宇宙 エピソード2 なすべきこと

僕は、蟹座の守護者の家を後にすると、独り黙々と薄っすらとエメラルドグリーンに輝く軌跡を追った。僕は、どうして影としてこの星海にいるのか?そして、なぜ僕は自分を失ってしまったのか?疑問は、まるで心の中から、まるで黒く淀んだ泥のように沸々と湧き出てきた。蟹座の守護者は、本当は、すべてを知っていたのかもしれないが、彼は多くを語らなかった。


彼は、言っていた


「自分は、この星海と現実の見張りと案内が仕事」だと…


その点、彼は忠実に仕事をこなしたと言える。彼は確かに、この星海に降り立った僕を、見つけて、星見の眼鏡を与えるという、見張りと案内を確かに行った。


後は、僕はこの旅で、真実を自分の力で導き出すしかないのだ。


― そう 自分 を見つけて ―


僕は、目を引くような草木や川などは一向にない、荒野をひたすら歩いた。途中、丘や谷などはあったが、生命がいそうな感覚は全くなく、僕はただ孤独に耐えながら歩いた。ここで、小鳥とか、兎みたいな、小動物などいれば心が少しでも休まるのだろうけど、本当に一切この星海には、存在していなかったみたいだった。僕ができることは、この星見の眼鏡を通して、自分の後を追うだけなのだが、先の見えない、旅路に徐々に僕の心に焦りが現れてきた。


― 僕には あと 12日 しかない ―


それが、まるで僕に対する呪いの様に心を徐々に黒く染めていった。それと、同時に、本能が急げと警鐘を鳴らしている。その中の、孤独…もう、諦めて、星となって空に輝こうかと思ったけど、頭の中で、本当に大切にしていた大事なことをすっかりと忘れてしまった様なもどかしい感覚が心の中に引っかかっていた。僕は、それが気がかりで、やれることだけはやってみよう、星になるのはその後でも十分だと思って、足を前へ前へと進めていった。


どれくらい歩いたのだろう?星海には、空には太陽や月はなく、ただ星々が輝いているだけなので朝や昼の感覚がなく、時の経過が判らないけど、体感で数時間は歩いた気持ちだけはある。そんな中、不意に背後に何かの気配を感じた。


「お前は、どこに行こうとしてるのだ?」


僕は、数時間ぶりの人と話せると思って振り返ると、巨大な獅子が今まさに、僕を喰わんとしてるように、大きな口を開けて語っていた。


灰色の荒野の中に、恐らく本来なら眩い黄金の輝きが放っている筈なのだろう、巨大な獅子は、僕の目には、漆黒の体から禍々しく闇が放っていた。


僕は、獅子から距離をとって、身構えると


「僕は、失った自分を探しに旅をしているのです。」


「ほう、影が自分を探しているのは見れば判る。その後、お前は自分を見つけた後どこへ行こうとしているのか、聞いているのだ。」


僕は、今まで自分を求めてばかりで、その先のことなど考えもしなかった。


「お前の答え次第では、私はお前を喰わなくてはならない。影よ、お前はこの旅の末に何を求める?」


僕は、じりじりと後ろに下がりながら、必死に考えた。


― 僕が 自分を 見つけた後 なすべきことが 何か? ―


ふと、僕は、空を見上げた時、一筋の流れ星が駆けた。


その時、一瞬、僕の脳裏に、あどけない笑顔をしたどこか懐かしい気持ちにさせる少女の顔が映った。


― この娘 は 誰だ? ―


混乱しながらも、僕は徐々に疑問が確信に変わった。僕は、自分を見つけて一つになったら。この娘に会わなくてはならない。絶対に。


そして


彼女に大切な何かを伝えなくてはならない。とても大切な何かを…


僕は、獅子に向かって、強い意思を持って、視線を向けると


「僕は、自分を見つけたら、大切な人に会って、伝えなければならないことがあるです。それが、何なのか、今はわかりません。」


と、はっきりと告げると、巨大な獅子は、グルル…と喉を鳴らした後


「とりあえず、合格だ。影は、本来、意志や感情をほとんど持たない。故に自分であったころの願いや思いは持ってないのが常なのだ。お前は、不完全とはいえ、自分であったころの願いがまだ持っている。この末の旅路は、それをくれぐれも忘れないように。」


「合格?あなたは一体何なんですか?」


獅子は、さっきとは打って変わって、穏やかな目つきで


「私は獅子座の守護者。伝説ヘラクレスの12の試練に基づいて、影が自分を求めて探す旅に与える第一の試練を与えるのが私の役目なのだ。そして、それを通して、自分が本当に望んでいるのが何で、どうしたいのか?星海で何を求めているのか?それを、考えるきっかけを私は与えているのだ。星海には、意思がある。故に、この試練が成さないと、星海は、その人を認めない。そして、星海の意思により守護者である私は、従うしかない。後は、星海が認めない以上私は、喰らうしかないのだ。そもそも、影など食べても美味しくも何もないのだがね。」


と獅子座の守護者は、グルルと再び喉を鳴らすと


「星海の意思によりお前に、一つ餞別を送ろう。」


と、言って、獅子座の守護者は、自身の首に飾っている装飾具から、水晶みたいな球体を二個差し出して


「これは、この星海の地図とコンパスだ。これを見て、自分がどこいるのか判る。お前の旅路が、自分の望みが成せることを願って。」


と、言った後、獅子座の守護者は、猛々しく大きな声で吠えた。

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