10『コーヒーの呪文』
「えっと…ここは、どこ…」
国立魔術学校『シュタット学校』で生徒会副会長を務める少女【ファイネスト・フラワリー】は初めて訪れた土地で迷子になっていた…
首都『バレアタット』から寝台汽車に乗り…更に3時間ほど貨物と共に馬車に揺られ…約10時間をかけて到着した片田舎の町『ルカノロ』で…。
「(休憩も兼ねて、お昼にするかな…)」
ファイネストは、石畳の町をぐるりと見渡し…飲食店を探す。
「よし、ここにしようか…ついでにガムラ魔術学園への道のりも聞こう…」
ファイネストは、目の前のレンガ造りの店の扉を開ける…
「!?…この匂いは…それに…」
店内に入った瞬間…ファイネストの鼻に届いた匂いの正体を察するのと同時に、客層に驚く…
「なに?…この人のるつぼは…」
その店内にいる客の大半は、ガムラ魔術学園の生徒ではあるが…その他にも、商人や修道者など肩書きを問わず老若男女が集っていた…
「いらっしゃいませ、此方で注文をお伺いいたします。」
新たな客であるファイネストに対して、ガムラ魔術学園の制服の上にエプロンを身に付けた店員の少女が声を掛ける。
カウンターに立つ少女のへと歩み寄ったファイネストは、メニュー表を見ることもなく…
「そうね…ホットエスプレッソ・コン・パンナ・マッキアート・ドッピオで!」
ファイネストは、当然の様に注文するが…
「?…ええと、エスプレ…ドッピオって?」
店員の少女は、聞き慣れない呪文を食らったかの様に首を傾げる。
「少々、お待ち下さい…マスターならこの呪文を知っているかもです。」
そう言い残してバックヤードへ行った少女の様子に対して、ファイネストも首を傾げる。
「お待たせしました…マスターが直接、話を伺いたいと言われていますので…案内します。」
そう店員から伝えられたファイネストは、要領を得ないまま付いていく…
「(も、もしかして…初来店でVIPしか知らない裏メニュー的なヤツを頼んじゃった?)」
スタッフしか入れない裏側を歩くファイネストは、思わずにやける…
「えぇ…っとこちらの部屋でマスターがお待ちです…」
唐突ににやけ出したファイネストに戸惑いつつも、店員の少女は伝える。
一呼吸置いたファイネストは、扉をノックする。
すると間髪入れずに、どうぞっと室内から返ってくる
「失礼します…はじめまして、首都からやって来たファイネスト・フラワリーと申します。」
ファイネストは、日頃の生徒会副会長の語気で挨拶をする。
「フラワリーさん…はじめまして、私はキシル・コナです。」
店のマスターを任されているキシルが応じつつも、言葉を続ける。
「申し訳ありません…当店にはエスプレッソに適した深煎りのイタリアンローストを取り扱っておらず…その上、それを急速抽出する為のマシンもありません…」
コーヒーに関する単語に対して頷くファイネストの反応を見ながら、キシルは核心を突く。
「この国の首都には、コーヒーを飲む文化は無い上に…そもそも、エスプレッソマシンなんて無い筈なのにどうしてご存知なんですか?まさか…」
キシルの問い掛けに対して、ファイネストは得意気に頷く…
「フラワリーさんは、ある日、突然…別世界からこの世界に現れましたか?」
キシルは、神妙な面持ちで問い掛ける。
「がぁっ!?えっ…きゅ、急に何を言い出すのですか…エスプレッソじゃなくて、わ、私が言っていたコーヒーは、トルコ珈琲のことですよ!」
意表を突かれたファイネストは、更にボロを出す。
「トルコ?この魔術の世界では、存在しない国の名前では?」
キシルは、冷静に鎌を掛ける。
「がぁっ!…」
ファイネストは俯いて…暫くフリーズしてしまう…
「もうこれ以上の言い逃れは、見苦しいか…」
意を決したファイネストは、再びキシルと視線を合わせる。
「そうね…私はこの世界で生まれた存在ではないわ…そして、それを感付けるキシルさん、貴方もでしょ?」
ファイネストの問い掛けに対して、キシルは無言で頷く。
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