戦いの激化
第33話 治癒の力と最後の仲間
獣に急襲された翌日、竜水神社の社務所の一室で梓は目を覚ました。まだ日は昇っておらず、薄暗い。隣に目を向ければ、りゅーちゃんがスースーと寝息をたてて眠っている。ぐっすり眠っていて、起きそうにない。
(そういえば、あまり痛くないな)
昨日、背中の傷をかばってうつ伏せで寝た。しかし今朝起きた時、梓は自分が右肩を下にして横になっていることに気付く。どうやら、
梓は二度寝することにして、そっと瞼を下ろした。
「梓、朝だ」
それから少しして、スマートフォンの目覚まし時計機能が起きる時間だと知らせてくれた。ついでに、りゅーちゃんが梓を揺すり起こす。
梓は眠気眼をこすりつつ、りゅーちゃんがカーテンを開けたことで入って来た陽射しに目を瞬かせた。今日の天気は良いらしい。
「おはよう、りゅーちゃん」
「おはよう、梓。体の具合はどうだ?」
「命のお蔭でかなり良いよ。凄いな」
「神代家の特に治癒能力の高い者は、女が多かったこともあって巫女と呼ばれた。今は呼ばないだろうがな」
「神社の巫女さんと同じ字だな」
りゅーちゃんが空中に字を書くのを見て、梓は呟いた。巫女は当時、創生の龍を祀る社に仕えながら、人々の病や怪我の治療にあたっていたという。さながら、現在の医者だ。
梓とりゅーちゃんはベッドをある程度整え、着替える。梓の服は破れた上に血で汚れていたため、優のものを借りた。
梓の包帯を巻き直したりゅーちゃんは、既に血が止まってかさぶたになっているのを見て安堵する。昨日大輝が青い顔をしていたが、彼が見た酷い傷は大きな跡にはならないだろう。
りゅーちゃんの息が背中にあたったのか、梓が首だけ振り向く。
「りゅーちゃん?」
「いや、何でもない。出来たぞ」
「助かった、ありがとう」
シャツを羽織り、ボタンを止める。二人して部屋を出ると、丁度向かいの部屋から大輝が出て来たところだった。
「おはよ。梓、りゅーちゃん」
「おはよう、大輝」
「ああ、おはよう。良く眠れたか?」
「お蔭様で。二人共、こっちだ」
大輝について行くと、命たちの姿が見えた。社務所と彼女の自宅は繋がっており、居間で朝食を準備していてくれたようだ。そこには七海たちもいて、梓たちを見付けて手を振った。
「おはよう、ちゃんと起きたわね」
「おはよう。お蔭様でゆっくり休めたよ。ありがとう、命」
「よかった。昨日よりも顔色がいいね、二人共」
命が微笑み、みんなで朝食を囲んだ。メニューは白米と味噌汁、そしてサラダと目玉焼き。わいわいと雑談をしながら食べていると、あっという間に完食してしまう。
幸いにも、今日は休日だ。それでも一旦それぞれの家に帰ることにして、梓たちはゆっくり起きてきた
「何のおもてなしも出来なくて申し訳ない。いつでもおいで」
「命さんのお蔭で死なずに済ました。だから、何もなんてありません」
「……そうか。良く頑張ったな、命」
梓に言われ父親に褒められ、命は嬉しそうにはにかむ。それから表情を改め、梓たちを見回す。
「多分、これからもっと戦いは過酷になる。わたしも、加わっても良い……ですか? 怪我が少しでも早く治るように、助けたい」
「それはもち……」
「ウェルカムよ! 女の子待ってたの!」
勿論。梓が言う前に、七海がぴょんぴょん跳ねて喜んだ。更に命に抱きつき、命が目を白黒させる。
「かわいい! よろしくね、命ちゃん」
「お、お願いします」
「うんうん。これで揃ったな」
七海の勢いに圧され気味ながらも、命は嬉しそうにしている。二人の少女が和気あいあいとしているのを眺めつつ、りゅーちゃんも目を細めた。
「りゅーちゃん、揃ったって?」
「四家、鍵。その全てがここにいる」
「そういう意味では、オレはあんまり関係ないけどな」
ふっと呟いたのは、四家ではない大輝だ。しかしその呟きに、りゅーちゃんは何故か「そうだな」とも何とも言わない。不思議に思った大輝と梓が顔を見合わせたが、りゅーちゃんは何も言わなかった。
「えっと、じゃあそろそろ失礼します。命さん、またね」
「命ちゃん、いつでも家に来て! お話したいし、こいつらもよく来てるから一緒に鍛錬も出来るし」
「連絡が貰えれば、用意をして待っておくよ」
誠、七海、そして優がそれぞれに命に声をかける。嬉しそうに頷いた命に手を振り、梓たちも神社を出た。
「それにしても、あんなのが出て来るとは思わなかったな」
「あんなの?」
「うん。あんな、四つ足の獣みたいな化け物」
自室のベッドに腰掛け、梓は息をつく。
一晩帰らなかったわけだが、梓の両親は普段通りに息子たちを迎えた。七海や命、陣が本当にきちんと連絡をしていてくれたらしい。ただ、母親には「あまり無理しないで帰ってきなさい」と言われてしまったが。
スマートフォンを取り出せば、大輝からメッセージが入っている。流石に母親に叱られたと書いてあった。それでも、梓の母親から信頼出来る家だと聞いたと言っていたから、思ったよりも怒られなかったらしい。
(母さん、大輝の母さんと仲良しだからな)
後で一言助かったと伝えておこう。そう思ってスマートフォンを閉じた梓を向かい側から見ていたりゅーちゃんは、一転して難しい顔をしていた。
「りゅーちゃん……?」
「正直、私にもアレが何かはわからない。近衛と名乗った奴の差し金であることは間違いないがな」
「マジか。ってことは、今後も要注意だな」
「そういうことだ。……お前が無事でよかったよ、梓」
「なんか言った?」
ベッドから下りて着替えを探していた梓が、りゅーちゃんが何か言った気がして振り返った。しかし彼に「何でもない」と言われてしまえば、それ以上追及することは出来ない。
「とりあえず、優さんに明日服を返そう。洗濯機、回して来る」
「ああ、行ってこい」
りゅーちゃんに見送られ、梓は部屋を出た。
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