第17話 協力するよ水無瀬
「ありがとう水無瀬」
心からの感謝と笑顔を神邏は水無瀬に見せた。
絶世の美男子ではあるが、常に無愛想で無表情なのが美波神邏という男だ。
そんな彼が不意に見せた笑顔……
「た、たたた、大したこと! 言って……な、ないわ。き、気にすることないから……」
明らかに水無瀬は動揺していた。
色恋に興味のない彼女にとって、容姿の美しさを気にした事はなかった。自分自身にすら。
だが、そんな彼女でも心を揺さぶられてしまった。神邏の笑顔に。
容姿に無頓着だろうが、イケメンに興味なかろうが、女性が好きな人だろうが……神邏の容姿には関係なく魅了されてしまう。
それほど名前についてる通り、神がかった、次元の違う顔立ちの良さをしているのだ。
美しすぎる。カッコよすぎる。
誰もが見惚れてしまう……それが美波神邏という絶世の美男子なのだ。
水無瀬はがらにもなく、顔が真っ赤だった。
(なに? なんなの? 破壊兵器かなにかなの? こ、こんなの、こんなのは、反則……)
すぐさま顔をそむけたのだが、ちらりと神邏を見る。
後光がさしてるかのようにまぶしい。カッコ良すぎて、照れて、見てられないのに……惹き付けられ、見てしまう。そんな様子だった。
神邏は、そんな水無瀬の様子に気づかずに……
「協力するよ水無瀬」
「協力? な、なにを?」
「軍で出世なりすれば、自分の意見通す事もできるようになるんじゃないか?」
「え?」
「だから、婚約解消……いや、まだ許嫁だから言い方違うか? まあともかく、関係を解消できるように力を共につけよう。なんなら俺から頼……」
「はぁ!?」
水無瀬の声は観客席にも響きそうなほどの音量だった。
「そ、それどういう意味……」
「いや、不服だろ? 俺と許嫁だなんて」
「不服なんて言ってないでしょ!?」
周囲がシーンと静かになる。
神邏は首をかしげて……
「不服じゃないって……なら、」
「あ、あ……」
沸騰するかのように水無瀬の顔は真っ赤に変貌。あまりにも、らしくない表情だった。
自分の言った言葉の意味を理解し、照れて、恥ずかしがって、そして……
自らの本心に気づいた。
「ご、ごめんゆかりん……ま、負けた……」
先鋒をつとめていた同級生の東国が、申し訳なそうに敗北を伝えに来た。
「あれ? どうしたのゆかりん。お風呂にのぼせたみたいな顔して……」
「あああああ~!!」
水無瀬は突然叫びだして、次鋒戦、自らの試合に駆け込んで行った。
恥ずかしすぎてこの場から離れたくなったのだろう。
「何あんた? 彼氏と試合前にいちゃつくとか……」
と、対戦相手の女子が文句をつけようとしたが……
「か、彼氏!?」
照れ隠しのようにレイピアを瞬時に放ち、対戦相手の女子を一瞬でノックアウトしてみせた……
そのあと、逃げるようにリングから降りていく水無瀬。
まだ勝利のコールすらまだなのに。
降りてきた水無瀬を称える仲間達だったが、水無瀬はガン無視。
だが……
神邏が軽く手を出すと、ちゃっかり水無瀬はハイタッチ。そして彼女は控え室に逃げるように去っていった。
そんな水無瀬の様子に、神邏は少し考える。
「水無瀬……まさか、いや、そんなはず……」
一つの可能性を感じるが、すぐさま否定。その可能性とは自らえの好意。
自信は取り戻したが、まだ自分が好かれるような者とは思ってはいない。
その上過去に、神邏への嫉妬である男子生徒が言った言葉、『お前なんて好きになる奴なんていない! 勘違いしてんな!』
ある女子が自分を好きなのかと疑問に思った時、その女子を好きだった男子生徒が、そのような心ない罵声を浴びせていたのだ。
……それが神邏には軽くトラウマらしく、自分への好意に鈍感になっていたのだ。
西園寺は一部始終見てから笑い出す。
「お前、女心には鈍いというか、かたなしなようだな」
「会長……それはどういう」
「ま、後でキスでもしてやれ」
「何を冗談……」
バキバキっと、何かが砕ける音がした。その音は、一人の女子生徒が木の棒を握力で握り潰した際に響いた音だった。
凄まじい握力。
しかしこの女子生徒、なぜ棒を……?
いや、そもそもこの女子生徒、なぜか仮面を着けて顔を隠している。
「会長、彼女は……?」
「知らん。観覧席の誰かの身内らしいが、なぜかさっき試合を間近で見させてやってくれって言われてな。ここに招待した」
つまり代表選手でも生徒会の人でもないわけだ。
……なぜか仮面女子は神邏をじっと見てる。
「何か?」
問うと、仮面女子は何も発せずに首を振った。
「この女、さっきもお前と水無瀬見ながらイライラした様子でな。どこでひっかけたんだ?」
「何を言って……」
神邏は仮面女子をじっと見る。
仮面女子は急に声も出さずにあたふたしだす。
顔も隠し、声も出さない少女……だが、神邏は何かにきづく。
「君、もしかしてル」
言いかけた瞬間、突然試合会場の天井が崩落しだした。
瓦礫が多数リング場に落下!
そして……天井から複数の何者かが……降りてくる。
――つづく。
「次回 望まぬ来客」
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