第3話 踏み込まないで

立ち止まった私に、その声はさらに続けた。


「さっきの症状を見る限り視覚、【色】に関係する共感覚じゃないか?

例えば……人の感情が色で見える、とか」


(なんなの、この人……)


「当たりか」


思わず後退り、逃げようとする私を見て、その声はほのかに楽しげな感情をにじませた。


その人は、私に呼吸を促した、あの優しい声の人と同じはずなのに、まるで違う人のように感じられた。


「来ないでください」


コツリという足音に、自分でもわかるくらいかたくなった声で話す。


「なんなんですか、あなた。助けてくれたことには、本当に感謝してますけど、私の事情に、ふみこまないでくれませんか?何も知らないくせに、興味本位でふれないでください」


フリースクールに行く事になった時、同じように不登校になった人なら、一人くらい分かり合える人がいるかもしれないと少し、ほんの少し期待してたけど。


(なんだ。ふたを開ければ、こんなものか)


悲しみ、失望、怒り。


様々な気持ちが入り混じって、いっそ泣きそうになるのを手のひらに爪を立てる事で耐えた。


「な、なんだよ。そんな言い方無いだろ。俺はただ、ってえええ‼︎……圭兄けいにい、殴らなくったって良いだろ⁉︎」


拓海たくみ、君の言い方は分かりづらいんだよ。心配ならそう言わないと伝わらないって何度も言ってるでしょ?ちょっと静かにしていなさい」


「でも‼︎」


「なあに?」


「……ハイ」


圭兄と呼ばれた人と拓海君?の話で、なんとなく拓海君よりも圭兄、さん?の方が強いんだなというのが分かった。


「ごめんね、タクミンに悪気はないの。ただ、ちょっと、その……口が悪いだけで」


「……」


タクミンというのは、拓海君のことだろう。別に彼に怒っているわけじゃない私は、どう言ったら良いか分からなくて黙り込んでしまった。


拓海君の事をタクミンと呼んだ人は、ずっと俯いて目線を合わせようとしない私の態度から何か悟るものがあったのだろう。


そっちに行っても良い?と聞いてからゆっくりと私の前までやってきて、無理に私の視界に入らないようにしながら話してくれた。


「あのね、タクミンはあなたを心配したのよ。その……私達も、共感覚を持っているから」


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彩の目に映る世界 風宮 翠霞 @7320

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