第4章 深奥戦闘
東京旅行
第38話 旅行初日の新幹線
八月に入り、いよいよ東京旅行初日となった。
梓はりゅーちゃんと共に、仲間たちと待ち合わせの駅前の広場へ向かう。駅から電車に乗って、新幹線に乗り換えるのだ。
「あ、大輝」
「おはよ、二人共」
「おはよう、大輝」
待ち合わせ場所に最初に到着していたのは大輝だ。梓とりゅーちゃんは彼と合流し、他のメンバーを待つ。
「そういえば、咲季ちゃんも今日から東京なんだっけ?」
「ああ、昨日からそわそわしてたよ。お互い日程とか確認したわけじゃないけど、向こうで会ったら宜しくって感じだな」
「……にしては、ちょっと元気ないよな? どうしたんだよ、この前から」
梓に顔を覗き込まれ、大輝がわずかに身を引く。
大輝は咲季が自分と同じ東京に旅行に行くということがわかって以来、少し元気がなかった。みんなの前や学校ではいつも通りなのだが、ふとした瞬間に思い悩む表情を見せることに、梓は気付いていた。
梓に指摘され、大輝はわずかに目を伏せる。
「確かめたわけじゃない。だけど、きっとこの旅行の間に真偽ははっきりする」
「……そっか。もし話したくなったら、話したい奴に言えよ」
「自分に言えとは言わないんだな」
「まあ。内容によっては、向き不向きもあるかもしれないだろ。それに、大輝が話したいと思うのは俺じゃないかもしれないし」
肩を竦め、梓が笑う。そんな彼に大輝が「ありがとう」と言った直後、道の向こうから七海と優の姿が見えた。彼らの後ろから、命と誠の姿も見える。
「待たせてごめんね、三人共」
「それほど待ってはいない。さあ、新幹線とやらに乗りに行くのだろう?」
全員が集まり、リューちゃんが目をキラキラとさせた。彼は新幹線に乗ったことがない。乗り物に乗らずとも、霊体のため集中すれば移動出来てしまうらしい。今回はしないのかと梓が尋ねると、りゅーちゃんは「皆一緒の方が楽しかろう」と笑った。
「りゅーちゃん、楽しみなのね。大丈夫、すぐに乗れるわ」
くすくすと笑った七海を先頭に、一行は電車に乗って新幹線へと乗り換えた。ここからしばし、車窓を眺める旅となる。
梓は隣になった大輝と共に、向かいの席のりゅーちゃんの質問攻撃に応えていく。座席を動かし四人席を縦に二つ作って、もう一つには七海と命、誠と優が向き合っていた。
新幹線内は、夏休みということもあってほぼ満席。梓たちは他の乗客に不審がられないように気を付けながら、東京に着いてからのことを話し合った。
「まずは、日守の別邸に荷物を置きに行こう。管理人がいるはずだから、挨拶も兼ねてね」
「賛成。おばさま、お元気かな」
「そこに泊らせてもらうんですよね。でも、本当に宿泊代要らないの……?」
優と七海の会話を聞き、命がおずおずと確認する。当初から、七海と優が宿泊代金は要らないからと言っていたのだが、やはり気になるようだ。命の向かいの席で、誠も頷く。
「本邸をいつも使わせてもらってて、何もお返し出来ないし……」
「そんなこと気にするな。礼なら、いつも俺たちがしてもらっている。ですよね、お嬢様?」
「うっ……。わ、私は遠巻きにされることが多いから……こうやって普通に接してもらえることが……本当に嬉しくて……。うぅ、柄にもないこと言っちゃった」
「ということだから、気軽に行ってくれたら良い」
にこにこと話を進める優と、突然の暴露をしてしまい顔を真っ赤にする七海。命と誠は顔を見合わせ、嬉しそうに頷いた。
それは、背合わせで話を聞いていた梓たちにも言える。にやにやしつつもあえて何も言わずにいた梓と大輝とは違い、りゅーちゃんは座席の上から顔を覗かせ、七海の頭をよしよしと撫でた。
「りゅ、りゅーちゃん……!?」
「偉い偉い。七海もそうだが、皆頑張り過ぎているくらいだ」
「……不思議な図だよな。五歳児に大学生が撫でられてるのって」
思わず冷静に分析しかけた梓は、まあ良いかと背もたれに背中を預けた。後ろに誰もいない最後列のため、少しだけリクライニングシートを倒しているのだ。
それからあまり大きな声で話すのも良くないということで、手元のスマホのメッセージアプリを使った会話にシフトする。向かい合った者たちは互いに相談しつつ、代表者を中心に会話を進めていく。
「りゅーちゃん、心臓の所に行くのは明日で良いかな? 別邸に着いて荷解きとか夕食の準備とかしていたら、時間が経ちそうだし」
「元々そのつもりであっただろう。だから、大丈夫だ。……ただ、翌日からおそらく様々なことが動く。皆、体を休めておいてくれ」
「――動く?」
自分のスマホを使って七海たちと会話するりゅーちゃんに、梓はオウム返しのように問いかけた。どういうことだという意図を込めてりゅーちゃんを見ると、彼は梓の言いたいことを聞かずともわかるとでも言いたげにふっと微笑んで見せる。
「私の勘でしかないが、おそらく明日心臓のある場所で近衛と対峙する。その際、戦いになるだろうからな。心構えをしておいて欲しいということだ」
「何があろうと、絶対りゅーちゃんを守るからな。な、大輝」
「……」
「大輝?」
「……あ、ごめん。何か言ったか?」
ぼんやりと窓の外を眺めていた大輝は、顔の前で手を振られてようやく我に返る。慌てて聞き返す彼に、梓はわずかに危うさを覚えた。
「大輝……。いや、明日への心構えちゃんと作っとこうな」
「ああ。あいつの思い通りにはさせないからな」
いつもの調子に戻った大輝に安堵しつつ、梓は彼の抱える悩みをどうしたら軽くできるかと考えていた。
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