第2話 最強の劣化コピー
美波神邏は天界に来る以前は普通に人間界で暮らしていた、ただの中学生だった。誰もが振り向く美しい容姿を除けば、別段際立ったところのない普通の中学生。
そんな彼はある日、事件に巻き込まれる。誰より大事な幼馴染の女の子が、切りつけられたのだ。
切りつけたのは別の幼馴染の女の子だった。
切られたのは神条ルミア、切ったのは
どちらとも神邏は仲がよかった。大事な二人だった。なのに加害者と被害者に分かれてしまっていた。
皆木は魔族だった。何故ルミアを切ったのかはわからない。
ショックだった。信じられなかった。
ふと、皆木を見たら……彼女は笑っていた。
許せなかった。ルミアを傷つけて笑っていた皆木を。
ルミアを助けるため、神邏は動いた。らしくないほどの大声で人を呼んで助けを求める。ルミアの救助のために、そしてルミアを傷つけた皆木に怒りをみせ、殴りかかった。
でも気がついたら天井が見えていた。病室の天井だ。
何もできずに、返り討ちにあったんだと理解した。
腹部をわずかに切られたのか、痛みを感じる。だが、ルミアのそれと比べれば屁みたいなものだった。
まずルミアの身を案じ、傷など無視して立ち上がろうとした。
だが、すぐに看護師さんに止められた。ならばと、看護師さんにルミアの所在を聞いた。
看護師さんいわく、命に別状はないと聞かされた。集中治療室にこそいるみたいだが。
ホッと胸を撫で下ろした。
だが、神邏は恐ろしくなる。魔族という存在は父から聞いたことがあった。その狂暴性、人を上回る戦闘力……それを実感させられたから。
平和に暮らしてた家族や友人が、一瞬で奪われてしまうかもしれない。それこそが一番恐ろしかった。
そんな神邏の胸中を察したか、父親である火人は誘ったのだ。
『天界で、鍛えてみるか?』
父親は魔族の犯罪を取り締まる、天界の軍隊に所属していた。ゆえに魔族との戦いのスペシャリストだった。
神邏自身は喧嘩もしない平和主義者。だったのだが、二つ返事で了承した。
自分さえ強ければ、こんな事は二度と起きないかもしれない。そう思ったから……
だが、現実は甘くない。
神邏には戦いのセンスなどまるでなかった。父親の計らいでいれてもらった学園の実戦授業などついていくこともできない。
……仕方ない。才能あるなんて思ってなかったし。そう当人は納得していた。
だが、ある日……神邏の人生を狂わす出来事が起きた。
『美波神邏くん。君、クローン技術に興味ないかい?』
軍の研究班と名乗る人物に、神邏は学園で声をかけられた。
『君の眠っている魔力。調べさせてもらったが規格外だったよ』
秘められた魔力のランク。神邏は学園でそれを調べられた結果、学生どころか、軍の上位クラスに匹敵するほどの物を内に眠らせていたのだ。
だが、使えなければ意味がない。才能がないからなのか、その魔力の一割も神邏は使えることができなかった。扱える技量、それが足りないのだ。
『君は兄、修邏に何かしら影響されている。だからこそ、内に巨大な魔力を秘めているんだ』
『……クローンとか言ってましたが、まさか俺が
『クローンではない。でも身内だからこそ、なにかがあると思うんだよ。……そこで相談なんだが、』
『……?』
『君、修邏のコピーになってみるつもり、ないかい? 最強の男の、劣化コピーに』
――つづく。
「次回 神邏の選択」
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