第3章:新たな希望
翌朝、正隆は早く目を覚ました。昨日の出来事が頭から離れず、彼の心には一層強い使命感が芽生えていた。彼はゲストハウスの簡素な朝食を済ませると、再び村の道を歩き始めた。
サーイと合流した正隆は、今日は村の診療所を訪れる予定だった。農村部では医療アクセスが限られており、多くの人々が必要な治療を受けられない状況にあることを聞いていた。
診療所は小さな木造の建物で、内部は簡素な診療室と待合室があるだけだった。診療所の前には既に多くの村人が集まっており、その多くは高齢者や子どもたちだった。正隆は、その光景に胸を痛めた。
「こんにちは、正隆さん。こちらは村の医師のチャラさんです。」
サーイが紹介したのは、30代半ばの女性医師、チャラ・シリワットだった。彼女は疲れた様子ながらも、優しい笑顔を浮かべていた。
「こんにちは、チャラさん。こちらの診療所についてお話を聞かせていただけますか?」
チャラは少しの間考えた後、静かに話し始めた。「ここでは、基本的な医療サービスを提供していますが、資源が非常に限られています。薬品や医療機器の不足が深刻で、緊急時には十分な対応ができないことが多いです。」
正隆は診療所内を見回しながら、古びた医療器具や薬棚の少なさに驚いた。彼はチャラの話に耳を傾けながら、現地の医療問題をどのように伝えればいいのかを考えていた。
「特に困っていることは何ですか?」正隆が尋ねた。
「医薬品の確保と、医療教育の拡充です。多くの若者が医療職に就くための教育を受けられない状況です。」チャラの言葉には、深い悲しみと同時に、強い決意が感じられた。
その時、診療所の入口から一人の若い男性が駆け込んできた。彼の腕には小さな女の子が抱えられており、彼女の顔色は青ざめていた。
「チャラ先生、娘が急に高熱を出して…」
チャラはすぐに動き出し、正隆とサーイは一歩下がって見守った。正隆は、その瞬間にこの地での日常がどれほど厳しいものであるかを痛感した。
数時間後、正隆とサーイは診療所を後にし、再び村の道を歩いていた。正隆は黙り込み、考え込んでいた。
「正隆さん、大丈夫ですか?」サーイが心配そうに尋ねた。
「はい、ただ…こんなに多くの問題があるとは思っていませんでした。でも、これが現実なんですね。」正隆の声には決意がこもっていた。
サーイは微笑み、「あなたがここに来てくれたことは、私たちにとって大きな希望です。あなたの声が、世界に届くことを信じています。」
正隆は深く頷いた。そして、自分がこの地で見聞きしたことを伝えるために、もっと多くのことを学び、感じ、そして書く決意を新たにした。
その夜、正隆は再びデスクに向かい、ノートを開いた。今日見たこと、聞いたこと、感じたことを一つ一つ丁寧に書き留めていった。彼の言葉が、貧困と戦う人々の声を代弁する力になることを信じて。
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