第14話  神邏対アゼル

「さて、見ものじゃないか」


 黄木が火人を挑発するかのように、視線を送った。


それがしの秘蔵っ子と、英雄様のご子息……どちらが上か」

「煽るな煽るな。何度も言うが、神邏は争い好まないし、修みたいに才能があるわけではないんだ」

「言い訳は聞かんぞ。お前には学生時代から、何から何まで負け続けてきた。こんな事くらいは勝たせてもらいたいものだ」

「何をバカな……最高司令官様とあろうものが」


 黄木は軍の最高司令故に天界軍の事実上トップ。相談役の元老院などもいるが、軍の全権は、天界の王たる光帝から任されている。


 火人は天界最強の幹部、天界四将軍ではあるが、軍で一番偉いわけではない。


「オレの上司な以上、勝ってるようなものだろう……」

「立場がなんだと言うんだ。天界で一番強いのはお前。戦場で士気を高められるのも、若い者から尊敬されるのも、英雄のお前だ。それがしはただ偉いだけで、椅子に偉そうに座ってるおっさんだ」

「お前も充分強いし、偉そうに座ってるだけなんて事は、」

「若い連中はそう思ってるさ。なあ葉隠?」


 急に話を振られた葉隠はわたわたする。


「ええ!? な、なんすか急に」

「軍の未来を担う希望ホープの一人、奇跡の葉隠くんはそれがしをなめてるんじゃないのか?」

「い、いやいやそんなまさか……」


 視線をそらす葉隠。誰かとそんな話でもしてたのかと思われる。

 気まずそうな葉隠の態度でわかるというもの。


「まあいい。試合も始まるようだしな」


 特に追及せず、黄木は視線をこれから戦うであろう二人に向けて戻す。

 火人の視線は神邏一直線。どことなく心配そうな表情を見せている。


(神邏、無理するなよ……無理そうならすぐに降参しろ。大体優しいお前に戦いなんて向いてないんだ)


 息子が怪我するんじゃないかとヒヤヒヤのようだ。

 模擬戦とはいえ、大怪我するものは少数だが毎年のようにいる。 

 親なら心配も当然の話だ。


(才能だってない。ただ、戦いなど向いてないとわからせるために、この天界の学園に入れたんだ。諦めさせるように……)


 そう、誰かを守れる力を求めた息子に、道を示すために学園に入れたのではない。

 一度過酷さを教え、挫折すれば、戦いなんて危ない道にいかなくてすむかもしれない。そう思ったからだ。

 だからあえて、素人が通うような学園ではなく、エリートの通う学園に入学させたのだ。

 すぐにでも挫折させるために……


 それなのに、何故かこんな代表に選ばれる選手になっていた。あまりにも想定外だった。

 そこには、兄である修邏の劣化コピーになったという、カラクリがある。しかし、火人はそれを知るよしもないので、疑問しかなかったのだ。


 そんな父の心配をよそに、神邏は闘技場に上がろうとする……


「美波」


 西園寺に呼びかけられると、金色の剣を差し出された。

 ……どこから用意したのだろうか?

 

 神邏は問う。


「これは?」

「オレの金属性魔力で精製した武器だ。これを使え」


 魔力属性の金。それは魔力を秘めた武器を、作り上げることができる特性を持っているのだ。

 普通の鉄などでできた武器は、魔力を武器に集中でもすれば、いとも簡単に砕ける。だから魔力を使う戦闘では役に立たない。

 

 そこで例外となるのが金属性で作られた武器だ。

 魔力で作られてるため、武器に魔力を込めても砕けず、魔力と武器の分、攻撃力を高めることができる。


「武器使ってもいいんですか?」

「使用不可なんてルールはねえ。それに、刃はついてねえから棒みたいなものだ」

 

 確かに、刀に刃はない。どちらも刀背みねになっている。

 とはいえ素手相手に武器は気が引ける様子を見せる。


「模擬戦は武器の使用を推奨してる。それなのに素手ってことは、アゼルって奴はそれだけ自信があるんだろうよ。だから、構うことはない」


 西園寺の説得に折れ、神邏は武器を受けとる。

 重さはさほどではない。だが、


(剣なんて使ったことないんだがな……まあでも、素手で挑むよりはましか?)


「修邏さんは剣の使い手だった」


 西園寺は笑みを見せる。

 劣化コピーなら使いこなせる。そう言いたいのかもしれない。


(まあ、やれるだけやるとするか)


 ダメで元々。西園寺には自分に回すなとは言われてるが、神邏は軽い気持ちで壇上にあがる。

 連戦のため、すでに待ち構えてるアゼルは、神邏の姿を値踏みするようにジロジロ見る。


「まーた弱そうな奴やな。顔がいいだけでひょろっちい……。早く西園寺引きずりだしたるわ」


 神邏は無言で刀を構える。

 ――そして、試合開始のゴングが鳴る。


 ――瞬間、アゼルは一撃で仕留めようと、神邏の眼前に一瞬で移動。そして、渾身の拳を――


死犬拳デスブリット


 腹部めがけて放った。

 南城を倒した時と同じだ。


 アゼルは、その恵まれた体格を存分に発揮した身体能力と魔力で、多くの猛者をこの模擬戦で仕留めてきた。

 全員、この一連の動きで倒してきた。容易に。


 ――だが、


「……なんやと?」


 アゼルの拳は神邏に届いてなかった。拳は刀によってガードされていたのだ。

 故に響いたのは腹部に直撃した音ではなく、鈍い金属音だけ……


「あまり、人をなめてばかりいると……足元、すくわれるぞ」


 神邏は表情一つ変えずに、言い放った。



 ――つづく。


「次回 剣と拳」

 


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