第22話  お前なんだろ?

 学園を襲撃してきた魔族を一人で殲滅した葉隠。

 そんな騒動から数週間が経過していた。


 神邏は生徒会での活動にもなれ、後輩達からも一定の評価を得て慕われるようになっていた。


 兄である修邏の劣化コピーの時点で、学園の生徒とは比較にならない戦闘力。そして魔族に対する対象方法や知識まで、劣化コピーの影響で万全。

 

 その上顔立ちも良く、優しさに満ち溢れている人間性。後輩からは慕われるのも納得できる。

 同級生からも一部を除けば一定の評価。先輩は単純に気に入らないと嫉妬するものも中にはいるが、そこまで多くはない。


 南城からはライバルのような関係性、水無瀬からは好意。

 会長たる西園寺からは信頼をよせられていた。


 神邏は、学園に居場所が出来ていたのだ。


 友人やライバルと切磋琢磨できる理想的な環境。さらに上位ランカーの周防に師事するようになり、実力はめきめきと上がってきていた。


 次期会長は間違いないとも言われていた。

 当人は人当たりのいい水無瀬の方がいいと、謙遜しているのだが。向いてないと思ってるからだろう。



 そんな日々が続いていたのだが……


 ――今日この日、最大の悲劇が起きる事となる……


「美波先輩、なんか軍の人が先輩に用があると、校長室に」

 

 生徒会の後輩がそういうと、軽く礼を言って神邏は生徒会室を出る。


 道中女子生徒からちょこちょこ声をかけられる。軽く優しく対応すると女子達はきゃあきゃあ騒ぐ。

 人気者になったものである。


 神邏の頭の中は、何故軍の人が会いに来たのかという疑問でいっぱいだった。

 父や周防ではないようだし……と。


 校長室にノックしてから入室すると、そこには頭を抱えた校長と、葉隠、それに……見覚えのない小太りの人物とお付きの者達の姿があった。


 小太りの人物はニヤリとしてから……


「美波神邏だなあ? 魔族を天界に招き入れた罪で拘束するじょ」


 そう言われると、葉隠とお付きの者達が神邏の体を拘束する。


 意味がわからない。魔族を招き入れた? なんの話だ?

 

 そんな疑問を神邏が声にだす前に、小太りの人物は言う。


「名乗るの忘れたけどお。おいらは天界の頂点、光帝の息子の蜜則だ。美波、お前は前回の大会と学園襲撃した魔族を天界に招いた容疑がかかってるんだあ」

「……は? なんで、俺に……」

「口を慎めクソガキが! まずおいらに質問していいか聞くところだろ!」


 蜜則は置いてあった本を神邏に投げつける。


「まあいい! 証拠はあるんだよ!」


 蜜則がある写真を見せてくる。

 写っているのは、神邏と魔族らしき者の姿。


 神邏は思い出す。

 もしや学園襲撃に来た魔族を招いたと言っていた情報屋だとかいう者と話してた時の写真かと。

 ※20話参照。


 だが写っているのは情報屋ではない。襲撃してきた魔族に差し替えられている。


「この魔族と会話してたらしいな~? 天界への襲撃とかについてさ」


 神邏はすぐに察した。はめられたのだと!

 情報屋が簡単に姿を現し、話しかけて来た意図がこれだったのだ。


 すぐさま反論しようとするが……


「なあ北斗! 聞いてたんだろお?」


 すると、隠れていたのか、神邏の前に北斗淳平が出てくる。

 彼は前回わざわざ神邏を呼び寄せ、情報屋と会わせた男……


 つまり、神邏をはめた張本人とわかる。


「そ、そうです殿下! こいつが魔族と会話してたんです! 天界への侵入経路に鍵を魔族に渡してましたから!」

「聞いたか! これは天界を魔族に明け渡そうとする裏切り! 大罪人だあ! やはりあの世紀の犯罪者、美波修邏の弟だ!」


「違っ!」


 反論しようとする、神邏の腹部を葉隠が全力で殴り黙らせる。


「がっ……」

「黙って聞いてろ。お前の企みはここまでだ」


 企み? 何を言ってるんだこの人は? そう神邏は思っていた。

 この程度の情報で、簡単に自分を悪党と信じ裁こうというのか?

 そんな疑問しかなかった。


 実際神邏はそんなことしてない。

 そもそも侵入経路なんて知らない。天界に行き来出来る鍵は手元にある。誰にも渡してない。


 少し考えればわかりそうな誤解。なのに、なんで自分を悪者扱いし裁こうとするんだ?

 神邏はこの場にいる全員に不信感をもった。

 全員がグルで、自分を罠にかけたとしか思えない……


「とりあえず処刑か? それとも魔族とのつながり吐かせるために拷問にでもかけるかあ? どうよ葉隠?」

「拷問……許可は?」

「知らんよそんなもん。修邏みたいな事あったら困るだろ? 上に報告なんてせず、やっちまえよ。修の乱みたいなこと二度と起きてほしくないだろ?」


 修の乱。美波修邏が天界に反旗を翻した戦の通称だ。

 それを聞くと葉隠は身震いする。おそらく、相当なトラウマを持っているのだろう。


「好きに拷問させ吐かせちゃおうぜ! その際死んでも知ったこっちゃない。おいらが適当に処理すっから。おい連れてけ!」


 葉隠の全力の一撃を受けた神邏は抵抗もできずに連れていかれる。


 なにやら騒動が起きてると感づいた水無瀬と南城が校長室付近にやってくる。

 丁度そこに連れていかれるタイミングの神邏を発見。


「神邏!」


 水無瀬が駆け寄ろうとしたら、北斗が前に立ちふさがる。


「やめろゆかりん! あいつは魔族を天界に呼び寄せた悪人だ!」

「はぁ!? 何言ってるのよ! そんなわけないでしょ!」

「そんなわけあるんだよなあ」


 蜜則も出てくる。水無瀬は明らかに不快な目線を蜜則に向ける。


「で、殿下……どういう事?」

「北斗くんの言う通り~あいつには魔族を招き入れた嫌疑がかかったここから拷問などの尋問してから殺す予定~」

「は!? そんなの天界軍が許すわけない! 確実な証拠もなしに、その上拷問!? バカげてる!」

「バカだと! 口を慎め! おいらをなんだと……」


 すると南城が蜜則の頬を強く握り黙らせる。


「おがが!」

「なんなんだよてめえは……知らねえな。七光りのクソ息子さんなんてよ」

「し、知って、んじゃ」

「天界軍がそんな命令だすわけねえ。てめえの独断だろカス。あいつが気に入らねえから適当な罪でっち上げただけだろ」


 南城は蜜則をボコボコにする雰囲気を醸し出していた。

 しかし、そこに葉隠がやってくる。


「葉隠さん? あんたこのバカの指示にしたがってんのか?」


 葉隠は何も言わない。天界軍の希望と言われ、一定の尊敬は持っていた南城にとって、それは裏切りに近い行動だった。


『修さんの亡霊にいつまでびびってんだよ葉隠』


 声のした方へ振り替えると、そこには西園寺の姿が……


「西園寺……」

「美波は連れてかせねえ。力づくで邪魔するぜ」

「ならぶち殺してやるよ西園寺」

「こっちのセリフだ。希望を絶望にしてやる」



 ――つづく。


「次回 西園寺VS葉隠」

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