第4話

俺は、早坂スポーツセンターで、野球の練習をさせてもらっている。でも、何のために?俺は、野球部に入る積りもない。当然、試合になんて、出る積りもないのに。。ただ、早坂さんのところで、ピッチング練習をしているとき、、そのときだけは、、この重たい気分を、、少しだけ、忘れることができる。。ただ、そのためだけに、俺は、投げている。早坂さんの構えるミット目掛けて。。ただ、黙々と、、投げている。

今日、水曜日は、早坂スポーツセンターの定休日。で、俺は、K高のグランドにいる。。別に、野球の練習がしたいわけじゃあないけど、、野球部の練習を観ている、、こっちの方は、、重たい気分が大きくなるだけなのに。。


1.


まだ、6月だというのに、K高グランドは、30度を超える暑さだ。その暑さの中、K高野球部監督、古賀竜司の声が響く。


(カーン)

「勝男!足、使え、足!もっと、ボールの正面に回り込むんだ!」

 竜司がショートの守備位置についている加藤勝男に向かって叫んだ。

(カーン)

「一輝、一歩目の動き出しが遅いぞ!だから、間に合わないんだ!」

 竜司がセカンドの守備位置についている並木一輝に向かって叫んだ。

(カーン、カーン、カーン)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おい!正人。そのリュックの中身、練習着、なんじゃねぇのか?」

正人は、とっさに、自分のリュックを抱え込んだ。

「・・・え!あ、は、はい、、監督。。」

正人が慌てて答えた。

「ちょうどいいや、お前、着替えて来い!」

 竜司が有無を言わさぬ口調で言った。

「あ、いや、でも、俺、野球部じゃあ、、ないし。。」

正人がそれに抗うように答える。

「ぐだぐた、言ってんじゃ、ねぇよ。見てみろよ、内野。これから、守備の連係プレーを練習しようって、のに、ピッチャーのところに、誰もいねぇんだよ!お前、手伝え!」

竜司が命令口調で言った。

「あ、は、はい。。」

 正人は、竜司の指示に渋々従うことにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「いいか!ノーアウト、ランナー1塁、2塁だぞ!正人が投げる。俺が打つ。いいか!正人、守備の練習のため、なんだからな。ど真ん中に打ちやすい球投げろよ。で、俺が何をするかは分からん。バントかもしれんし、ヒットエンドランかもしれん。。お前ら、連携して守れよ!健司、守備のサインはお前が出すんだ!正人にもサイン教えてあんだ、ろ。」

「はい!」

 健司が大きな声で答えた。

「よし、行くぞ!」

(コン)

「ほれ、正人、お前のボールだ!」

(ザッ、ザッ、ザッ)

(ヒュッ)

(パシン)

(ヒュッ)

(パシン)

「よし!いいぞ!その調子だ!次!」

 正人は、竜司に向かって黙々とボールを投げ込んだ。竜司は、そのボールを、ときに、バントし、ときに、ランナーを走らせ、セカンド方向にゴロを転がした。小一時間、休む間もない守備練習が繰り返された。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「正人、なかなかいい動きだったぞ!」

 竜司が正人に話し掛けた。

「あ、はい。。ありがとうございます。じゃあ、俺は、これで。。」

 正人は、くたくたになりながら、苦笑交じりで、答えた。

「おい!健司、正人のピッチング、受けてやれ!」

 竜司が健司に指示した。

「はい!」

健司が大きな声で答えた。

「あ、でも、俺。。」

 正人は、躊躇いがちに言った。

「青少年のスポーツ振興に野球部員も糞もねぇんだよ!15、6のやつにこんな時間にうろうろされたら、町の連中が迷惑すんだ、ろ!練習して、け!いいな!」

竜司が再び命令口調で言った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

「よし!いい球だ!正人。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「びっくりしたぞ!正人。お前の球、半年振りに受けたけど、、球速も、回転も、格段に良くなっている。どっかで練習しているのか?」

