詩 エピソード1 ただの女子高生だもの

私は、パンと手を合わせて、大きな声で


「いただきます!」


と、朝一のスタートダッシュを決める為のエネルギー補給として私は、生卵割ってご飯にかけて、ちょっと醤油を垂らして、大好物の所謂TKGを作った。おかずはもちろんお母さんお得意の、鮭の塩焼きとみそ汁というベストオブベストの朝食。


うん!美味しい!


私は、やっぱり日本食はいいねぇ…と感慨深く思っていると、視線の先にあるテレビでは朝のニュースの占いコーナーが始まりそうだった。


危ない、危ない。あまりゆっくりしてられない。


そして、私は再び手を合わせて


「ごちそうさまでした!」


「お粗末様。」


と、お母さんは、穏やかな笑みで返してくれた。


私は、歯を磨きながら


「お父さん、また、会社で泊まって働いているの?」


と、最近、仕事が忙しいのか、滅多に帰ってこなくなった、お父さんのことを訊くと


「そうねぇ、なんでも、地方の公共事業が受注できて、忙しいみたいね。」


「大丈夫なの?最近、働き方改革で色々うるさいんでしょ?」


「管理職にもなると、そうも言ってられないみたいねぇ」


と、母と娘のここ最近のお決まりの言葉のやりとりが終わると、私はうがいをして鏡を見ながら、最終チェックを行った。


髪よし


顔よし


服よし


うん、問題ない


と確認すると、私は学生鞄をひょいと拾い上げると、玄関のドアノブを開けると同時に大きな声で


「行ってきます!」


と、私の一日が、今日も勢いよく始まった。


私の住んでいる街…関東圏のベットタウンのK市は、周りはみんな中間富裕層。そして我が家も、もちろん中の中。お父さんは、中堅クラスの建設会社の課長で、仕事が追われてくると、会社に寝泊りするのは昔から日常茶飯事だった。最近だと、働き方改革で帰らなければならないけど、まるで、団塊世代の学生運動員の様に、どんなに言われても、自分の意志は何が何でも通す人だった。お母さんの話だと、今時珍しい、昭和の仕事術の人で、ハラスメント何てどこ吹く風で、怒鳴ったりするが、暴力やセクハラはしない、真面目一本の人と、もっぱらの噂で、煙たがられるどころか、かえって重宝されているらしい。私もそんなお父さんが誇らしかった。


お母さんは、専業主婦で、お父さんとは職場結婚だったらしい。時々お父さんがいない夜、お母さんは私とテレビを見ながら、お父さんのプロポーズのエピソードをことあるごとに語った。


― あの時のお父さん、面白いのよ…私の顔を見つめたと思ったらすぐ目をそらしてもじもじ、しながら、口をパクパクさせるのよ。そして、顔を真っ赤にして黙っていたと思ったら、急に私に向かって指輪を差し出して、一言


もらってくれないか?


なのよ、あの時のお父さん、スマホがあれば動画で撮影したいくらいだったわよ ―


と、明るい口調で語ったけど本当は寂しいのは、私には判っていた。だって、娘だもん。私は、今、高校二年生で、この前誕生日だったから17歳。17年も一緒に生活していれば、判ってしまうもの。お母さんの気持ち…


だから、私は黙って、お母さんの話に相槌を打ちつつ、ニコニコしながら。


―ウソ、信じらんない。あのお父さんが、ウケる―


と、いつも繰り返していた。


お父さん、お母さん寂しがっているよ…早く帰ってこないとお母さん、お父さんの恥ずかしいエピソード周りに全部ばら撒くよ、だから帰ってきて


と内心、職場で働いているお父さんに、テレパシーを何度送ったことか、でも虚しく、私の祈りは叶ったことは今まで一度もなかった。


でも、お母さんも私もお父さんが一生懸命働いて、今の生活があるのはわかっていたから、私たちはお父さんに休みだから、遊びに連れて行ってとか、あまりせがんだりしなかった。


ただ、お父さんは、よく休みの日、お母さんと私を連れて、神保町の古本街に連れて行ってくれた。私は、本を読むより運動が好きだけど、読書は嫌いではなかった。


お父さんとお母さんは、二人とも読書好きだった。娘の私をほったらかして、二人好き勝手に古本巡りをした。お昼過ぎにいつも馴染みの喫茶店でカレーを食べながら、お父さんやお母さんは、今日、獲得した、掘り出し物の自慢大会がするのが毎度の恒例だった。そんな二人を見ては、やっぱり私の親は似たもの夫婦だなって内心ほっこりしていた。


おしどり夫婦の私のお父さんとお母さんは、私の何よりの宝だった。


だって、家族って世界で一番大事で大切でしょ。


そんな、大事な家族にまさかのことが起きるなんて、朝、通学に利用するバスを待ちながら、朝日を浴びてキラキラしている私には、ちっとも思わなかった。


私は、今日イイ日になるって思ったけど、実際のところ本当は今日が、私の旅の始まりとなる前兆が起こる日だった。


判るわけないでしょ、あんなことが起こるん何てだって私、預言者でも占い師でもない


―ただの 女子高生 だもの ―



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