朱雀の備忘録

メガゴールド

第1話  大罪人の弟

 この世には三つの世界がある。

 人間の住む人間界、魔族の住む魔界、そして天界人と呼ばれる種族の住む天界。


 舞台はその天界から始まる。

 天界の戦士を育成する学園、そこに人間界育ちの少年が転校してきた。

 その少年……名を、美波神邏みなみしんらという。

 やや長めの艶やかな深緑の髪。長いまつげが綺麗な瞳を際立たせ、目元と鼻筋が恐ろしく整った絶世の美少年。年齢は現在13の中学二年生。


 そんな彼が天界の守護神、四聖獣朱雀へとなぜ覚醒したのか……これは、それを紐解く物語である。





 クローン技術を知っているだろうか?一人の人物と同一、コピーのような人間を作る技術と言われている。

 主に優れた人物に対して使われる技術。その優秀な力をもった人物を増やせれば軍の戦力にもなる。

 だが非人道的愚行、完全なコピーなど不可能、人格はオリジナル、成功確率はほぼゼロ。それゆえに、禁止されている技術であった。


「あの小僧ってさ、そのクローンの成功例だったりして」 


 一人の人物が少年、美波神邏の受けている実戦授業を見ながら呟いた。人物は学園の教師だった。

 

 同僚の教師が首を振る。


「まさか、禁止されている技術な上に成功例なんて聞いたことないものだぜ?未だに研究してる奴がいるかもわからないのに」

「そりゃそうだけどさ……見てると思うんだよ。美波修邏みなみしゅうらの生き写しみたいだって」

「……あの大罪人の?兄弟なら似てるのも当然だろ」


 美波神邏は煙たがられていた。 当時を知らない同い年の子供達はともかく、事情を知っている大人にとっては憎悪の対象だった。


 理由はその大罪人、美波修邏の弟だからだ。

 弟、ただそれだけだ。神邏自身には何の落ち度もない。だが一部の連中は兄に対する憎しみを神邏にぶつけていたのだ。八つ当たりかのように。


 だが、表だって嫌がらせはできなかった。

 なぜなら彼の父親が英雄だったから。


 英雄の父と大罪人の兄を持つ複雑な家系環境を美波神邏はもっていたのだ。


「親の七光りめ」


 英雄の父の計らいで彼は天界の軍隊養成学校に、一時的に通うことを許されていた。

 英雄の息子だから、特別に許されている。それがまた、一部の連中の反感を買う。

 

 ……神邏にとっては居心地の悪い環境だった。

 でも、彼は嫌々ながらも学園に通っていた。


 強くなれるかもしれないから。 

 





「ねえ、美波くん」


 眼鏡をかけた女の子が神邏に声をかけてきた。

 女の子の名は水無瀬ゆかり。黒髪さらさらのロングヘアー。やや小柄ながらスタイルはよく、くりっとした綺麗な青い眼がはえる、花も恥じらう美少女だった。


「わたし、少しあなたに興味もったのだけれど」


 ……勘違いされてもおかしくない発言だ。先ほど述べた通り、彼女は絶世の美少女。そんな子に興味もたれたなどと言われたら、普通の男なら有頂天になるだろう。


 ――しかし、神邏は。


 「なぜ?」


 視線すら合わせずに、少し冷たく言った。

 だが水無瀬は意に返さない。むしろ自らの美貌を熟知してる彼女にとっては、微動だにしない神邏に少し感心していた。


「あなたこの間測定した魔力の数値、異常に高かったわよね?」

「……」

「そのわりには、学園での実戦授業にまともについて来る事はできない」


 魔力……誰しもに存在する内なるパワー。その数値が神邏は学生離れしていた。だが、それを活かしきれていなかった。

 馬力だけのポンコツ……それが神邏の学園での評価だったのだか……

 

「でも、ある日を境に変わったわよね?動きのキレといい、使えなかった魔力を扱えるようになったり……。あなたの身に何があったのか興味あるの」


 神邏がポンコツだったのは数日前まで。今は人が変わったかのように魔力を使いこなし、クラスでNo.1の実戦成績を叩きだしていた。

 興味を引かれるのも無理はない。


 神邏は……自分を卑下するかのように口を開いた。


「俺は、修邏あにになったからだ」



――つづく。



「次回 最強の劣化コピー」

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