  健司が驚きを隠すことなく話し掛けた。

「・・・あ、あぁ、早坂スポーツセンターって、あるだろ、K街道沿いに。。」

 正人は、淡々と話し始めた。

「あぁ、知っているよ。」

「あそこに社長さんに声を掛けてもらって、な。あそこのブルペンで投げさせてもらっている。今日は、定休日だ。」

「そうか、、あそこの社長さん、K高野球部OBだかんな。。。良かったな、正人、、練習できる場所があって。」

 健司が納得顔で話した。

「・・・あぁ。。」

「なぁ、そういうことなら、水曜日、うちの練習に、今日みたいに出ろよ。親父もあんな感じで言っているし。」

 健司が笑顔で正人を誘った。

「・・でも、さすがに悪くないか。。部員でもないのに。。」

「お前、今日の練習、見ていた、ろ!うちは、有名私立の野球部ってわけじゃあないから、、まともな練習ができるだけの部員もいないんだよ。。お前が練習に来てくれれば、大助かりさ。それにさ、野球は、ピッチャーが投げるだけのスポーツじゃあ、ない、、だろ。」

「・・・あぁ、そうだな。。寄らせてもらうよ。ありがとう。監督にもお礼を言っておいてくれ。」

 正人は、嬉しさを隠しながら、ぶっきらぼうに答えた。

「あぁ、でもな、礼を言っているのは、親父の方もだと思うが、な。」


2.


 早坂スポーツセンターの駐車場に、1台の車が滑り込むように入っていく。その車から、1人の男が姿を現わす。黒いサングラスを掛け、フードで頭を覆ったその男は、躊躇うこともなく、センターの入り口を抜けていく。


「あぁ、将司、久し振りだな。。あぁ、あの、、どうなんだ、、肘。」

 宏が男に声を掛けた。

「あぁ、随分良くなった。もう、随分前から、遠投もできるようになって、な。で、今日から、投球練習も、な。また、使わせてもらうよ、ここのブルペン。。」

 将司は、笑顔で答えた。

「そりゃあ、嬉しいな。将司に使ってもらえるんなら、大歓迎だよ。」

「あれ?先客か?」

「あぁ、あいつ、正人って言うんだ。K高の学生なんだけどな、内緒だけど、古賀監督に頼まれちゃって、さ。正人をここで練習させてくれって。」

「へぇ、、古賀監督に頼まれた、だって?よっぽど、見込みのあるやつ、なんだな。古賀監督か、、思い出すよな、、、22年前、、俺はあの頃、俺の兄貴が死んだのは、古賀竜司のせいだと思い込んでいた。。。」

「・・あぁ、、そうそう、、夏の甲子園埼玉県予選決勝、、対戦相手は、青年監督古賀竜司率いる慶明志木。。将司は、あの試合、、慶明志木の選手じゃなく、古賀竜司と戦っていた。」

「・・そう、、初回から、バント作戦、、しかも、1塁線ばかり、、俺は、古賀竜司の作戦に腹を立てながら、そんな、ぺっぽこ作戦で俺から点が取れるもんかって、息みかえっていた。」

「9回表まで終わって、0対0、、9回裏、慶明志木の攻撃、、先頭打者にデッドボールを当てて、、」

「あぁ、ストレートがシュート回転した、、慶明志木は、例によって、1塁線へのバントで、2死3塁。。次の打者がまたバントの構え、、2アウトなのに、な。。俺が1塁側に出るのが、少しだけ早かったんだ。。で、3塁線へのバント、、慌てた俺は、1塁に悪送球、、、その瞬間に、俺たちの夏が、、高校野球が終わった。。そして、俺は、その年のドラフトで、大阪ジャガーズに6位指名され、K高で、お前と自主トレをしていたら、、」


〈回想シーン:22年前 K高グランド〉

「・・・久し振りだな。」

「・・・古賀、、監督。。」

「・・・夏の試合では、、すまないことをした。。まだまだ、慶明志木は弱小チームなんで、な、弱者の戦術を使わせてもらったよ。」

「・・・・・・・」

「なぁ、、黒沢君、、プロ、、行くんだろ。。」

「・・・えぇ、、まぁ、、6位でしたけど、、」

「順位なんて関係ないさ、、なぁ、ちょっと、投げてみないか?」

「え?あぁ。。」

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

「なぁ、、黒沢君、、君、踏み出した足、、少しだけ、1塁側に流れるんだ。。ここを直せば、いいと思うよ。。じゃあ、な。。」

「え?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「俺が日米199勝できたのも、あのときの古賀監督の助言が全てだった。知らず知らずに、1塁側に流れていく癖を直したことで、球威も上がり、コントロールも良くなった、、プロでも勝負できる球を投げられるようになったのは、あの古賀監督の助言があったからだ。。まあ、夏の試合では、そこを古賀監督に見事なまでに突かれたんだが、な、、心理面を含めて、な、、大した人だよ、、ほんとに。。後に、兄貴の月命日に墓に花を手向け続けている人が古賀監督その人だということもお袋から聞いた。。」

