第18話 招かれざる来客
突如空から会場に降りてきた、複数の人物達……
何かのイベントとかではない。
降りてきた人物達は、肌の色が普通ではなかった。
緑だったり赤かったりと。
角が生えた者までいる。
それらを鑑みて、どう考えても人間じゃないと判断できる。
そんな連中の中の一人が、口を開く。
「聞け天界人共! 我々は魔界の帝王軍! この場にいる貴様らを全員血祭りにあげてやる! あわてふためけ!」
魔界? 帝王軍?
神邏の頭の中は疑問だらけだった。
魔界というと、この天界と同じく異世界。それも魔族の住む異世界だ。
それと人間離れした姿から察するに、奴らは魔族で間違いない。
魔族はこんな姿をしたものもいるのかと、神邏は思った。
幼なじみを傷つけた皆木は人間とさほど変わらない容姿だった。
魔族は千差万別、人のような者もいればこのような鬼みたいな者もいる。
帝王軍はおそらく魔族の組織だろう。
……つまりまとめると、魔族が組織を率いて天界を攻めてきたのだとわかる。
一大事じゃないかと、一人焦る神邏だったが……
周囲を見ると驚いた者はいても、慌てたり、逃げ惑うようなパニックにはなっていなかった。
魔族の方もそれに気づいた様子を見せ、露骨に不満そうな表情をあらわす。
「貴様ら! どういうつもりだ! 泣け! わめけ! 逃げ惑え!」
「こうもマヌケな魔族、初めて見たぞ」
観覧席に座っていた、天界軍最高司令官、黄木善は心底呆れた様子。
「この場には、天界軍の上位ランカーに……」
横目で美波火人をチラリと見る。
「天界の英雄様がいるんだぞ? 恐れる必要など、あろうはずがない」
魔族は燃えるような赤い髪をした天界人、美波火人を確認すると……
「なるほど、てめえが英雄と有名な奴か。なら始末すれば幹部の座を約束されたようなものじゃねえか!」
「やれやれ。実力の程もわからんとはな……火人、おまえ一人に任せていいか?」
火人はゆっくりと立ち上がり一言。
「任せろ」
そう発した瞬間、偉そうに話してた魔族以外が突然発火し、絶命していく!
「な、なにぃ!?」
火人はなんの動作もしたように見えなかった。いや、していたのにあまりの速さでわからなかっただけだろうか?
あっという間に大量の兵隊は死滅し、残るはただ一人。
「ぐっ! ま、まだだ! 増援はさらにやって来る!」
その言葉通り、またも空の時空の歪みから、魔族の集団が大量に現れ、会場に降りてくる。
――しかし、いつの間にか穴の空いた天井付近に獄炎が囲っていた。
このまま落下するしかない魔族達は、その獄炎に自ら飛び降りる形となり、勝手に焼け焦げ消滅していく。
「どうする? まだ増援呼ぶか? 死ぬだけのようだが……?」
「お、おのれ……」
「まあなんにせよ、手遅れだがな」
「なにを……ギャ!」
しゃべっていた魔族も同じように発火し、一瞬で消滅。
すると時空の歪みも消え去る。
よって魔族の来襲もなくなる。
「ふん。無駄と気づいたか」
火人は天井の炎を消す。
結局、襲来した魔族達ができたことは、会場の天井に穴を開けることだけ。
観客も無傷。まさに何しに来たのかと言われかねないほど、何もできなかった。
みんなそれがわかっていたから、誰も慌てたりしなかったのだ。
美波火人がいる会場で、何を恐れる必要がある。そうみんな思っていたからだ。
これが天界の英雄、美波火人という男……
皆、盛大な拍手を火人に送る。
「「さすが英雄!」」「「すげえ!」」
観客に軽く手を上げて声援に答える火人。
圧倒的な実力、凄まじい存在感を放つ父に驚く神邏。
神邏は父が、これ程すごい人だと思わなかったからだ。
天界という世界で働いてる、それしか知らなかったから……
尊敬とわずかな畏怖を感じていた。今の自分どころか、強さに憧れた西園寺と比べても比較にならない、絶対的な強さを父が見せたから。
……そんな父より優れていた兄の修邏は一体なんなんだと思いたくなっていた。
一方火人はただ一人、一件落着だなんて思っていなかった
(あの魔族……どうやって天界に侵入した? とるに足らん相手だったとはいえ、帝王軍……警戒したほうがいいかもしれんな)
♢
帝王軍の襲撃により、試合は中止となった。
観客や選手の神邏達は皆会場を後にしていた。
……そんな誰もいなくなった会場に、二人の人影が……
「おい。どういうこったよ」
飴を舐めながら何者かに話しかける光帝の息子、蜜則。
「あんなにあっさりやられるような連中じゃ、帝王軍なんかに任せられねんじゃ?」
「フフフ殿下、あれは帝王軍の中でも雑兵です。むしろ帝王軍が大した組織ではないと、天界軍に見せるための行動だったのですよ」
「信用できんのか? で、今度は学園の襲撃?」
「ええ。そして今回の事と合わせ、魔族を天界に手引きした相手として……」
蜜則は汚ならしく笑う。
「美波神邏に罪をなすりつけるわけだな! キヒヒヒ! 期待してるぞ情報屋!」
――つづく。
「次回 学園での日々」
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