「手続き終わりました……あの、さっきはミランダが…ごめんなさい」

「気にしてない。仲間思いの良いやつじゃないか」

「はい。ミランダはとっても親切なんです」

「そうか………因みに女同士で…」

「ありません!」

「そりゃ結構……さぁ行こうか」

「はい」


 太郎とハンナはギルドを後にした。



 


 パンッ

 

「続けて」 

「は、はい」


 パンッ パンッ パンッ


「止めて」

「はい…」

「左横にあるレバーを握ってる親指で下げて」

「はい」


 ハンナは、言われた通りデコッキングレバーを引いた。


「そう、その状態でホルスターに戻す」


 ハンナ拳銃をホルスターに戻した。


「基本的に拳銃を使わないけど、一応覚えて貰った」

「はい、大体覚えました」

「ハンナの拳銃には残り五発の弾丸が入ってるから、もし使って弾丸が一発になった時教えてくれれば良い」

「わかりました」


 この拳銃はマガジンキャッチがグリップの下にある為、マガジン交換を両手で行わなければならないのが、不便と言えば不便だったのだが、太郎には想い出深い拳銃なのだ。


「さて、そろそろダンジョンを本格的に行くか」

「はい」 


 基本的に初手をハンナの水魔法で相手を撹乱し、太郎が飛び込んで止めをさす流れだ。

 敵が集団の場合は逆に太郎が先に飛び込み、ハンナがサポートとして魔法を撃つ作戦だ。


 昨日と同じ様に右壁沿いに進む。


 少し進むと例の蜘蛛がいた。

 確かプレディースパイダーとか言ってたな…


「一匹だけみたいだからハンナが」

「は、はい」


 呪文を唱え、手を翳すと蜘蛛の身体を水球が包み込む。

 直ぐに太郎は飛び出そうとして足を止めた。

「太郎さん?」

「いや………もしかすると一匹ならこのまま死ぬんじゃねーかあの蜘蛛…」

 

 蜘蛛が水球に包まれた体の水を払い除けようとバタバタと暴れている。

 ………一分経過…… ……動かなくなった。


「……一匹ならいけましたね……」

「ああ。しかし、良く体全体を水に包んだね。蜘蛛が呼吸する器官が体にあるの知ってたのか?」

「え!……知りませんでした…わたし余り細かい操作出来ないから……」


 ああ、そう言うことか。

 暫くして靄と消えた蜘蛛の跡には魔石が転がっていた。


「よし、んじゃサクサク行くか!」

「は、はい」


 

「やはり蜘蛛多いな……」

「そうですね。これじゃ初心者向けじゃ無いですね……」


 太郎達は二層に降りる階段の前まで来ていた。

 ここまで倒した魔物は蜘蛛六匹、ミミズ三匹、鼠十三匹。

 そこそこの稼ぎだ、昨日の査定額なら、銀貨30、銅貨80で…三十万八千…


「ハンナは疲れてるか?」

「いえ、まだ平気です」

「よし、階段で、休憩して二層行くか」

「はい。大丈夫です」


 太郎てハンナは階段に座り休憩を取る。

 ハンナは目をキラキラさせながら栄誉補給ゼリーをチュウチュウと吸っている。


「これ凄いですよ太郎さん。何ですかこれ!」

「まぁ俺の世界で売ってる体力回復薬的な飲み物?だな」

「高いんでしょうか?」

「銅貨二枚しないな…」

「なんかもう、やる気出てきました!」

「そうか……そりゃあ良かった……」


 ハンナに二層の情報を聞くと、一層と余り変わりなく、ミミズ(ミルウオーム)の代わりにジャイアントリーチが出るという。

 本来ならホールラットとジャイアントリーチの二種類なんだろうが……


 ゼリーを飲み終えた容器を、鞄に詰め込む太郎を見たハンナが、いらない物はダンジョンの端に固めとけば吸収されると教えてくれた。

 何と便利なダンジョンなんだ!


 太郎達は階段を慎重に降りて行き、二層へと突入する。


 さて、何が出てくるやら……

 二層の作りも一層と同じ石で出来ていたが、地面は土だった。

 少し進んで行くと通路に人の身の丈程ある花が咲いていた。


「……あれは魔物なのか?」

「多分魔物です……確か何処かで…」

「んー取り敢えずぶった斬ってみるか!」

 

 太郎は腰を落としながら花に向って駆け出した。


「あ!待って太郎さん!!」


 お!。太郎は急停止し、ゆっくりと下がる。

 

「あれはファイアープレアンと言う魔物です」

「強いのか?」

「弱いのですが…刺激を与えた瞬間花粉を撒き散らすんです…その花粉に触れると火傷を」

「……なんだと……どうすりゃ良いんだ…」

「確か火の魔法でこんがり焼くとかだと聞いてますが…」

「……無いよな火魔法…」

「……ないです火魔法…」


 ハンナの水魔法で花を包んで、そこを太郎がぶった斬るのはどうかハンナに提案する。

 

「良い作戦かもしれないけど、花粉が飛ばないか不安です…」


 確かにそうなる可能性はあるな……


「あーじゃあ、拳銃でとおくから撃って、ばら撒かれた花粉をハンナの水魔法で洗い流せば良いんじゃないか?」

「あ、それならいけそうですね」


 太郎が鞄から拳銃を握り狙いを定める。

「撃つぞ」

「はい」


 パンッ ハズレ。パンッ ハズレ…

 パンッ

 三発目で花弁を撃ち抜くと、黄色の花粉を撒き散らかしながら、ゆっくりと巨大な花びらが地面に落ちた。

 そこにハンナが天井辺から水を降り注ぐ。

 ………………大丈夫そうだ。


「……多分平気だと思う」

「はい……大丈夫だと思います」


 徐々に萎れる花の横を息を止めて通り過ぎて行く。


「なぁ……複数で現れた時、花を先に倒して花粉を撒き散らかしたら、他の魔物はどうなるんだ?」

「……さぁ…どうなるんでしょか…」


 うん、その場面になったら試してみるか…


 太郎とハンナがダンジョンに潜ってから、三時間ほど過ぎていた。


「戻る時間も考えて……そろそろ戻るかハンナ」

「はい」


 結局二層では花が三体。ホールラット七体。ジャイアントリーチ三体と言う成果だった。


 花の魔石の値段は不明だが、今日もそこそこの成果だった。どうせ帰りにも魔物と鉢合わせるだろうし……


 

 太郎とハンナが地上に出た頃には日がかなり傾いていた。

 

「結構帰りに時間かかったな…」

「はい……行きよりも魔物が多かったです」


 最終的に花5、ラット34、ミミズ7、リーチ6、蜘蛛14が今日の成果だった。

 町に戻る馬車が丁度出る時間だったので、太郎とハンナは急いで乗り込んだ。

 馬車には太郎達以外の客はいなく、寂しいものだった。


 (当分こんな感じか……それよりも、火魔法が欲しいな…花に時間掛かり過ぎる)

 

 どうしたものかと太郎は考え込むのだった。


 

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