宇宙 エピソード3 願いの代償

僕は、獅子の守護者から、もらった球体上の星海の地図とコンパスを確認しながら、星見の眼鏡で目標の先を考えてみた。


今いる所が、獅子座…そこから軌跡は南東へと続いているみたいだった。


その様子を見ていた獅子座の守護者は、穏やかな声で


「自分が行く道が、わかりそうか?」


「はい、多分、この軌跡は恐らく、おとめ座へと続いていると思います。」


その時、獅子座の守護者の顔が曇り、しっかりと念をおす様に


「本当に、おとめ座なのか?間違いないのだな?」


と、しきりに何度も聞いてくるので、僕は、いったい何だろうと思いつつ、首を縦に振り


「はい、間違いないです、一体何かあるんですか?」


獅子座の守護者は、厳しい目つきで僕を捉えると


「獅子座とおとめ座の間には、よく流星が降ってくるのだ。星の命は永遠ではない。星の意志や願い、また心が尽きたとき空からこの星海に落ちてくるのだ。まれに例外がある、それがお前だ。」


と、獅子座の守護者は、前足で僕を指した。そして、獅子座の守護者は、暫く沈黙した後、僕の様子を見て何かを悟ったのか


「やはり、蟹座の守護者はしっかりと教えてはくれなかったか…星としてこの星海に落ちてくるのには二通りがある。一つは、さっき言った通り、現世での役目を全うした人が星海を通って宇宙へと上がり、星となって現世の人々を見守り、祈る。しかし、星とて永遠の存在ではない。現世の人々への想いや願いが尽きると、流星となって、この星海へと降り注ぐのだ。もう一つは、現世の人が、大抵は星となった人に願いや思いを伝える為に、地上にある宇宙への入り口…星海の扉を開き、自身を流星へと変えてこの星海へと降り落ちる。中には、単なる好奇心などで来るものもいるが…まぁ、故に、現世と宇宙の通り口である、蟹座に落ちやすい。その衝撃で大抵の場合は自分と影と別れてしまいやすい。そして、始末が悪いことに、自分は影が失っていることに気づくことはない。何故ならここには、太陽や月がないのだから自分には影が見えない…己の命が限られているとも知らずにな…そして、自分はこの星海で現世では叶わない願いを叶えるために、旅をするのだ…ああ、話がずれたな…その流星となって降ってくる、役目を終えた星が、主に獅子座とおとめ座の間にある、流星の滝と言われるところに落ちるのだ。そこは、いつも雪崩のように、流星が止まることなく降り落ちて、その場に近づくことさえ困難なのだ…」


僕は、困惑しながら、獅子座の守護者を見返すと詰め寄るように


「それでは、そこを通るだけでも無理なんじゃないですか。遠回りするにしても、僕にはあと12日しかないんです!何か方法がないんですか!」


獅子座の守護者はただ黙って何かを考えているらしかったが、言いづらそうに


「あるにはある…この星海は願いや思いが叶う場所と言われている。しかし、それを叶うためには何か犠牲を払わなければ叶わないのが常なのだ…大きな願いを叶えるためにはそれ相応の犠牲が必要なのだ。そして、流星の滝をしばらく止めるとすれば…例えば、お前の体の一部を犠牲として守護者に捧げなければならないのだ…」


僕は、改めて自分の体をまじまじと見てみた。やはり、影なのか。両手両足があるがどこも真っ黒で、血や肉が通っているようには全く見えなかった。僕は、暫く、考えた後


「わかりました、それでは、僕の左腕を捧げます。それで流星の滝は、いくらか止まることはできますか?」


「それくらいあれば、通るくらいは十分できるだろう…しかし、本当にいいのか?それを失うことによって、自分も左腕を失うことになるのだぞ?」


僕は、獅子座の守護者の言っていることが理解できず、首を傾げてただ黙っていると


「影と自分は一体なのだ。例え離れていてもな…自分が左腕を失えば、影も左腕を失う…その逆もしかり…現世に戻ったときは左腕を失った状態になるのだが本当にいいのか?それに、腕を失う痛さは、軽くはないぞ。」


「それでも、あと12日以内に自分を探さないと、永遠と現世へ帰れないんですよね。例え両手両足があって星になるより、片手で現世にいるほうがまだましです。僕には、なすべきことがあります。」


と、覚悟を決めた顔で獅子座の守護者に向かうと、獅子座の守護者も心得たのか


「あい、わかった、お前の左腕を差し出せ、これより、星海にしばらくの間、流星の滝を止める願いを届ける儀式を行う。あまりの痛さで舌を噛まない様に気を付けるのだぞ。」


僕は、大きく首を縦に振って、獅子座の守護者に向かい、左腕を差し出した。


そして、獅子座の守護者は、ゆっくりと大きな声で


「天を統べる、我らの王よ。今この時、この場所にて、この者の願いを叶え給え。その故にこの者の、一部をあなたに捧げん。すべてはあなたの願いのままに!」


と、祈りの言葉を叫んだあと、その巨大な牙で僕の左腕を噛みついた瞬間


「あああああああ!」


僕は、単なる痛みと同時に心の中の大切何かが傷つき失ってしまった様な、そう、まるで心をごっそりとえぐり取られたような感覚が体全体に走った。


そして、痛みで涙で汚れた僕の瞳に映ったのは、巨大な獅子が僕についていた左腕を咥えていた光景だった。

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