第45話 命&優VSヴィルシェ
七海と誠のように、命と優もいつもとは違うコンビで未知の敵であるヴィルシェに向き合った。
目の前にいるのは、恰幅の良い巨漢。しかも身軽に動くため、その物理的圧力で優は劣勢に立たされていた。
ぐっぐっと段階的に重量を加えてくるヴィルシェ相手に、優は持ち堪える。しかしヴィルシェはそれを消極的だと感じたのか、煽るように顔を歪めた。
「くっ……」
「龍側の剣士はそんなもんか? これじゃ、暇潰しにもなりはしないなぁ」
「優さんから離れろ!」
「……おっと」
優とヴィルシェの間に光が走り、ヴィルシェが飛び退く。そこに着地した命は、振り向いて「優さんっ」と呼んだ。
「怪我は!?」
「きみのお蔭で特には。ありがとう」
「……よかった」
ほっと肩の力を抜いたのも束の間、ヴィルシェがその体の大きさに見合った巨大な斧を振り回したことで状況は変わる。ドッと地面に刃部分を突き刺すと、彼はカッカと笑った。
「カッカッカッ! お前たちのような細っこいのにこれを使うのは惜しいが、仕方あるまい」
「それは残念だったな。……けど、違う意味で惜しませてやる」
「……力負けしていた癖に、威勢が良いな」
良いだろう。そうニッと歯を見せると、ヴィルシェは地面から斧を引き抜いて片手で構える。その柄はちょっとした丸太のようで、命をぞっとさせた。
その様子を目にして、優は彼女に小声で囁く。
「ギリギリまで無理しなくて良い。ただ、フォロー頼むよ」
「わかった」
「偉い」
ふっと微笑んだ優は、視線の向きをヴィルシェに向け直す。その手に掴んだ剣を構え、命を背に守る。
「さあ、行こうか」
「遺言は終わったか?」
「冗談。お嬢様を置いて死ぬなんて、愚の骨頂だろう?」
不敵に微笑み、優は動いた。
ヴィルシェが斧を振り上げるのとほぼ同時にその懐に入り、無言で剣の石突を叩き込む。鳩尾がミシッと音をたて、たまらず身を引いたヴィルシェを追い、更に飛び蹴りを胸に見舞う。
「グッ!?」
「パワーで敵わないなら、スピードでいくだけだ」
「――ちいっ」
優の足を掴まえようと手を伸ばすヴィルシェだが、その時既に優は距離を取っている。空を切った手を握り、ヴィルシェが拳を唸らせた。
ギュンッと風を切り、拳が優の顔面を襲う。思わず悲鳴を上げかけた命は、優が焦っていないことに気付いた。
(どうして……?)
命の問いの答えは、すぐに出た。
「――ハッ」
「グガッ!」
ズサッと地面をこする音が聞こえ、ヴィルシェが耐えて止まる。何が起こったのかと命が目をやれば、土煙の中に青い炎のようなものが見えた。
(火事? ううん、これは違う)
命よりも先に、ヴィルシェがその正体に気付く。彼もまた、何故優が自分の攻撃を跳ね返したのかと眉をひそめていた。
「まさか、話に聞いていたのはこれか!?」
「近衛倭から、何を聞いていたのかは知らないが」
優の手にしている剣が、青白く輝いている。否、青い炎が巻き付くように燃えているのだ。
命が目を丸くしていると、優が彼女の前に立った。間近で見ると、更に眩しく輝いている。
「優さん、それは……」
「神代の家には伝わってない? 俺の場合は少し特殊なんだけど……」
「何故、四家でないお前がその力を使えるんだ!? その、古代龍の力を!」
「古代龍の……。あ、父から聞いたことがあります。一度だけ」
ヴィルシェの喚き声を聞き、命はハッとした。以前、父が教えてくれた四家の不思議な力のことを。
「確か……『日守は火、千影は土、美津野木は水を司る。それらの力を操る者もおり、操る者は家の主となる。』という話。でも、優さんは四家では……」
「俺は四家の直系じゃない。本来力を受け継ぐことはないはずなんだけど、どうやら先祖の誰かが日守の血を入れたらしい。俺は、所謂先祖返りなんだそうだ」
まるで他人事のように説明した優は、ちらりと別の敵と戦う七海を見た。彼女の武器は、まだ覚醒前らしい。しかし、彼女や他の仲間の覚醒も近い。
(本来持たないはずの俺がこの力を継いだのは、きっと意味がある。いや、俺自身がその意味を創り出してみせる)
青い炎は、日守の本来の色ではない。色が違うのは、きっと従者が主人の血を入れた罪を示すのだろう。例え罪だとしても、優のやりたいことは変わらない。
「お前たちのやりたいようにはさせない。俺の教え子たちは、思っている以上に強いからな」
「わたしも、優さんたちを守ります。フォロー、しますから」
「ありがとう」
礼を言われ、命は笑顔を浮かべた。ヴィルシェの重さのある攻撃は怖いけれど、恐れているだけでは戦いを制することは出来ない。仲間たちの戦う音を耳にしながら、命は優がより戦いやすいようにと神代の巫女の力を使う。
(誠さんより力は劣るけど、結界をベースにフォローしていく)
ガラスのように透明な結界の壁を人の頭くらいの大きさにして複数創り出し、命はそれらを宙に浮かせる。操って、優に重い拳を突き出すヴィルシェの前へと移動させた。その拳が優に届く前に、壁が受け止め弾き返す。
なかなか優を直接殴ることが出来ずにイラつくヴィルシェは、その時ようやく自分の拳を弾いている壁を操る存在に気付く。命と目が合い、盛大に舌打ちをした。
「チッ。あの女の仕業か」
「――絶対に触れさせない」
「パワーで負けてんのによ」
ヴィルシェは、己のパワーに絶対の自信がある。結界の壁は拳で叩き割り、そのまま優に届かせれば問題ない。だから渾身の力を籠め、優目掛けて拳を放った。
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