第3話  神邏の選択

『劣化コピー?』


 神邏は首をかしげる。研究員の発言をよく理解できていなかった。

 クローン技術の話から、コピーの話に変わったのだ。当然と言えば当然。


『クローン技術は一から始めなければ、できるわけがない。すでに修邏の弟として生を受けた君がクローンになることはない』

『でしょうね』

『そもそも成功確率はゼロ。並みな人間ならいざ知らず、あの修邏のクローンなんてなおさら無理』


 何が言いたいんだこの人は。そう神邏は思っていた。


『でもね。わたしのクローン技術の研究を応用することで、対象のコピーが可能かもしれないとわかった』

『対象のコピー……?』

『要は上書きだよ。例えばゲームのセーブデータ。レベル一の主人公のデータに、その後職業も違うレベル100の主人公のデータをそこに上書きセーブするみたいな感じかな』


 名前も能力もキャラ設定も違うキャラを、別の強いキャラに上書き保存……

 それを現実に置き換えるというのなら、人物Aを人物Bに変えるってことになる。


 それはつまり……人物Aの消失を意味することになる。


『俺の存在を消せと?』

『勘違いしないでくれたまえ。美波修邏の力は惜しいが、奴は大罪人だ。奴の人格とかまでコピーされたらマズイからね』


 なら戦闘力だけを上書きすると言いたいのだろうか?


『とはいえクローン技術も未完成で、コピーなどまず成功などしないだろう。できても奴の力の一割とかそんなものしかコピーできないかも』

『一割……』

『その上本来の自分の力じゃないんだ。悪影響を及ぼす可能性は高い。それに人格コピーはしないとは言ったが、必ずしも影響ないとは限らないしね』


 普通に考えればリスクしかない実験だ。成功したとしても一割。失敗すればどうなるかわからない。弱くなったり、人格に影響が出たり、下手したら死ぬ可能性だってあるのではないかと想像できる。


 この研究員は、そんなリスクだらけの実験をさせろとでも言うのだろうか?


『でもね、おそらく君に限っては成功率高いと思うんだよ』

『……何故?』

『君は修邏の実の弟……そして奴の魔力を直に、近くで受け続けていた』


 弟なのは事実だが、魔力を受け続けていた……?その発言には疑問が残る。


『言ったろ?君には高い魔力が眠っていると。それはもちろん君の潜在的能力でもある。だがそれだけじゃない』

『……?』

『修邏の膨大な魔力は彼が抑えていようとも、人々に悪影響起こす。魔力の少ないものなど顕著だった。とはいえ最後は完全にコントロールしてその影響を消せてたけどね』

『……それが?』

『火人殿が修邏を天界に連れてきたのは、その魔力の抑え方を会得するため……奥さんにも魔力の圧で苦しんでたらしいからね』


 神邏はピンとくる。


『……俺には悪影響がなかった?』


 研究員は笑う。


『そう。幼くして奴と共に住み、制御できない時から奴の魔力を受け続けて尚、悪影響を及ぼさなかった。魔力を吸収してたのか、奴に近いなにかがあるか……それを調べてみたくもあってこの提案をしたんだ』


 研究員には成功の糸口が見えてるように感じる。


 成功しても一割、いや、むしろ修邏の一割なら自分の何百倍だろうと神邏は思う。


 ……それなら前の悲劇を避ける事ができるのか?魔族から大事な人を守れる力を得られるのか?ルミアを……守れるのか?


 そんな力が手に入るというのなら……


『……お願いしても、いいですか?』


 

 ――つづく。


「次回 兄の一割」

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