詩 エピソード2 数奇な物語の幕開け

私が通う県立K高校は、この辺りではごくごく普通のランクの共学の普通高校で、通う生徒もみんな、私と同じ中間富裕層の生徒ばかりで、卒業生は、7割進学、3割就職といった学校なんだ。大抵の人は、東大や京大みたいなエリートの大学に行くのはまれで、大抵、少しお金の力を使ってFランクの大学に行くのが当たり前となっている。私も、そろそろ本腰を入れて、受験勉強しなくてはならないのだけど、いまいち、乗り気じゃなくて、よくある


― 明日本気出す ―


を、日々繰り返している。ダメだとはわかっているよ。でもね、嫌でしょ、机に向かって参考書広げて勉強なんて、息が詰まる。ムリムリムリ。別に今の私、何か憧れる仕事に就きたいと、なーんにもなくて、ただふわっと、大学に行ったら4年間また、思う存分青春をエンジョイできるなぁと。私をアリとキリギリスの話に例えにするなら、絶対キリギリスタイプだと自覚はしてるよ。でもね、憧れるよね、キャンパスライフ…いいなぁ


と、ボケーっと、バスに揺られて、学校前の停留所に着いて降りると


「うたーーー!」


と、校門でまるで小学生の様なちっこい姿をした少女がブンブン手を振っていた。


この娘は、田上 加奈 私の親友で小学校からの腐れ縁、そう私の人生の相棒なのだ。


「かなちーーーん!」


と、私が応える様に大きく手を振り返して、叫ぶと、かなちん、まるでロケットの様に、長い髪をなびかせながら走りこんで、私の胸に飛び込んできた。


そして、私の体を、まるでスケベおやじの様に撫でまわしたり、匂いを嗅いだりしながら、かなちん


「はぁ、いいなぁ、私もうたの様な体が欲しい…いいなぁ…」


と、言って、視線を自分のぺったんこの胸を見て、またセクハラを再び続けようとしたので、私は、かなちんの首根っこを掴むと


「かなちん、いい加減にして、みんな、私たちの関係誤解されちゃうよ。ほらみんなの目を見て、百合百合が好きな女子が、鼻息荒くして見ているわよ。かなちんは、それでいいかもしれないけど、私は、ピュアな高校生活送りたいの。毎朝同じこと言っているけど判らないの?」


「だって、この体がいけないの!この胸と足とお尻が!」


と、言いながら、私の胸と足とお尻を撫でまわしてきた。今日はいつも以上にセクハラが激しいので、無礼千万な、かなちんの両腕を拘束すると、かなちんを睨みながら


「かなちん、何かあったの?それとも、また小学生に間違われたの?」


と、かなちんの弱点の小学生というキーワードをセクハラのお返しに言うと、かなちんはその場でオンオン泣き出して


「だって、私が学校に行こうと歩いていたら、お巡りさんに、お嬢ちゃん、小学校はそっちじゃないよ。道に迷ったの?お巡りさんが連れて行こうか?って言われたのよ!私は高校2年生よ!世間で言うJKよ!JKが小学生に間違われるなんて、どういう冗談よ!全部、うたみたいな体がいけないのよ!世の中みんな私みたいな体になればいいのに…」


最後は、よく聞く、みんな死んでしまえばいいのに…の厨ニ病かなちんバージョンが零れてぐったりとした。そして、お決まりの鬱モードに入ってしまって、うずくまったので、私はかなちんを抱きながら、やれやれと思いながら学校へと入っていった。


私とかなちんは、同じクラスなので、私は、2年A組の自分の教室に入ると、教壇の前のかなちんの席…かなちんが小さいので、特等席なんだけど、本人はかなり嫌がっている…にかなちんを座らせると、私は窓側の一番最後列という、まさにベストポジションにある自分の席に座ったとたん、校内放送で


「2年A組の星野 詩 さん、至急職員室までお越しください。」


と、いつも、人を見るたびに、くどくど小言を言うことが有名で本当は頭が禿げていて、かつらを被っているという伝説がある教頭先生が私を呼び出した。クラスメイトが全員私に視線を向けると、私も一体何事かと、頭の中が


― ? ―


で一杯になった。私は、ホームルームが始まる前の、教室を抜け出して、何か嫌な予感によって心が黒く染まりながら職員室へと急いだ。


私は、職員室へと着くと


「失礼します!」


と、内心とは裏腹で大きな声で入ると、私の存在を見つけた教頭先生が


「星野さん、お家から緊急の電話が来て、すぐにお母さんに連絡するようにとのことです。」


といつもは、その後、ぶつぶつ余計なことを言う教頭先生が真剣な表情で何も言ってこないので、私はさらに不安に感じながら、頭を下げて、職員室を出た。そして、私はスマホを出して廊下の隅でお母さんの携帯に電話をかけた。


― プル ♪ ―


なんと、ワンコールでお母さんに繋がった。それによって、事の次第が、尋常じゃないと、私は否が応でも感じた。電話口に繋がったお母さんは


「詩?詩でしょ。」


「そうよ、お母さん何があったの?」


「とにかく落ち着いて聞いて頂戴。」


お母さんがこのセリフを言うのは、いつも良くないことの前触れだ。私は、どんな良くないことが起こるのか、自分に落ち着くように言い聞かせて


「わかったわ。それで何があったの?」


「お父さんがいなくなったの…」


私は、我が耳を疑った。あの大好きで誇らしいお父さんがいなくなった。


これが


― 私の 数奇な物語 の幕開けだった ―

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