第4話「水野寧々」

第四話「水野寧々」


 俺はその日、学校を休んだ。

 なぜ――か。風邪を引いてしまったのだ。

「ゴホッゴホッ。母さん、いいよ。俺、大丈夫だから。ゴホッゴホッ」

「だめよ。一日、母さんいるから。仕事の方は大丈夫。勉強のしすぎかしらね」

 まじか。最近、ちょっと変わりたくて、勉強してたのが、原因か!

「かもしれない。まあ、俺はどうせ――」

 ピンポーン。

 インターフォンが鳴った。

「あ。ちょっと見てくるわね」

「おう」

 すぐに母さんは帰ってきた。

「誰?」

「なんか、水何ちゃらさんだって。あんたのお友達って言ってたわよ」

 水……? 誰だろう。水なんて人、いたっけ? 友達じゃないな。少なくとも。

「何の用?」

「話があるって来たんだけど、今日風邪引いて学校へ行けないって言ったら、あ、そうですか、だって。そんでもう、行っちゃった」

「そうか。まあ、明日学校へ行く時に、確認してみるよ」

 それから、薬を飲んで一日中寝ていた。

 この時間もゲームをすれば、相当レベル上げできるな――と思ったが、具合が悪すぎて、何もできなかった。

 夜には、だいぶ回復し、ゲームにログインした。

 そうすると、テラさんがいた。

「どうした? 声がガビガビだぞ」

「そうですね。ちょっと風邪、引いちまいまして」

「そうなのか。学校は? 休んだ?」

「はい。休みました。でも、今までゲームする気も起きませんでした」

「そっか。じゃあ、今日は狩りに行くのはやめておくか」

「はい。すみません」

「おうおうおーう。葛原くん、今日は学校にいなかったねえ。どうかしたのかい?」

「あ、蜜柑……ミリア先輩。あの、風邪を引いてしまいまして」

「あ。そうなの。そりゃあ、お気の毒に」

「はい。先輩、学校で資料もらいませんでしたか?」

「そんな。君のクラスの生徒じゃないし。ましてや、学年が違うし」

「そうですよねえ。まあいいです。明日、先生にでも聞いておきます。せっかくやる気を出したところで、これだよ……とほほ」

「まあ、元気だしな! これからどうする? もう落ちる?」

「あ、あーそうだね。狩りに行くのはやめようって話なんだ。それで――」

 そうテラさんが言ったところで、女の子のキャラクターが話しかけてきた。

「あの。もしかして、蜜柑先輩と、葛原君?」

「え? 君はあの学校の生徒?」

 蜜柑先輩が訝しげに尋ねた。

「はい。水野って言います」

「水野さん……」

 そういえば、母さんが言っていた人のような……。

 声をどこかで聞いたことがある。あ!

「あの時の! 君が水野さん!?」

 蜜柑先輩と仲がいいことを言ってきた生徒だった。

「水野さんもこのゲームやってたの?」

「はい。話しているの、聞いて……」

「ああ。なるほど。俺たちが話してるの、聞いて買ったんだね」

「ほーう。じゃあ、フレンド申請しよう」

「え!? いいんですか!?」

 何でも、水野は、友達がいないらしい。蜜柑先輩が、唯一の繋がりだが、最近、ずっと俺と絡んでたから、そっちがおざなりになってしまっていたのだとか。

「ごめんな。俺ばっかり」

「いいんです。これで、友達が二人も増えて、とっても嬉しいです」

「いつも夜の七時に、この酒場に集合するようにしてるの」

「そうなんですか。私も加わっていいですか」

「もう、フレンドなんだから、いいのいいの」

 蜜柑先輩がカフェオレを差し出しながら言った。

「そういえば、葛原君。学校のノート明日見せよっか?」

「いいの? まじで助かる」

「うん。全然いいよ。コピー取っておくね」

「へえ。君はモテモテだね⭐︎」

「はあ。全然モテモテじゃないですよ。蜜柑先輩には、いろいろ助けてもらってるだけですから」

「そうそう。勘違いされては困るよお」

「じゃあ、今日はそのコピーデータを元に、みんなでお勉強会って、どうかな?」

「それいいですね! 確かインポートできますよね」

「ちょっと待って。写真撮って上げる」

 そして、俺たちはレンタルスペースに向かった。プロジェクターで、画面に写真を投影する。

「ああ。二次関数に入ってたか」

 俺が呟く。

「そうみたい。私も、寝てたから」

「寝て……た?」

「え!? そんな変なこと言いました?」

「いや、結構まじめな学生かと思ってたから」

 テラさんが言った。

「いや。予習だけしてあとは寝てるんです」

「あ。そうなの」

 なんか、意味がないような気がしてきた。笑

「国語の授業だけ起きてます。好きなので」

「あ、そうなの」

 そして、たっぷり勉強をし、お開きになった。

「じゃあ、明日は、元気に登校してきてね」

「はい」

 そして、次の日の朝。

 ピンポーン。

「海斗? お知り合いさんが来たわよ!」

「はーい。今、行くから!」

 きっと水野だ。

「おはよう」

「おはよう。ありがとう。昨日は」

「いいの。全然。大したことじゃないから」

 少しおっとりした感じだ。友達が少ない――か。

「じゃあ、行こうか。今日もまた夜七時にあの酒場で会うことになってるんだ」

「そうなんだ。それじゃあ、私、あのあと鉄鉱石ゲットしたから、みんなに分けたい」

「まじで!? 鉄鉱石ゲットしたの?」

「うん。なんか、山に行ってね。ピッケルで掘ってたの」

「すごいことするね。モンスターもいたでしょ」

「モンスター除けのスプレー売ってるよ?」

 結構、やりこんでいらっしゃる。

「俺も知らないことが次々と出てくるな……。俺も、冒険者らしく、冒険でもしようかな」

「蜜柑先輩が、今度旅に出ようって」

「旅?」

「うん。巨大モンスターを倒しに行く旅。パーティを組んで倒そうって」

「へえ。クエストかな?」

「クエスト。そうそう」

「へえ。まあ、勉強をしたくもある」

「えらいね。葛原君は」

「え? そうかな。最近、二十点から脱却しようって思って」

「ふーん。私も頑張るね」

 そういう水野は、学年三位の成績だったことは、後で知った。

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ゲームで捻くれてみたら先輩が慰めてくれた おがた @eelmaru

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