『【初配信】クリスマスイヴなのに配信をさせられるこの身の不幸さよ...【イヴ越し】』

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!?」

宵月秋華は驚いていた。今、目の前の佐世保組現組長から言われた言葉が本当なのか呑み込めずにいた。


「う、嘘だよね?」

しかし、目の前にいるスキンヘッドサングラスに右目が義眼のいかにもな風貌の男は、巌の様に佇んでいるのみでもう何も口にしなかった。その代わりなのか、威容に溢れ同時に重力が10倍になったと錯覚するほどの重い視線が秋華を見つめた。


本日、この平行世界において2016年12月24日。現在、午後5時23分。有限会社佐世保組本社ビル、最上階の中でも奥まったところにある神祇座の一角。白い袴を纏った、佐世保組現組長の大男、佐世保桜華から伝えられたことはこうだった。曰く、

「宵月秋華が自らに課したライブ配信までの区切り。チャンネル登録者1000人が、達成された。よって、本日午後9時よりライブ配信を行え」

と。


「―――なんで今日なの!?今日はお姉ちゃんが作ったのがあるのに―――

「...クリスマスプレゼントというのは重要だ。インパクトを残すことによって、のちのヴァーチャルライバーの活動の知名度も上がる」

否を唱えようとした秋華の声に重ねるように桜華が口にした言葉は、紛れもなく正論―――に近しい詭弁。しかし、秋華はそれに乗せられてしまい何を言い返すでもなく強く桜華を睨みつけるしかできなかった。


「―――分かったよ。でも、どうなっても知らないから」

「ああ、構わない。初配信がクリスマスイブにあった、それだけでも充分だ」

「フン」


秋華が鼻息荒く神祇座を出た、直後。

「―――これでいいんだな?」

桜華は、自らを除き誰もいないはずの神祇座に声をかけた。


「十二分ですよ。こんなに発破をかけて下さるとは、流石は佐世保組の頭領だ」

何も祀られていない神棚から、隠れていた佐々木章が顔を出した。

その顔は笑顔であるが、いつも孫に見せるような柔和さは存在しない。


「フン。これも全てお前の計画だろう?少なくとも、一介の大暴力団を一つ壊滅させてこんなまともな会社に仕立て上げるくらいだからな」

それに、桜華は報いた。当の章本人は「いやいや、なんのことやら」などとは口にするが、三日月よりもなお細く歪められた口端が事実なのだと雄弁に語っていた。


章がまだ若かりし頃、彼は指定暴力団だった佐世保組の娘である当時佐世保姓の佐々木草江と恋に落ちた。彼女が自らの境遇を明かして嫁げないと伝えると、章はその身一つで佐世保組を壊滅の憂き目に遭わせた。草江及び桜華は数少ない当時の構成員で、桜華の姉であった草江と結婚した章は新しく企業として開始した佐世保組の中でも大きな力を持っていた。それこそ、社長として名を上げた桜華と同等には。


「商才は認めるが、いかんせん表と裏の差が酷すぎる。こんな姿が孫に見られたらどうするつもりだ?」

自らの義兄である章に警鐘を鳴らした桜華だったが―――

「問題ないさ。これも全ては秋華が聞き耳を立てているからね。秋華、おいで」


「...」

渋々、と言った様子で、神祇座に再び秋華が入る。戦慄した様子の桜華は「今テメエが見たことは忘れろ、今すぐにだ!」と焦って口にしたが、直後自らの義兄に憎悪のこもった視線を浴びせられていることに気づき慌てて口を噤んだ。


「全く、神のおわす神聖なる場で騒ぐなど愚かな...まあ、いい」

そう言って軽く怯えの入った桜華を睨むのをやめると、いつもの好々爺とした態度ではないものの家族愛より少し薄い程度の親愛がこもった視線を秋華に向けた章は、その頭を―――割と強めに小突いた。


「っづぁぁ!?」

強めにこづく、と言っても元々筋肉量が平均男性のものより今もなおはるかに多い章の「小突く」で、尚且つ痛みの経験が今まで髪を切る時についでに引き抜かれる時の疼痛や風邪、インフルエンザなどの感染症系の頭痛等しかなかった秋華にとっては頭を槌で殴られるに等しい痛みだった。「...この程度で根を上げるか、凡夫が」と言う冷え切った祖父の視線にも気づけないほど、秋華は痛みに呻いていた。


「...まあ、いい。秋華、余計なことに突っ込むからこうなる。自らが預かり知らぬ事は多い方がいいぞ?」

それだけで説教を終えた章は、かつてより存在したこの中に収められている二振りの刀が一振り、神賜の刀である『神賜刀 章星』を持ってきて、秋華に見せた。


「これは...?」

驚いた表情で刀を見つつも、その鞘と鍔の菊の紋様を見た秋華が問うと、章は章星を撫でて懐かしそうに微笑んだ。


「これは、この国がかつて大日本帝国と呼ばれていた頃の事だ。大日本帝国は破れ去り、中華を持つ中で朝鮮の反乱が起こった。朝鮮南北分裂の際に、刀一つを持って突貫したのが、父だ。北方の共産制朝鮮の首都に単騎乗り込み、書記長の頸を持って『敵将討ち取ったりぃ!』と言った父はその後すぐ近くの護衛に撃たれ死したそうだが...」


「敵将を討ち取ったこの刀は神刀として、現在もご存命である天皇陛下と当時敗戦国の日本を治めていたGHQのマッカーサーによって、最初で最後の神賜刀として我が佐々木家に下賜されたんだよ。今は、婆さん...昔は佐世保草江と言ったんだが、その婚姻の時に佐世保組にこれを預けた。この刀折れる時、佐世保との縁も切れると言うわけだ」


まあ、2613年に天皇陛下も人であらせられると仰られたが、と章は哄笑した。

秋華は呆気に取られていたが、それでも目の前にいる祖父がいつも見せていた少し年の入った乾いたスポンジの如くスカスカな脳味噌の老人ではなく、日本を少しく動かす老爺という風に映り方が変わっていた。



初配信は、このあとすぐ!(今回始めるとは言ってない)

まあ、今回できなくてすみません。これも謎テンションのせいなのであしからず。(^・ω・^§)ノ

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