「・・・そんなこともあった、、な。俺も、慶明大学に入ることから、卒業後の進路まで、古賀監督にはお世話になりっぱなしだよ。。」

「・・・その古賀監督のお眼鏡に叶ったやつか、、しかし、何でまた?野球部じゃないんだ、そいつ?」

「俺も事情は聞かないことにしてるんだけど、な、野球部には入ってないらしくて。。」

「ふーん。。変わったやつもいるもんだな。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

(ほう、、確かに、、いい球だ。。)

「おい、そこの兄さん、いい球、放るな。」

「はい?あ!もしかして、黒沢さん、、ですか?」

 正人が驚いた表情で言った。

「おーありがたいね。。表舞台から降りて、丸2年。。まだ、俺のことを覚えてくれてるとは、、な。。」

 将司が嬉しそうに答えた。

「そりゃあ、日米通算199勝の黒沢将司投手のことを少しでも野球に興味のある人間が忘れるわけがないですよ。あの、田中、田中正人って言います。K高1年です。」

 正人は、直立不動で答えた。

「そうかい、、ありがと、よ。じゃあ、正人君、横、使わせてもらっていいかい?」

 将司が嬉しそうに言った。

「も、もちろんです!」

 正人が緊張しながら答えた。

「ありがと、よ。」

「将司、久し振りに俺が受けてやる。」

 宏が嬉しそうにミットを叩きながら言った。

「早坂さん、黒沢さんと知り合い、なんですか?」

 正人が驚いたように聞いた。

「・・・悲しいな、将司。俺たちがK高でバッテリーを組んで、あと1勝で甲子園出場だったことをこの正人は知らないらしいぜ。」

 宏が肩を落とすそぶりをみせて、笑いながら、将司に話し掛けた。

「そりゃあ、仕方がないだろ。。22年前の話だ。正人君は、生まれてないよ。。」

 将司は、ニコニコしながら答えた。

「え!じゃあ、黒沢さんもK高OB、なんですね!」

 正人が心底驚いた顔で言った。

「まぁ、そういうことになる、な。おい、宏、準備できたか?始めるぞ!」

 将司が宏を促した。

「よっしゃ!来い!」

 宏が大きな声で言った。

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「随分、調子、良さそうだな。」

 宏が嬉しそうに言った。

「・・・まだまだ、、だけどな。。まぁ、、この2年、苦労した甲斐は、、あるは、、な。」

 将司が額の汗を拭いながら言った。

「じゃあ、来年辺り、また、メジャー、、、挑戦するのか?あと1勝、だもんな、メジャー100勝、でもって、日米通算200勝。。」

 宏が嬉しそうに話した。

「・・・まぁ、、な、、でも、俺も40だろ。。なんとか、今の調子で投げて、、来年、再来年辺りで、日本の球団にでも拾ってもらって、なんとか、あと1勝って、思ってるんだ。メジャーじゃあ99止まりになるけど、な。。」

 将司は、寂しそうに答えた。

「・・そ、そうか、、ま、まぁ、そんなに慌てて結論出さなくても、な。」

 宏は、少し残念そうに将司に話した。


3.


 午後4時、大きなリックを背負った少年が、早坂スポーツセンターに入っていく。それは、毎日の日課のような光景だ。少年は、店員に声を掛け、店舗裏のブルペンに向かう。


「あ、宏さん。今日も使わせてもらいます。宜しくお願いします。」

 正人が大きな声で、宏に話し掛けた。

「おぉ、正人。待っていろ!俺、受けてやるからな。」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、ストレッチして準備してます。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(シュ、パシン)

「ふっ!」

(シュ、パシン)

「う!」

 (シュ、パシン。。シュ、パシン。。)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・よし、正人、ラスト10球で、休憩だ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「よし、ラストボール!」

(シュ、パシン)

