ただの中学生でも面白いことは沢山ある…はず!

伊賀松 麗華

入学式

ピピピッ ピピピピッ ピピピピッ ピピ ガチャッ

「ふあああああっ」

目覚ましの音で私・荒巻あらまき 遥風はるかは目覚める。

久しぶりにこの音を聞いたなぁ。

今までずっと春休みだった。

だからずっと家で寝ころんでいた。やることは特になかった。

そして今日は中学の入学式だ。

緊張はあまりしないタイプだから、なるようになれと思うしかない。

「遥風ー!遅刻するぞぉ!起きろー!」

部屋の外から父の声がした。

「分かってるっつーの…」

小さく文句を漏らしながらベットから起き上がる。

部屋の壁を見る。そこには中学の制服がハンガーに掛けられ吊るしてあった。

何日か前に一度着たその制服を着る。

あれ、このスカーフ、どうやるんだっけ。

「おとーさーん!!!」

呼びながら部屋を出る。

私の部屋の向かいは洗面所だ。

そこに父はいた。髪を整えている。

「このスカーフどうやるの?」

父は一瞬めんどくさそうな顔をしたが、親切に教えてくれた。

「おー!」

出来上がったスカーフの形に素直に感動する。

その直後、

「ご飯食べなさーい!」

とリビングから母の声がした。

まだ顔も洗っていないが、行くしかない。

母の機嫌を損ねると、大変なことになるからだ。

「今行くー!」

リビングに届くような声で返事をし、リビングに行った。


「もう時間だぞー!」

父が部屋に呼びに来た。

もう小学生じゃないんだから、呼ばれなくても分かるのに…。

あの後、身支度を済ませ、部屋でスマホをいじっていた。

スマホをベットの上に置き、部屋から出た。

「俺は後で行くからな!」

父が笑う。

そんなことは言われなくても分かってる。

逆にいちいちリアクションしなきゃいけないのが嫌なくらいだ。

なぜ父は分からないのだろう。

「分かってるよ…」

呆れを声ににじませて返事をし、玄関の扉を開けた。

「行ってきます。」


15分ぐらい歩くと、学校に着いた。

もうすでに人がたくさんいる。

小学校が同じで知っている人は多いが、知らない人もいる。

クラスの表が張り出してあった。

「えー、荒巻、荒巻…」

見つけた。2組だ。

担任は高橋たかはし 舞流まいるという女教師らしい。

仲のいい人は…少ない。

まあ仕方ない。

これからいい人間関係を築いていけばいい。

誰にも聞こえないような小さなため息をついて、私は教室へ向かった。


教室に着くと、既に10人ぐらい人がいた。

私の出席番号は女子の15番だから、席は窓側の後ろから二番目だ。

席について、後ろを見る。

小学校の頃に仲が良かった、木村きむら 美空みそらが本を読んでいた。

「同じクラスなんだね。よろしく」

声をかけると、美空は私に気づいたようで、顔を上げ、少し驚いた表情を見せた。

「あ、ほんと、同じなんだ。よろしく」

そういうと美空は読んでいた本に視線を戻した。

相変わらず不愛想な奴。

まあ、正直不愛想だろうがそうでなかろうがどっちでもいいんだけどね。

視線を前に戻し、今度はクラスの観察をする。

やはり同じ小学校で知っている人が多い。

でも3人ぐらい知らない人がいる。

あ、1人また教室に入ってきた。

この人も知らないな…。

その人を見てると、私の隣の席に来た。

鞄をおろし、私の方を向き、愛想よく笑った。

「隣の席?よろしくね!」

随分とまあ慣れ慣れしい人だ。

初対面なんだからもっとぎこちない挨拶になると思ったのに。

「よろしく。君の名前は?」

隣だからこれから嫌でも関わることになると思い、名前を聞いた。

「俺?俺は矢野やの 翔輝しょうき。お前は?」

初対面の人にお前とか言えるのすごいなこいつ。

「私は荒巻 遥風」

「はるかっていうの?可愛い名前だね!」

絶対お世辞だろ。漢字も知らないくせに。

「しょうきってどう書くの?」

すると矢野くんは鞄から一枚紙を取り出した。

端っこが少しグシャっとなっている。

矢野くんはそこに[翔輝]と書いた。

達筆だ。私の好きな形。

男子の中では字が上手い方だろう。

「へえ、結構かっこいい名前じゃん」

すると矢野くんは満面の笑みを浮かべた。

「でしょ!?由来なんだと思う?」

「知らん」

考えるのもめんどくさかったから即答した。

「なにそれつまんない!」

どうでもいいし。

「正解はねえー」

別に聞いてない。

「親の名前から一文字ずつ取った、でしたー!」

「え、それでそんなかっこいい名前が出来上がるんだ」

びっくりして思わず返事をしてしまった。

「すごくない!?あ、はるかってどう書くの?」

今更ですか。

「ちょっとその紙貸して」

返事を聞かずに矢野くんの机から紙を取った。

その紙に[遥風]と書いて見せた。

気に入ってるわけではないけど、嫌な名前という訳でもない。

「いい字だね」

「お世辞?」

「いや、お世辞じゃない!ほんとに思ったやつだから!」

「あっそー」

冷たく返事しながら顔を下に向ける。笑っているのを見せないためだ。

実は少し嬉しかった。

「ん?どうした?」

矢野くんが心配そうに私の顔を覗き込もうとする。

「なんでもない!トイレ行ってくるっ!」

照れ隠しに少し大きめの声で言うと、席を立ちトイレに向かった。


教室に戻ると、教壇に担任がいた。

「みんな座ってー!」

声がかかった瞬間、自由奔放だったクラスのみんなが一斉に席に着いた。

あれほど騒がしかったクラスが一気に静かになるのが少し面白かった。

「出欠とるねー、えー、佐藤さとう 優悟ゆうごくん」

「はい」

石塚いしづか 元哉もとやくん」

「はい」

こんな調子で出欠確認は進んでいく。

あ、こいつ知ってる。同じクラスなんだな。誰こいつ。

「矢野 翔輝くん」

あ、さっきのだ。

「はい」

今気が付いたが、矢野くんは結構声が高い。

朝霧あさぎり 桃花ももかさん」

「はい」

いろいろ考えていると女子に入った。

それから何人かが呼ばれていく。

「荒巻 遥風さん」

「はい」

「木村 美空さん」

「はい」

美空が呼ばれる。

出欠確認はこれで終わりだ。

「はい、じゃあ入学式の説明をします__ 」


長い長い式も終わり、ホームルームも終わった。

「じゃあ、また明日。終わり」

担任が終わりを告げる。

「きりーつ!」

ぼーっとしている間に決まったらしい号令係が無駄に大きい声で言う。

「気を付け、礼!」

「「「「「さようならー!」」」」」

みんな元気だ。

小学校の頃はさようならを言った後に「ジャンケンポン」があったが、流石に中学生はないな。

ロッカーから鞄を取り出し、そのまま鞄を背負って教室を出る。


明日からの中学校生活が楽しみだ。

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