隣の人の自己紹介

昨日入学式だった。

そして今日が中学校生活2日目だ。

学校に着くと、昇降口が開いていないというのに人が沢山いた。

今は7時45分。ちなみに昇降口が開くのは7時50分だ。

まだ5分前だというのに…。

みんな張り切りすぎている。

かく言う私もそうなのだが。

暇な時間を友達作りにあてているらしい。みんな仲良く談笑している。

その中に美咲を見つけた。誰にも話しかけられずに俯いている。

「おはよう」

話しかけると、美咲は俯いていた顔を上げ、「おはよう」と返した。

「まだ5分前なのに人多いよね~」

話題が思いつかなかったのでさっきの感想を口にする。

「そうだね」

もっと会話を広げようとは思わないのか。

本当に話しずらい。美咲は。

会話が続かず、そのまま美咲の隣で昇降口が開くのを待つ。

時計の針を見つめる。

7時47分。あと3分だ。

「まだ3分前だけどもう入っていいよ~!」

唐突に声がした。職員玄関の方向からだ。

声のした方を振り向くと、男性教師が立っていた。

突き出ている腹のせいで苦しくなるのか、腰パンだ。

名前は…確か村田だったか。

入学式で生徒指導主任とか言ってた教師だ。

生徒指導する前にそのだらしない体型をどうにかすればいいのに、と思ったから

覚えている。

そんな事を考えているうちに、昇降口前に溜まっていた人たちがどんどん昇降口に

入っていく。

水道の水が排水溝に入っていくみたいだ。

人が少なくなったら行くとしよう。

人が多いせいで上履きが取れないという事にはなりたくない。


1分近く経ち、人が少なくなると、私も昇降口に向かった。

靴を入れ、上履きを取り出し、それを履く。

1年生の教室は5階だから階段を上るのはすごく疲れる。

これから1年毎日5階まで登らなきゃいけなくなることを考えると気が重くなった。

階段に一段ずつ貼ってあるピカソの絵を見ながらため息をつく。

仕方ない。行くとしよう。

覚悟を決め、教室に行くための階段を登った。


1時間目になった。

中学校に上がってから初めての授業だ。

「じゃーこの時間は自己紹介にしようか」

担任のこの一言でクラスは色めき立った。

「今回の自己紹介はちょっと普段と違うのにします」

いつもと違う?

自己紹介にそんなものがあるのか。

「今回の自己紹介は隣の人の自己紹介です!」

隣の人?

左隣は窓側の席でいない為、右隣を見る。

右隣は矢野くんだ。

こいつの事全く知らないんだけど。

知っている事と言えば名前と名前の由来と出身小学校だけだ。

矢野くんをじっと見つめていると、矢野くんがこちらを向いた。

目が合ってしまった。

特に深い意味はないが、慌ててしまった私を見て、矢野くんはウインクをしてきた。

…は?きっしょ。なんだこいつ。

思ったことは沢山ある。

それらを顔から出さないようにすると、なんと言えばいいのか分からず、ウインクを

返した。

矢野くんは驚いた顔をしたが無視。視線を前に戻し、担任の話を聞く。

「___をもとに原稿を書きます」

ん?

矢野くんのせいで結構聞きそびれたんじゃね?

やばいやばい。

まあ最悪分からなかったら美咲に聞くか…。

そして一枚のプリントが配られた。

上に[隣の人の自己紹介]と書いてある。

「それでは始めてください」

担任が言うと同時にクラスがざわつき始めた。

プリントを眺める。隣の人に質問するらしい。質問の内容は自由だと。

このプリントはメモ用紙でもあるらしい。

「はーるか!」

振り向くと、矢野くんだった。

会ってまだ2日目なのにもう下の名前で呼ぶのか。

私も翔輝と呼んでやろうか。

「質問していい?」

「いいけど」

「名前は?」

「聞かなくても分かるだろ」

「荒巻遥風ね!」

分かるなら聞くな。

「誕生日は?」

「2月22日」

私が2という数字が好きなのは誕生日が2月22日だからだ。

「血液型は?」

「知らん」

「趣味は?」

「アニメ鑑賞」

「アニメ!?俺も好きだよ!」

「えっ!ほんと?」

アニメは大好きだ。

好きな声優がCVを務めているアニメは絶対に1話は見ている。

有名なアニメも一通り見ている。

「何のアニメが好き?」

気になって尋ねてみる。

「俺はね~……」

それから暫くアニメや声優の話で盛り上がった。

矢野くんは結構なアニオタだった。

そこで矢野くんの好きなアニメ、好きな声優を知ることができた。

「矢野くんはアニメのどういうとこが好き?」

私は現実よりも動きがわかりやすい所だ。

「ん~、作画が細かいところかな」

なるほど。

[作画が細かい所が好き]とメモ用紙に記入する。

気付けばメモ用紙はアニメや声優の事でいっぱいになっていた。

こいつの自己紹介は大変だな、きっと。

それからいくつか矢野くんに質問されて、この時間は終わった。

2時間目以降はやる事があるということで、続きは明日になった。

明日は原稿を書いて発表するらしい。

矢野くんは自分の事をどう発表するのか楽しみになった。

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ただの中学生でも面白いことは沢山ある…はず! 伊賀松 麗華 @Michiru022

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