第21話 危機的状況
西園寺達は爆発のあったと思われる教室に向かっていた。
聞こえるのは生徒達の悲鳴……ただ事ではないのは間違いない。
前回の試合会場に現れた魔族……もしやその仲間かもしれない。みんなはそう思った。
前もどうやって魔族が現れたのか、わかっていない。天界に魔族が侵入なんて、そう簡単にできる事ではない。それが短い期間で二度も起きるなんて……考えられない事だった。
だが考えられなかろうが、現実に起きている事だ。奴らの侵入方法など、今はどうでもいい事。一刻も早く生徒達を救出し、魔族を撃退するのみ……
「大丈夫かお前ら!」
葉隠が勢いよく教室のドアを開ける。部屋の中には……
数人の倒れてる生徒のみ。
魔族の姿がない……
どういうことかと思い、みんな部屋に入り内部を見渡していく……
他の人の気配はない……逃げた後?
「腰抜け魔族だったのか? ならわざわざ襲撃とか……」
葉隠の腹部に鈍い音が鳴る。
激痛と共に吐血……何があったのかすぐに理解できなかった葉隠は、自らの腹部を確認。
何者かの手が、葉隠の背後から腹部を貫通していたのだ。
「まず一人ぃ……」
背後から襲った相手……赤い肌をした見るからに魔族と思われる男が、自らの手を葉隠の腹部から抜く。
「ごばぁ!」
血反吐を撒き散らし、葉隠は倒れた。
この場にいる全員が、魔族の存在を感知できていなかった……攻撃されるその瞬間までだ。
周防は鎌を、西園寺は二つの斧を構える。
「てめえ、この前の帝王軍って連中か?」
西園寺は警戒しながら問う。
前に試合会場に現れたとるに足らない魔族の集団、奴らは確かに帝王軍と名乗っていた。
「おおそうだ。だったらなんだい?」
魔族は肯定してきた。
……前回の連中とはレベルが違うと瞬時に察する。
前の連中は美波火人だからあっさり倒せたというわけではない。西園寺から見ても大した連中ではなかった。
故に、帝王軍に警戒心など抱いていなかった。
だが今回は違う。
葉隠という上位ランカーがやられ、自分達を出し抜けるほどの魔族……とても同じ組織とは思えない。
西園寺の予測は天界軍の、中位ランカークラスの実力。
「さあて。次はどいつが相手だ?」
魔族は西園寺と周防、そして水無瀬と南城の四人を見比べる。
しかし。
「誰も相手はしねえ。そもそも、まだ終わってねえだろ」
「はっ? なんの話……」
『ああ~いってえな』
「――!?」
魔族は驚愕した。
背後から奇襲し、腹をぶち抜いたはずの葉隠が、なに食わぬ顔で立ち上がってきたのだから……
腹部は貫通。血もドクドク流れている。明らかに致命傷……
――否。
よく見たら、腹というより脇腹付近を少し削られた……そんな傷跡しかなかった。
それでは致命傷にはほど遠い。立ち上がるのも当然だろう。
痛いの一言で済む話だ。
どうやらうまく避けていたよう……
「バカな!」
魔族は信じられないと言いたげに、立ち上がった葉隠に驚いていた。
「完全に不意をついていた! お前は避ける素振りもなかった! だからその程度の傷なわけがない!」
――そう。実は葉隠は回避をとっていない。奴の言う通り完全に不意をついていたのだ。
なのに……直撃は避けられていた。故に、何が起きたか信じられないのだ。
「ならよ。お前あの状況で、確実におれの腹を貫けるとでも?」
「当たり前だ!」
「だよな? おれは不意をつかれたんだし、普通は心臓なり、腹をぶち抜けるよな?」
うんうん頷きながら言い分を肯定する。
魔族は意味がわからないだろう。
すると葉隠は指を一本立てる。
「でもよ、万が一にも、手元が狂わないと言いきれるか?」
「は?」
「100%、当てれるか? 1%くらい、外す可能性あると思わねえか?」
「何が言いてえ……」
「つまり、手元が狂う1%が今起きたんだ」
「ふざけた事抜かすな!」
魔族は激昂する。
葉隠の言い分だと、奇跡的な確率で魔族は手元が狂った。そう言いたいように聞こえる。
「事実なんだよな~。おれの能力はそんな奇跡的な確率を100%起こす事のできる能力なんだ」
「な、に……?」
「奇跡の葉隠……あの世の手土産として覚えときな」
葉隠は魔力の弾丸を銃に込め、即座に放つ。
「がっは……」
まともに魔族も見ずに、適当に発砲したように見えた。
――しかし、結果は魔族の脳天に直撃。クリーンヒットしていた。
「あらら。適当に撃ったのに……おれの奇跡の力はすごいねえ」
適当に撃った弾丸が、たまたま脳天に直撃する、ごくごくわずかな確率……それを引き寄せたのだ。
これが天界の
「あんなのに不意をつかれるとは、奇跡の葉隠ってのも大した事ねえな……」
曲がりなりにも勝った葉隠に嫌みを言う西園寺。葉隠は舌打ちしつつも、他に敵がいないかを確認……
――すると……
「周防さん、とりあえずここの連中連れて逃げて。あと避難勧告を」
「どうした?」
「大群だ……」
――瞬間、校舎が一部吹っ飛ぶ。
瓦礫と埃にまみれる一同。
ゲホゲホと咳き込んだあと、視線を前に移すと……
煙の中から影が見える。大量の影が……
「大群ってのは事実みたいだな」
「会長!」
声のした方に視線をそらすと、神邏と北斗が遅れてやってきたのだ。
すぐさま神邏は敵の姿を察知し、臨戦態勢をとるが……
「ここは葉隠に任せるぞ美波」
「……え?」
神邏は葉隠が怪我してる事に気づく。
手負いの人一人に任せるのか? そう疑問をもったのだろうが……
「心配いらねえよ。相手は奇跡さんなんだからな」
神邏は西園寺が言うのなら間違いはないだろう。そう思い、言う通りにする。
みんなは葉隠を一人残し、その場を去る。
♢
しばしの時が流れた後の事だった。
――みんなの前に、ズタボロの姿ながらも、笑顔を撒き散らし、葉隠は神邏達の元にやってきた。
もちろん敵を全滅させて……
――つづく。
「次回 お前なんだろ?」
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