第44話 七海&誠VS人形&獣

 ――パシュッ


 涼やかにも聞こえる弓鳴りは、しかし獣の眉間に突き刺さってそれを倒す。更に倒れた時には、既に弓矢は別の方向を向いている。


「すご……」

「誠も凄いよ?」


 七海の鮮やかな手際に感心していた誠だが、彼女に褒められ赤面する。誠の手のひらにはカード大の小さな結界の壁があり、それを敵の顔や体に叩きつけることによって戦っていた。ただ守るだけではなく、戦って守るための使い方を模索した結果である。


「七海さんみたいに戦えるわけじゃないけど、僕はただ……みんなを守りたいんだ」

「その純粋さ、大事にしなね」


 見た目に反して純粋素朴な誠に、七海はクスッと楽しそうに微笑んでみせた。

 笑いながら話しながら、二人は襲って来る獣や人形から身を躱す。大きく唸りを上げる狼の体当たりをまともに受け、誠は咄嗟に結界を後ろに張って勢いを殺した。


(どんどんセンスが出て来るね)


 誠の無事を確かめ、七海はにやっと笑った。後輩の成長を喜びつつ、自分ももっと上へ行かなければと気合が入る。


「さあ、わたくしに倒されたい奴はいらっしゃい!」


 そんな威勢の良い七海に向かって行くのは、サングラスをかけた屈強な男たち。男に見えるが、その正体は性別もなく生きてもいない人形である。拳を振り上げ、華奢な七海を正面から殴ろうとする。

 誠は七海に殴りかかろうとする人形に気付き、結界で壁を創って彼女を守ろうと手を伸ばす。


「七海さん!」

「ありがと、誠くん。――受けて立つ!」


 誠の結界によって顔面に拳がヒットすることのなかった七海は、接近した敵の喉笛めがけて隠していたナイフを突き刺す。

 七海のナイフによって、切り裂かれた人形の姿が消える。しかし安堵する間もなく、消えた屍を踏み越えるようにして、新たな人形が七海がけて殺到する。


「きりがない!」

「七海さん、ぼくに任せて」

「誠くん!?」


 誠は七海の前に素早く出て、怒涛の勢いでやって来る獣たちに向かって巨大な結界を張る。透明な壁が築かれ、獣たちはそれぞれにぶつかって勢いを殺された。

 張られた結界は弓なりにしなり、獣たちを押し返す。そんな性質も、敵を苛立たせるには十分だった。


「グルルッ」


 先に進めず、獣たちは悔しそうに唸り声を上げる。それを横目に、誠は七海に腕を貸してくれと頼む。そしてポケットから取り出したハンカチで、血止めを施す。


「気休めだけど」

「……良いの?」

「命さんみたいに治癒の力はないけど、目の前で血を流されるのは嫌だから」

「ありがとう」


 誠は、獣たちと接近戦をしていた時の七海の二の腕の傷に気付いていた。七海の腕に獣の爪があたり、大きめの傷が付いていたのだ。

 キュッときつめに縛り、誠はほっとする。ほんの気休めだが、しないよりはマシだろう。

 七海が誠に「ありがとう」と言いかけた時、外から叱責が飛んできた。


「お嬢様、またやらかしましたね!?」

「一条……。貴方は命ちゃんをきっちり守りなさい! ……はぁ、ほんとにあいつは」

「心配なんだよ、七海さんのことが」


 ふっと笑った誠に、七海は肩を竦める。少しだけ憂いが見えたが、その表情は一瞬のことだ。


「あいつは、私がお嬢様だから世話してくれるだけよ」

「そんなこと……って、それは後だね」


 誠の目に映ったのは、獣にまたがった人形たち。どちらも相当数倒したはずだが、近衛倭がこの場にいることでほぼ永久的に発生するのかもしれない。


(……となると、かなり厄介だな。他の加勢に行けない)


 未知の敵であるヴィルシェ、そして獣を操る咲季。更には近衛倭というラスボスも控えている。図らずもそれぞれに分かれて戦うことになってしまった仲間たちを、こちらの敵を早めに倒してフォローしに行きたい誠と七海だが、そうも言っていられない。


「誠くん、こいつらは私たちで食い止め仕留めるよ」

「勿論」


 ちらりと周囲を見れば、仲間たちがそれぞれの相手と激しく競り合っている。梓はりゅーちゃんを守りつつ、大輝は妹相手に全力で、命と優も未知の相手に手間取りながら。全員が一つの目的のため、戦っている。

 誠は震えそうになる手を握り締め、結界を突破しようとあがく人形たちに目を移す。そろそろ結界の強度が限界を迎えそうだった。


「七海さん、結界解くよ」

「了解。いつでもどうぞ」

「――さん、に、いち」


 パキンッ。誠が結界を解くと、ガラスのように割れた壁の隙間から獣たちが二人に向かって突進して来る。それぞれの背中には人形を乗せ、人形たちは各々武器を手にそれを振り回す。

 誠は再び手のひらサイズの小さな結界を幾つも創り出し、それらを手裏剣のように投げ、もしくは拳に装着して叩き付ける。接近戦となるため怪我は絶えないが、決してひるまず前に進み続けた。

 七海は自ら群の中に突っ込んで行き、愛用のナイフで一掃する。弓矢は接近戦では使えないが、咄嗟に距離を取った時や離れて戦う誠をフォローする時に弓を引き絞った。

 一見すれば、多勢に無勢。しかし蓋を開けてみれば、かなりの接戦。傷を負いながらも、誠と七海は確実に敵の数を減らすために着実に倒していった。


「目移りなんてさせない。全部倒してあげるから、こっちに来なさい」

「邪魔はさせない!」


 誠と七海は敵を挑発し、息が上がるのを堪えて地を蹴った。

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