11『霧島と華名城』

魔術と錬金術が支配する世界の小国にある一室に、異なる世界から訪れた少女2人が対峙している…


ファイネストは、キシルが淹れた珈琲を味わった後に口を開く…


「話す前に…念の為にも、盗聴の有無を調べる術式と防音を施す術式を行使するけど良い?」

ファイネストは、部屋の主であるキシルの了承を得てから、意識を集中すると…左目側に月を彷彿とさせる色合いの片眼鏡が展開される。


「あれ、左目側なんだ…初めて見た…」

キシルが驚きと好奇心を示す。


「まぁね…私は直接的な攻撃系や結界等の創作系の術式をほぼ扱えない代わりに、周囲の術式を探知したり…干渉したりする事に特化した『陰の術式』に長けているから」

そう答えたファイネストは、誇らしげな顔を見せる。


「あれ…すんなりと行使出来てる気がする…」

2つ…3つ…っと天体観測器アストロラーベを展開していくファイネストが、いつも違う感覚に気付く…


その驚く様子に対して、キシルがにやける…


「こっちの世界に来て初めて珈琲を飲んだ後だし…もしかして…キシルさん、これが…珈琲の効果?」

ファイネストが、キシルと視線を合わせる。


「ファイネストさんみたいな特殊な術式にも効果が見られたようで良かったよ。」

キシルが肯定した瞬間…多数の金平糖の様に見える盗聴を探知する為の術式が四方へ転がり…それに続けて、防音効果を付与する黒い蚊帳の様な術式が展開され…室内の壁面にピッタリとフィットする。


「これが、ここ数ヵ月でガムラ魔術学園の生徒達の実力が上昇している理由だったの…」

ファイネストは身をもって、魔術師へ与える珈琲の効果を実感する。


「その通り…ファイネストさんの術式も発動したみたいだし…切り出した私から、先にこの世界を訪れた経緯を話そうか…」

そう告げたキシルから、この世界へと誘われた当時の様子を語り出す…


「霧島なつきさん…それが、貴方キシルの本当の名前なんだ…実は私も日本人で割りと近い時代から来たかもしれない…次は私か…」

同郷で親近感が沸いたファイネストは、一呼吸おいて…語り出す…


「私の本当の名前は、【華名城はなしろマキ】…就活でお祈りメールばかり申し上げまくられまくりの大学生だったかな…」

トホホっと言わんばかりの表情を見せる華名城ファイネスト


「華名城さんが…大学生?…失礼だと思うけど、高校生だった私よりも幼く見えるのは気のせい?」

キシルは、背丈が頭一つ分ほど低いファイネストの全身を、上から下へと改めて見る。


「がぁっ!…確かに…こっちの世界では、ファイネスト・フラワリーとして中等部に通っているけど…本当に年上なんだから!」

ファイネストは、怒り気味に応える。


「うん、分かった…信じるって…昔、流行ったアニメとかで言うところの転生っていうことでしょ…ぷっふ…」

キシルは、怒る小動物を見る様に微笑む。


「そうだよ!笑わないでよ!」

ファイネストの怒りが更に加速する。

「ごめんね…それでどうして転生したの?」

怒りをなだめる為にも、キシルが新たな話題を投げる。


「えっと…その…」

しゅんとしたファイネストの声量が下がる…

「うん、それで?」

キシルが悪ノリする。


「就職が決まらない焦りから…習慣だったストロング系をがぶ飲みした勢いで、見知らぬ屋台で初めてドカ食いをキメた結果…ここにいます…はい…」

小柄なファイネストは、肩をすくめながら懺悔する。


「はぁ?」

霧島キシルからの冷淡な視線が刺さる、華名城ファイネストは更にしぼんでいく…

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