第19話  学園での日々

 魔族襲撃から数日後。


 試合は中止になったあと、まだ再開の目処はたっていなかった。

 

 魔族襲来でうやむやになり、気づいたら仮面の女の子は神邏の前から姿を消していた。

 神邏はその女の子が誰なのか見当ついていた。


(あの娘……多分ルミアだ。父が連れてきたのか?)


 ルミアとは、神邏の幼なじみの女の子。魔族の友人に切られ重傷を負い、神邏が天界で修行するきっかけになった女の子だ。

 二度と同じ目に会わせないように、守れる力を手に入れようとした、そのきっかけの……


(心配して来てくれたというのなら……嬉しいことだが……)


「ねえ神邏」


 考え事してる最中、名を呼ばれ顔を上げる。

 視線の先には水無瀬の姿。


 ……どことなく彼女の顔は赤い。それに下の名前呼び……?

 別に名字だろうが名前だろうがかまわないため、そこについては神邏は何もつっこまなかった。


「水無瀬? なんだ?」

「ワタシ達、試合で結果残したじゃない?」

「ああ」

「だから次期会長はワタシ達の誰かってことになるのは間違いないと、西園寺会長言ってたわ」

「そう」


 神邏は特に興味をひかれなかった。生徒会や会長職につきたいから入ったわけではないからだ。

 

 さらに力をつけるべく、西園寺になかば弟子入りするように入ったまでのこと。誰がなろうがかまわない話だった。


「興味ないの?」


 神邏の態度で察する水無瀬。

 対し頷く。


「ああ。南城でも、君でも、好きなほうがやるべきじゃないかな」

「ワタシは神邏がやるべきだと思う」


 ポカンとする神邏。想定外の発言だったからだ。


「……なぜ?」

「少なくとも、ワタシ達一年の中で一番強いから」


 同期ナンバーワンの成績である南城が負けたアゼル。そんな奴に神邏が勝ったことを考えれば、必然的にそうなる。


「仮にそうでも、会長職なんて向いてない。強ければいいってものではないだろ。俺は天界の事や学園の事もよくわからないし」

「ならワタシがサポートするわよ! 他の役職について! そ、その……つ、常に寄り添って」


 水無瀬の顔はさらに赤くなる。

 他の思惑があるように感じられる。よこしまとは言わないが、下心あるかのように……


「なら俺がサポート役やる。水無瀬がやったらどうだ?」


 それに気づかず、神邏は提案。

 当人はやる気がないもよう。


「「それは勿体ないぞ!」」


 生徒会室のドアを勢いよく開け、二人の人物が入室してきた。

 一人はちょびひげの長身。もう一人は若い……とはいえ神邏達よりは全然年上の大人の、同じく長身で筋肉隆々の男

 

 神邏はその二人に見覚えがあった。

 

「たしか……観覧席にいた方々……ですよね?」


 そう、父の火人と同じく試合を観戦していた周防と葉隠だ。


「オレは周防、こっちは葉隠。どっちも天界軍の上位ランカーだ」

「……どうも。美波神邏です」

「堅苦しい挨拶はぬきにしてだな! シン、お前弟子になるつもりないか? オレの」


 いきなりのあだ名呼び。そして弟子? 突然すぎる提案に困惑する神邏。


『悪くねえ話かもよ。美波』


 今度は会長の西園寺が入室してきた。

 西園寺は周防と葉隠を値踏みするようにじっと見比べる。


「周防ってのはお前の父と共に最前線で戦い、サポートした強者。更なる強さを求めるなら弟子入りは賢いかもな」


 神邏は、西園寺がそう言うのならそうなのかもしれないと納得する。彼自身、西園寺への信頼度はそれだけ高くなっていた。故に簡単に納得してしまう。


「西園寺、お前目上の周防さんにタメ口きいてんなよ」

「まだ入隊もしてねえのに、目上もくそもあるか? 


 今度はあえてさん付けしたように見える。煽ってるとしか思えない。

 

 神邏は少し意外に感じた。

 西園寺はぶっきらぼうだし、会長職のやる気もない男だ。だが人を貶すような人ではない。

 それゆえに、葉隠に対して煽るような態度はらしくないとしか思えなかった。


「お前、おれと年が近くなくてよかったよな? もし年代が同じなら、学園トップはおれ。西園寺、お前がこんなに騒がれる事はなかった」

「近かったら騒がれないのはあんただろ? 奇跡の葉隠さんよ」


 察するにこの二人、元々知り合い。そしてすこぶる仲が悪いのだとわかる。


「そもそも周防が弟子として美波を見に来たのはわかるが、あんたは関係ねえだろ」

「おれは……止めに来たんだよ。奴の弟なんか弟子にするなとな」


 葉隠は神邏をチラリと横目で見た。

 葉隠は兄の修邏を嫌っていると瞬時に把握する神邏。

 神邏が知ってるのは、兄が天界を裏切った事だけ。それを考えれば、弟の自分を良く思ってないのもわかると理解していた。


「おい葉隠、なんて事言うんだ」

「周防さんは黙っててくださいな。だいたい……」


 苦言をていする。そのつもりだった葉隠をある出来事が邪魔をする。


 突然学園の一階付近から爆発音と悲鳴が聞こえたのだ。

 

 ――何事? この場にいる全員がそう思った……



 ――つづく。



「次回 学園襲撃」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る