第12話 他校の逸材
修邏が実の息子ではない……葉隠はそう言った。
周防は他に聞いたものがいないか周囲を見渡す。特に神邏に聞かれたらまずいと思ってるようだった。
神邏達は試合が終わってたため、控え室に引っ込んでいたようだった。ほっと胸をなでおろす。
葉隠を注意するかと思ったそのスキに、ある幼い見た目の少女が葉隠の後頭部を叩いた。
「いって!」
「何公衆の面前でほざいていやがりますか……」
「あ……? か、
「ここは誰だろうと入場は許可されてるはずですよ? なんか問題でも?」
「いやそういう意味では」
神咲という少女に気づいた火人は、先ほどまでの仏頂面から反して笑顔を見せる。
「むっ? 始緒邏ちゃんではないか! 久しぶりだね」
「……火人さん。しばらくです」
神咲は視線を合わせない。どこか苦手にしてるような態度に見える。
「神邏を見にきたのかい?」
「……ええまあ。――で、弟くんは?」
神咲はキョロキョロ見回す。
「初戦終わったから控え室だよ。ここで見ていくといい」
火人は椅子を用意すると、神咲は軽く頭を下げてから座る。
その後、葉隠を軽く睨む。
「あの子の前で、その話するんじゃねーですよ?」
「あの子? 神邏とかいう?」
「そう」
「あーそうか。お前と合わせて三姉弟だったな」
――そして、
美波神邏の実の姉である。
この事は神邏も知らない事実だ。それゆえに口封じを頼んだわけだ。
美波夫妻は子宝に恵まれなかった。そんなとき、親友夫婦が子供を残してこの世を去った。
美波夫妻は親友夫婦の子供三人を引き取ろうとする。しかし始緒邏のみ、それを拒否。彼女は全寮生の学園に入り、勉学などに励み一人で軍の幹部に登りつめた。
神邏は当時生まれたばかり。その上、始緒邏とは会ったことがないのだ。そんな事実知るよしもなかった。
「修邏の起こした反逆、奴と敵対した神咲はいいけど、弟のほうは大丈夫なのかね……」
「葉隠、弟くんが修くんみたいになると言いてえんですか? それは育てた火人さんへの冒涜にもなりやがりますけど?」
「いや、火人さんにどうこう言うつもりは……」
パンッと、大きく手をたたく周防。
「そこまでにしとけ、試合再開するみたいだぞ! ほら、神咲も弟くんの勇姿見なよ」
「……そうですね」
下手な言い争いを遮り、試合に集中させる。何が目的でここに来たのか、全員に言い聞かせるように。
火人は周防に軽く頭を下げる。
「すまんなタケ。こういうのはオレ達の役目だろうに」
「いえいえ! そんなことよりお子さんの試合始まりますよ!」
周防は少し照れた様子を見せた。彼にとって英雄火人は尊敬する先輩だった。
そんな男に頭を下げられるなんて、恐れ多い事だったから。
「試合か、中等部の快進撃もここまでかもしれんぞ」
最高司令の黄木が言う。
「次は高等部の、軍への入隊も決まってる連中も出てくる。そして、某の秘蔵ッ子があれだ」
火人は黄木の指す方へと視線を向ける。そこには高身長で金髪の男が腕を組んで立っていた。
「奴の名はアゼル・ディボルト。年齢はお前の息子とは変わらないが、実力は本物。……そして火人、お前にだけは教えておく」
そっと黄木は火人の耳元で囁く。衝撃の一言を。
「アゼルは魔族だ」
火人はすぐさま振り返り、驚愕の表情を見せた。
「わかってるとは思うが、他言無用で頼むぞ火人。人、天界人、魔族全ての共存を願うお前にだから話したのだからな」
この天界とは別の異世界の魔界。そこの住人といえる魔族と天界人は、幾度となく争ってきた。人間界だって魔族による被害を、今もなお受け続けている。
天界人にとっては
そんな魔族をこの天界で、それもこの世界を守る、未来の天界軍といえるかもしれない大会に出場させている。
気でもおかしくなったかと言われても、おかしくはない。
最高司令とはいえ責任問題になる可能性もある。アゼルだって、バレたらただではすまないかもしれない。
そんな重大な事を火人には話すということは、黄木はそれほど彼を信用しているのかもしれない。
火人は全ての種族の共存を願っていると黄木は言った。それが理由として大きいのかもしれないが。
「某は実力さえあれば、人だろうが魔族だろうが人種は問わん。天界を守るためには強さが必要だからな。火人、お前ならわかるだろ?」
「……まあな」
「そしてアゼルは特に目をかけている。お前の息子、果たして勝てるかな?」
「なんだお前、競う気なのか? 言っとくが、神邏はそういう争いを避けてきた子だ。あまりそういう、どちらが上かとか、プレッシャーを与えるような事はするな」
この天界に来て、さらに
――つづく。
「次回 出番、来る」
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