ロボに魔法

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話 だべるロボ

「俺はどうにも気がのらねぇなぁ」

「とは言え、これは決定事項らしいぜ」

「でもよ、ング。プハー。ロボが魔法を使う必要がどこにあるっていうんだい?」

俺はジョッキに入ったオイルを飲み干し店員におかわりを頼んだ。

「実験なんだろ」

「実験って・・・・・・そもそも、魔法使いってのは人間の憧れなんじゃないのか?人間が、あ、どうもありがとう。ングングング。プハー。えーとなんだっけ、ああそうそう。人間がしたいことをロボがしてしまったら本末転倒じゃねぇかって話だよ。だって俺たちロボは人間のしたくないことをするために作られたんだろ?」

俺はメニュー表を見てネジの味噌焼きを注文した。

「だから魔法石の採掘は俺たちロボがするんだろ。しかし、俺も使ってみたいとはおもうな魔法」

「おいおい、お前はロボとしての誇りはないのか」

「誇りっていうか、いい加減採掘ばかりで飽きねぇか?」

「飽きないね、ロボは同じことをすればいいんだ、俺はずっと採掘で満足さ」

俺のテーブルにネジの味噌焼きが届いた。俺は箸でパクと食べ、そのままオイルをグビっと流し込んだ。味噌の辛味とネジのコリコリ食感がもう一口もう一口と手を止めさせてくれない。

「お前は、今日でこの店のメニュー全制覇するつもりか?何が飽きないだ、いっつも違うメニューに挑戦しているじゃねぇか」

「食と職は違うんだスティーブン」

「うまいこと言ったつもりか、だったら俺にも一口くれや」

「しょうがねぇな・・・・・・あれ?もう全部食べたみたいだ」

「なんだよこの食いしん坊が!これはアレだな今日の驕りだな。」

「なんでそうなるんだよ!」

「冗談だよ、冗談。てか俺はなんか甘いもん食いてぇから鉄板ケーキでも頼もうかな」

「なんだよ、この店そんなのあるのかよ、俺も頼もう」

「お前どんだけ食うんだよ!」

結局二体して鉄板ケーキを注文した。そして話はまた魔法石へと戻った。

「しかしあれだよな、魔法石って本来売り物にならねぇから捨ててたのにそれを採掘っていうのは今まで何をしてたというかな、ハァー」

最近覚えた、溜息という奴をスティーブンは吐いた。俺たちロボは感情が顔に出ないから人間からの仕草や行動で伝える方法を学んだりしている。だが俺はそんなことはしない。俺は人間から学ぶつもりはない。なぜならロボだからだ。

「元々魔法石ってのは魔力は宿っているけれど結局採取出来ねぇから意味がないとかじゃなかったか?」

「あれだろ、魔法の化石みたいなもんなんだろ、それで最近分かったのがその素材でロボを作れば魔法が使えるんじゃないかって話だ」

「俺は嫌だな、魔法石で作られるの」

「俺は魔法使ってみてぇから、もし可能なら魔法石入れてもらおうかな」

「だから、お前はロボとしての誇りはないのかよ」

「お前硬いよ。お前の頭は石頭かよ!」

「・・・・・・誰が石頭だ、こっちはロボだから鉄頭だ!」

「どっちみち硬いじゃねぇか!」

「違げぇね」

「ワハハハハ」

「ワハハハハ」

俺たちは人間が言うところの親父ギャグで笑った。他の席から見るとしょうもないと思うかもしれないが、以前こういう時にこうすると楽しいみたいだとスティーブンが言ってやってみた。確かに俺は楽しいと感じた。スティーブンはどうなんだろう人間の真似事をして楽しそうではある。スティーブンは腹を抑えたりして、さっきの親父ギャグがツボにハマったということを表現していた。そんなことをしていると鉄板ケーキが運ばれてきた。するとスティーブンはフェードアウトすることなくスっと鉄板ケーキを何事もなかったように食べた。

「甘いは美味いからな、やっぱり鉄板ケーキは美味い」

「お、そんなに美味いのか?なら俺も早速」

丸い鉄板の上にかかったこの砂糖が入ったオイルが甘くて美味い。そしてこの鉄板も中をあえて空洞にしてフワッと感を演出している。しかし歯ごたえは鉄板らしくパリっとジャギっとして食べ応えがあった。だから俺は美味しいと感じた。

「でも魔法石を埋め込むにしてもなんでも、安い今のうちだろうな」

「ま、成功すれば高騰するだろうが、俺は流行らねぇと思うぜ」

「見た目もただの石ころと変わらねぇもんな、なんかぐにゃぐにゃしたワームみてぇな変な印があるから見分けがつくが、あれじゃあ人間も装飾品としても欲しくねぇわな」

「魔力も大してねぇみてぇだからたくさん使わねぇと役にたたねぇんじゃねぇか?だからスティーブンがもし魔法使いたかったら全身ぐらいじゃねぇと無理よ」

「そうか、でもな魔法が使えたらもう少し俺も食べ物食べて美味いと理屈じゃなく感覚だったり、ちゃんと面白いと理解して笑うことが出来るかもしれねぇだろ?」

「それを求めている時点で十分人間っぽいぞ」

「そうか?でもお前は本当に美味しそうに食べて、面白いと思って笑っている感じがするから羨ましいぜ。」

「・・・・・・バカ言うんじゃねぇ俺の身体は錆びてもロボット魂まで錆びちゃいねぇよ」

「そういうところが、人間っぽいぜ」

俺は笑ってごまかした。店で会計をきっちり割り勘して俺たちは店を出た。辺りは暗く人通りも少なかった。二体で帰っていると公園から少年の声が聞こえた。

「風の精霊よ我が呼び声に答え現れよ!」

すると少年の手から小さな風が現れる。これが魔法である。

「あれが、魔法か。どれどれ風の聖霊よ我が呼び声に答え現れよ!」

スティーブンが真似をして唱えようと風は現れなかった。スティーブンは「なんてな」と言って俺たちは次の曲がり角で別れた。

「また、聞こえるな。」

スティーブンと別れた俺の耳に風の声が聞こえた。俺はその言葉を聞き、辺りに誰もいないのを確認してから手を前へ出した。

「ヒュルッ!」

俺のU字の手から風が現れた。俺は恐ろしくなり走り家へ戻った。そのままベッドにダイブして機能を休停止させて休もうと思った。しかしどうも休停止———眠ることが出来なかった。俺は呪文のように唱えた。

「俺はロボだ。俺はロボだ、俺はロボだ、俺はロボだ・・・・・・」

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