第1章:出会い

西海正隆は、汗が額を伝うのを感じながら、細い未舗装の道を歩いていた。バンコクから車で数時間、彼が辿り着いたのは、チェンマイの北部に位置する小さな村だった。ここは、観光客が訪れる華やかな街とは対照的に、時が止まったかのように静かで素朴な場所だった。


道端には、小さな木造の家が点在し、その多くは古びていて、屋根はトタンで覆われていた。家の前では、子どもたちが裸足で遊び、大人たちは農作業や家事に勤しんでいた。彼らの顔には、日々の厳しい生活が刻まれていた。


「こんにちは、正隆さん。」


突然の声に、マサタカは振り返った。そこには、20代後半と思われる女性が立っていた。彼女は地元のNGOで働くサーイだった。彼女の明るい笑顔が、この厳しい環境の中で一筋の光のように感じられた。


「こんにちは、サーイさん。案内してくれてありがとう。」


サーイはにっこりと笑い、彼を案内し始めた。彼らは村の中心部に向かい、そこで地元の人々が集まり、農産物を販売している市場があった。市場は賑やかで、人々の活気が溢れていたが、その裏には深刻な貧困の現実が隠されていた。


「ここでは、多くの家庭が日々の食糧を確保するのも難しい状況です。特に今年は雨季が短く、収穫が減ってしまいました。」


サーイの言葉に、西海正隆は驚きと同時に、強い使命感を覚えた。彼は自分がこの地に来た目的を再確認した。貧困に苦しむ人々の声を世界に伝えること。それが、彼のジャーナリストとしての役割であり、使命だった。


市場を歩きながら、西海正隆は様々な人々と出会った。彼らの話を聞き、彼らの生活を目の当たりにすることで、彼の心の中に新たな物語が芽生え始めていた。これから彼がどのようにして、この地の真実を伝えるのか。それは、彼自身の旅でもあった。

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