第8話 学園対抗戦
先刻の妖魔退治はあっけなく終わった。大した妖魔などいなかったから至極当然の事。驚く事などなにもない。
ただ、西園寺の思う以上に、神邏、南城、水無瀬の三人は優れた力を見せてくれていた。
現れた妖魔の討伐数、その三人が断トツで多かったのだ。
トップ三を三人が独占。実力だけでなく、討伐速度も早かった。他の役員の誰よりも。
無論西園寺もやってれば、彼が討伐数トップになっていただろう。だが会長の西園寺を除けば、すでに生徒会内では誰よりも強い。そう思えた結果だった。
すでに実戦経験豊富な先輩連中を押しのけての結果だ。そう思うのは当然。
(特に美波だ。速度こそ三人の中では遅い三位だったが、実戦での緊張、初めて見る妖魔への恐怖心ありきでの結果だ。そして最初の妖魔を仕留めた姿……修邏さんを彷彿とさせた……)
西園寺は笑みを浮かべて武者震いしていた。
学園始まって以来の天才だの、将来の軍の最高幹部は確実だのと、どうでもいい賛美には飽き飽きしていた。
西園寺が求めるのは更なる強さ。そのためには自分と近いレベルの実力者。
軍に入るまでは、そんな相手見つからないと思っていた。
だが、いた。
まだ荒削り、まだ力不足。でも可能性の塊。
西園寺が生きてきて唯一感じた恐怖、そして憧れを抱かせた相手……美波修邏。そんな男を兄にもち、そして彷彿とさせる弟、美波神邏。
育てがいしかない。
いずれ自分の領域に上がってくる。そんな男を西園寺は嬉々として待ちわびる……
そのためには……
♢
あれから何度かの妖魔退治の任務をそつなくこなしていく神邏、南城、水無瀬の三人。
もう他の役員たちも認めざるおえない結果の数々を彼らは出していた。
――しかし、神邏はというと……
(俺の場合はインチキみたいなものだからな。誇れることなど何もない)
相も変わらず自虐的だった。
自分自身の力で今この場に立ててるわけではない。
超天才の兄、修邏の劣化コピーとなったことで開花した実力にすぎない。自分は路傍の石、いや、それ以下でしかないのにと……
「なにいつまでも暗い顔してるの」
水無瀬の声――が耳に入った瞬間! 彼女の手刀が神邏の首筋付近を襲う!
神邏は頭を動かすだけの、最小限の動きで躱す。
「ならこれはどう?」
水無瀬の全身が突然発光! 目眩ましには充分なほどまぶしい光が辺りをてらす。常人ならそのあまりの眩しさに一瞬視力を失い怯むことだろう。
――だが、
「え!?」
気づいたら水無瀬はしりもちついて転んでいた。
何が起きたかというと、発光直後は水無瀬自身、完全に無防備になっていた。神邏はそこをつき、軽く足払いして水無瀬を転ばせたのだ。
光は先に察知し、神邏は目を閉じた。それゆえに眩しさに怯むことなく攻撃にでれたのだ。
神邏は少し不機嫌そうに水無瀬を見下ろす。
「……いきなりなんの真似だ」
無理もない。いきなり首筋への攻撃、殺す気だったのかと言いたくなるだろう。
水無瀬は少し笑みを浮かべ……
「ごめんなさい。試すような事して。でもさ、こんな芸当できるんだもの、少しは自信もてば?」
「……君には前に言ったと思うが、これはインチキで得た力だ」
「お兄さんの一割のパワーだっけ? でもその一割も得たわけじゃないんでしょ? 眠ってた力を引き出したきっかけなだけと聞いたわよ?」
一割の力を得るのもまた、簡単ではない。
今現在は自らの魔力を扱えるようにしてくれただけしか恩恵はないのかもしれない。
「力だけじゃない。あいつの才能、考え方も俺に備わってる」
「証拠は? そんな抽象的なもの、思い込みなだけかもしれないわ」
「わかるんだ。心の奥底に潜むあいつが、俺を乗っ取ろうとする感覚が……」
「考えすぎ」
水無瀬はスッと立ち上がる。
「例えばさ、お金持ちの家の子が、お金にものをいわせた設備、英才教育、優れた教師をつけてもらったとするわ。……それってインチキ?」
「いや……」
「ズルいとは思っても、インチキかと言われれば違うでしょ? それと同じだと思うの。恵まれたお兄さんの力を受け継げる血筋ってだけ。要はお金持ちの英才教育みたいなものじゃない」
「違うだろ……こっちはドーピングみたいなもの……」
「これから努力して一割目指すんでしょ? それってドーピング?」
神邏は言葉につまった。それと同時に関心させられた。うまく言いくるめられそうだと……
「その努力で一割越えでもしたらさ、もう劣化コピーとも言えないじゃない? 暗く腐るくらいなら、お兄さんの劣化破る気概みせなよ」
「「形無しだな美波」」
背後から西園寺が軽く笑いながら現れた。
「それじゃあ将来、尻に敷かれる未来が待ってそうだ」
「……将来?」
首をかしげる神邏。彼は水無瀬が許嫁と知らないのだ。
対する水無瀬は黙っていた。
「それより、今度天界軍養成の学園同士で対抗戦をすることになった。お前らはその代表だ」
急な発表だった。
対抗戦? 要は練習試合かなにかだろうかと神邏は思った……
――つづく。
「次回 オレに順番を回すな」
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