第10話  無理難題

「会長も、無理難題押しつけたもんだよな~」


 会議が終わり、西園寺の去った生徒会室で、役員達がぼやく。


「今年は去年よりレベル高いとか聞くぜ? 会長ならまだしも、おれらだけでなんてよ。それに実質的大将を新入りの小僧に任せるってんだからな」


 横目で神邏を見る。


「おそらく他の二人も代表に入れるんだろうけどよ……学園の面子かかってるとわかってんのかね?」

「会長がそんなこと気にするタマかよ。となると、残る枠は一つだけか? 春夏秋冬の誰かだろうし、おれらの出る幕ねえか……」


 嫌みにも聞こえる役員達の会話。でも新参故に仕方ないと神邏は思っている。

 

 だが、託された以上できる限りの事はする。

 人から頼りにされるというのは、神邏にとっては初めての経験に近い。重荷と言えば重荷だが。


「おい」


 南城に声をかけられる神邏。

 もしかしてこいつも嫌みか何か言ってくる気か?  と、思う。


 大将の西園寺に回さないよう計らう中の副将、つまり、実質神邏が大将のようなもの。

 プライドの高い南城ならば、許されない事だろう。

 故に、何言ってくるか予想が……


「オレ様の実力、よーく見ておけ。西園寺にも、お前にも、どちらが上か実戦で見せつけてやるからな」


 意外にも、嫌みではなかった。

 ただ、実力を誇示したいだけ。そう聞こえる発言だった。


 少し呆気にとられ、ポカーンとしてる神邏に気づくと南城は、


「なんだ? そこの役員連中みたいな事でも言ってくるかと思ったか?」

「あ、いや……」

「実際、退屈な雑魚を掃除する任務しかなかったんだ。実力ってやつを見せる舞台がなかった。だから今現在の評価なんてもんはあてにならねえ」


 つまり、他人がどう思っていようが関係ない。そう彼は言いたいのかもしれない。


「本気、全員に見せたら度肝を抜かす事になるぜ。西園寺も、お前もな。ただまあ、本気じゃないのはお前とて同じ事なんだろうがな」

「……」


 本気……?

 全力の力、確かに神邏は出していないのかもしれない。


 当人としては、兄の劣化コピーとなった時点で、前までの全力などとっくに越えている。

 だが、今使ってる力は果たして全力なのだろうか? 自分自身わかっていなかった。


 本人がわからないとはどういう了見だと思われるだろう。

 兄のおかげで自らの眠った魔力を呼び起こせるようになった。

 そして兄の才能のおかげか、みるみる上達している感覚もある。


 何が言いたいのかというと、例えば昨日までの全力が、今の全力とは限らないということだ。

 兄の一割に近づけば近づくほど、全力の力は増す。

 今なお凄まじい速度で成長を遂げているわけだ。コピー以前なら考えられない事……


 インチキみたいなものと、ネガティブになるのもおかしくない。

 美波修邏……いかに規格外な才能をもった天才だったか、身をもって知らされる気分だった。



 ♢



 時は過ぎ、あっという間に対抗戦の日がやってくる。

 大きなドーム会場で、カメラのようなものも多く設置され、とても中高生の試合とは思えない、大がかりなものだった。


 観客も多く、解説席にはなんと、現役天界軍のメンバーの姿もあった。


 天界軍のトップ、最高司令官の黄木善おうぎぜん

 幹部と言われる上位ランカーの周防武意人すおうたけいと葉隠敏宗はがくれとしむね

 そして……


 神邏の父、美波火人の姿があった。



 ♢



 開会式の宣言が終わり、早くも初戦が始まろうとしていた。

 神邏達の学園の相手は、高等部で前回ベスト四の強豪らしい。


 代表五人が集まり、互いに礼をした後、さっそく先鋒戦が始まろうとしていた。

 神邏は副将故に四戦目……

 大舞台での実戦など初めてで、彼は緊張していた。


(西園寺会長に回さず先に三勝……となると俺の試合までに許されるのは一敗のみ。そして俺に回る時点で、敗北は許されないわけだ。その上……)


 ――試合前の選手控え室で西園寺は、他の代表の前でこう言ったのだ。


『オレへのリベンジに燃えてる連中や、最強の選手は恐れずかかってこい。


 と、西園寺は他校の代表に挑発したのだ。

 西園寺は大将。副将は神邏だというのに。

 その件で話を聞くと奴は……



 策士というか、なんというか……

 要は実力者を神邏に当てるための計らいなのだろう。それだけ期待されてるというわけだ。


(あまり自信はないが、やれるだけやってみるか。今の俺なら多少は)


「おい。何ボーッとしてる」


 南城に呼び掛けられた。――という事は?


「出番か?」

「……何言ってんだ?」


 首をかしげ、南城は続ける。


「初戦は終わった。オレ様達の勝ちだ。三連勝でな」

「――え?」


 そう、神邏に敗北は許されないと言ったが、先に戦うもの達が三連勝したら、神邏の出番はそもそもないのだ。


 相手は高等部だったはず……

 今回の代表、全員実力者なのは疑う余地はない。


 ――ただ、神邏は今か今かと緊張してた自分が、バカみたいと思ってしまっていた。


「……むしろ、俺の出番もなかったりするのかな?」



 ――つづく。



「次回 逸材揃いの代表メンバー」

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