第2章:見えない鎖
村の朝は早い。西海正隆が目を覚ましたとき、既に日の出から数時間が経っていた。彼は宿泊している小さなゲストハウスの窓を開け、外の風景を眺めた。陽射しは柔らかく、鳥のさえずりが耳に心地よい。しかし、その穏やかな景色の中にも、貧困の影が見え隠れしていた。
正隆は早速、サーイと合流するために外に出た。サーイは今日、彼を村の学校に案内する予定だった。教育が貧困を脱する鍵であることを正隆は知っていたが、タイの農村部ではその現実がどうなっているのか、自分の目で確かめたかった。
学校は村の中心から少し離れた場所にあり、そこには古びた校舎が立っていた。子どもたちは木の机に座り、薄汚れた教科書を開いていた。教室には、老朽化した黒板と簡素な掲示板があるだけだった。サーイは教師たちと親しげに話し、正隆を紹介した。
「こちらが西海正隆さん、ジャーナリストとして日本から来てくれました。」
教師たちは微笑みながらも、その表情には少しの不安が見え隠れしていた。彼らは、自分たちの現状をどのように伝えればいいのか、迷っているようだった。
「ここでは、どのような問題が最も深刻ですか?」正隆は尋ねた。
「一番の問題は、教材の不足と教師の数が足りないことです。」と、一人の教師が答えた。「子どもたちは学びたいという意欲を持っていますが、環境が整っていません。」
正隆は教室を見回しながら、子どもたちの目に映る希望と不安を感じ取った。彼らの未来は、この場所での教育にかかっているのだ。正隆はその場に立ち尽くし、自分が何をすべきかを考えた。
その時、サーイが彼の肩に手を置いた。「正隆さん、次に行きましょう。今日は特別な場所に案内します。」
彼らは学校を後にし、再び村の細い道を歩いた。しばらく歩くと、目の前に広がる緑豊かな農地が見えてきた。サーイはここで働く農民たちを紹介し、彼らの生活について話し始めた。
「多くの家族はここで生計を立てていますが、収穫が不安定で、収入が安定しません。そのため、多くの子どもたちが学校に行く余裕がないのです。」
正隆は農民たちの顔を一人一人見つめ、その手が語る労働の重さを感じた。彼は自分がこの状況をどう伝えるべきか、深く考え始めた。
夕方、正隆は再びゲストハウスに戻った。窓の外には、夕陽が沈む美しい景色が広がっていたが、彼の心は重かった。貧困という見えない鎖が、人々の未来を縛っている現実を目の当たりにしたからだ。
彼はデスクに向かい、ノートを開いた。自分の感じたこと、見たこと、聞いたことを一つ一つ書き留めていった。彼のペンは、貧困の中で生きる人々の声を伝えるための一歩となるはずだった。
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