「ナイスボール!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・正人、飲めよ。」

 宏が正人にスポーツ飲料を差し出した。

「あ、ありがとうございます。」

「しっかし、お前、最初会ったときからいい球筋だとは、思っていたけど、、球の球速も回転もどんどん上がってる、、、たいしたもんだ。。」

 宏が嬉しそうに言った。

「あ、ありがとうございます。」

 正人も嬉しそうに答えた。

「・・・なぁ、正人、、お前、もしかして、プロ、、目指してんのか?お前がK高の野球部に入んない理由って、、高校野球で、肩を酷使されたくないとか、そんな理由なんじゃないか?もしそうなら、それは大丈夫だぞ。K高の古賀監督は、な、、選手の身体のケアに人一倍気を遣う人だ。。お前、お前が生まれるだいぶんと前の話だが、な、お前も知っての通り、古賀監督がK高野球部にいたとき、K高は甲子園初出場で準優勝に輝いた。そのときのK高のエースが黒沢清司、、何かで見たり、聞いたりしたことないか?黒沢清司はその年のドラフトで、東京メッツに1位指名されて入団したものの右肩の怪我が治らずに5年後にそれを苦に自殺した。。古賀監督は、以来、選手、特に、ピッチャーの身体のケアには、そりゃあもう、俺からみたら、過保護なんじゃないかってぐらい気に掛ける。。だから、、、」

 宏は、真剣な表情で話した。

「・・・俺、プロを目指しているわけじゃあ、ありませんし、、肩の酷使が嫌で、K高野球部に入らないわけでもないですから。。」

 正人は、淡々とした表情で答えた。

「・・じゃあ、なんで?」

「・・・それは。。。」

 宏は、正人の次の言葉を待った。しかし、正人から次の言葉が発せられることはなかった。

(・・・正人、お前は、何を考えているんだ?何を、、、隠しているんだ。。なぁ、俺じゃ、駄目なのか?話してもらえないのか?)

 宏は、心の声をそっと飲み込んだ。


4.


 10月、暑い夏も終わり、秋真っ盛りのこの季節、、多くの高校では、3年生が部活から引退し、それぞれの部が、新3年生、新2年生を中心にした新しい体制で、次のシーズンを迎える。K高野球部も然り、古賀監督1年目は、然したる成果を上げることができなかったが、2年目に向け、チーム作りが進んでいる。打と守の中心は、古賀監督の長男の古賀健司、新2年生。残念ながら、投の中心が、、見つかっていない。。そんなK高が甲子園常連校である慶明志木と練習試合をすることになった。慶明志木前監督である古賀竜司のたっての希望を慶明志木が飲んだことにより実現した。


「しっかし、なんでまた、名門慶明志木が、K高なんて、弱小公立高と練習試合をしなきゃいけないんだ。」

「仕方がないじゃないか。清水監督、、前監督の古賀さんに頭上がんないんだよ。夏の甲子園埼玉代表高慶明志木との練習試合を、って、K高野球部監督の古賀さんに頼まれたら、嫌とは言えないんだよ。まぁ、2軍でも出しときゃいいだろ。。2、3時間の辛抱さ。ただ、古賀監督の息子の健司な、あいつだけは気を付けないと、な。あいつはいい選手だから。」

「あぁ、しかし、、あいつも可愛そうだよな。。親父さんの夢のために、この慶明志木じゃあなくて、K高に行かされちまって。。ほんとだったら、俺たちと一緒に、甲子園を目指したかったんだろうに。。」

「全くだ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 黒のパーカーに、ブルージーンズの少年が、K市営球場の中に入っていく。少年は、1塁側、、K高のダクアウトの真上の席を目指していく。

「・・・おぉ、正人じゃあないか!観に来てくれたのか?」

 健司がびっくりしたように問い掛けた。

「・・・あぁ、健司。。勝手に足が向いちまって、な。」

 正人が戸惑ったような表情で答えた。

「勝手に、な、、お前、やっぱり、ほんとは?」

 健司が目を輝かせて問い掛けた。

「・・・その話は、、無し、だぜ。。俺は、一野球ファンとして観に来ただけだから。」

 正人が目を伏せながら答えた。

「・・・分かったよ。応援、宜しく、な。」

 健司は、残念そうに言った。

「あぁ、精々頑張って応援するよ。」

 正人が静かに答えた。

「でもな、正人、何でまた、伊達眼鏡に、マスクなんだ?俺だから分かったものの、他のやつらじゃあ、お前だって、分からんぞ。」

 健司は、不思議そうに、問い掛けた。

「・・・それで、、いいんだよ。。」

 正人は、寂しそうに答えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「残念だったな、健司。」

 正人がグランドの健司に声を掛けた。

「・・・あぁ、正人、最後まで、観ていてくれたのか、ありがとう、な。まぁ、観ての通り、完敗だよ。3対15。。」

 健司が疲れた表情で答えた。

「でも、お前は、3の3、3ホーマーじゃないか。。」

 正人が健司を励ますように言った。

「負ければ、何の意味もないさ。。相手は2軍、なんだろうし。。やっぱ、予想通り、投手なんだよな。。、正人、野球部の件、考え直せないのか?」

 健司は、肩を落として囁いた。

「・・・あぁ、悪いな。。」

 正人は、健司の視線を避けて答えた。

「・・・そうか。。」

 健司も正人に視線を合わせることなく言った。


5.


 鈴は、K街道を南に向かって歩いている。今日も家に帰ってから、ギターを持って、K市音楽スクールに行く。早坂スポーツセンターに通りかかった辺りで、鈴は、正人の姿に気付いた。


(あれ?正人君?今、早坂スポーツセンターに入っていった?)

「いらっしゃいませ!」

 店員が大きな声で、鈴に声を掛けた。

「あ、あの、、今、背の高い男の子、、K高の制服を着た、、入ってきませんでした?」

鈴は、店員に話し掛けた。

「え?あぁ、正人のことか。あいつなら、いつものように、店の裏のブルペンに直行だよ。」

 店員が当然のように答えた。

「ブルペン?」

 鈴が不思議そうに言った。

「え?あぁ、、ブルペンって、ね、野球のピッチャーって人が投げる練習をするところ、、正人は、毎日のように、ここで練習をしている。お嬢さん、正人のお友達?呼んでこようか、正人?」

 店員が笑顔で鈴に答えた。

「あ、いえ、いいです。そのブルペンって、外から見ることできるんですか?」

 鈴は、店員の言葉を慌てて遮り、言った。

「え、あぁ、裏手の細い路地から見えるよ。」

「あ、ありがとうございます。あの、失礼します。」

鈴は、店員に言われた道に回った。

(シュ、パシン)

「ふっ!」

(シュ、パシン)

「う!」

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

「正人君、、、凄い。。。正人君、諦めたわけじゃなかったんだ、野球。。」

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

「おいおい、お前ら、まるで、ライバル同士が、ブルペンで対決しているみたいだぞ!将司、お前、オーバーペースだよ。。また、肘、壊しちまうよ。ほらほら、正人も、、まだ、身体できてないんだから。。無理するなって。。」

 宏が慌てた様子で、2人に話し掛けた。

「ハー、ハー、ハー」

「フー、フー、フー」

「将司、お前、何、熱くなってんだよ?」

 宏があきれ顔で将司に話し掛けた。

「あぁ、悪かった、、こいつ、正人が、な、、この半年で、また、一段といい球を放ってるのを見て、つい、、な。」

 将司が肩で息をしながら答えた。

「まぁ、お前の気持ちも分からんわけじゃあない、、けどな。。。確かに、正人の球は、また、凄くなっている。。」

 宏が正人の方を見やりながら言った。

「なぁ、正人、お前、手、見せてみろ。」

 将司が正人に言った。

「え、あ、は、はい。。」

「ほう、、いいな。。お前、スプリット、覚えろよ。」

 将司は、正人の長い指を見つめながら、言った。

「覚えろ、って言われても。。」

 正人は、困惑気味に答えた。

「俺が教えてやるよ。。」

 将司は、大きな声で言った。

「い、いいんですか。。あ、ありがとうございます。。」

 正人は、嬉しそうに答えた。

「高校生レベルなら、な、今のお前のフォーシームと2種類のカーブだけで、抑えられるんだろうけどな、、プロ相手になると、な、、落ちる球が必要だ。な、握りはこうだ。。」

 将司は、正人の手にボールをあてがいながら、話し始めた。


////////////////////


美音がいつものモスで、光輝を待っている。

「美音、ごめん、遅くなった。」

「光輝の遅刻はいつものことよ。で、今日の試合はどうだったの?」

「完勝さ!いつものように、ボサノヴァのリズムに合わせて、な。」

光輝は、誇らしげに答えた。

「じゃあ、そのうち、プロ契約しちゃったりして。」

「まぁ、時間の問題だろうね。でも、それは俺にとっては、かなり前半の通過点だから、、、俺の夢はもっと先にある。」

「そうね、私たちの人生、始まったばかり、、これからだもんね、輝かしい未来が来るのは!」


////////////////////


<C国ミサイル発射操作室>

「なぁ、チフン、次のミサイル発射実験のとき、な、発射方向、角度の操作、俺にやらせてくれよ。」

「だけど、ソンホ。ソンホの仕事は、ダミーの核弾頭設置からミサイル設置で、発射方向、角度の操作は俺の仕事だぜ。」

「ミサイル発射実験が多過ぎて、、飽きちゃったんだよ。」

「まぁ、やりたいなら、、いいけど。。」

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