交える戦意

第21話 実践

 せいと知り合った翌週の金曜日。七海たちに用事があるということで、鍛錬は休みとなった。梓と大輝は、誠と共に宿題をするためにファミレスにいる。

 数学の小テストが明日あることもあって、梓は大輝を先生代わりにして勉強中だ。


「……そう、ここはその公式を当てはめて」

「となると、こういうことか?」

「そうそう。誠くんは進んでる?」

「うん」


 そんな二人の横で、誠は生物の宿題中だ。茶髪に学ラン姿の誠は、一見すると補導されそうな見た目だ。しかしそんなことが何度もあったため、地元のお巡りさんとは顔馴染らしい。現在は学校帰りということで、鎖などはしていなかった。

 宿題を終え、ドリンクバーから紅茶を取って来た誠が、一口飲んでから口を開く。


「……そういえば、今日はりゅーちゃんは?」

「俺の家。一人にするのは不安だったけど、今日は父さんが休みらしいから大丈夫かな」

「そっか」

「……っし! 終わったー」


 伸びをして、梓はさっさと教科書やノート類を片付ける。その変わり身の速さに大輝は呆れたが、仕方がないなと自分も終えていた宿題を鞄に仕舞う。

 それからは、雑談の時間だ。とはいえ、三人が集まって話す内容といえば、りゅーちゃんや彼を狙う者たちに関することになる。


「この前七海さんたちから、りゅーちゃんと梓さんが正体不明の奴らに狙われているって聞いたけど……?」

「そっか、色々話す時間はなかったもんな。ってか、さん付け取れないな」

「これでも、年上の人は相応に扱いたいんだよ」

「気持ちはありがたく受け取っておく。……で、俺がりゅーちゃんから聞いた話だけど」


 そう前置きし、梓は誠に自分とりゅーちゃんが狙われる理由を話す。そこに大輝が注釈を加えると言った役割分担だ。ただしファミレス店内ということもあり、声量はかなり落とした。店内は昼過ぎであることもあって賑わっており、三人の会話を注視する者などいなかったが。

 誠は梓とりゅーちゃんの出会い、そして敵との遭遇や戦いについて聞いて目を丸くした。前回七海たちから話を聞いて現実的な話として受け入れたが、今回は危機感をそこに添えることになる。


「……つまり、梓さんとりゅーちゃんは、向こうに絶対渡したらいけないっていうことだね]

「そういうこと。だからオレも、梓と一緒に七海さんと優さんに鍛えてもらっているんだ。オレは四家じゃないし、特別な力もない。それでも、親友を失いたくなんてないからな」

「……僕も」

「どうした?」


 頼んでいたフライドポテトの盛り合わせが来て、梓はそれを一本摘まむ。揚げたてのそれは下を火傷しそうなほど熱く、慌てて水を飲んで口の中の温度を下げた。それから深刻そうな顔をした誠に気付き、首を傾げる。

 梓に問われ、誠は一瞬迷う表情を見せた。しかし、意を決したように唇を引き結んで、自分を見つめる二人を見る。


「――僕にも、二人を守らせて欲しい。七海さんの言った通り、地影の血を引く僕は戦うよりも守る方が得意だから。折角友だちになれたのに、失いたくなんてない」

「誠……」

「だってさ、梓」


 どうする、と大輝が梓に問う。梓は何と応じるべきか迷ったが、結局「ありがとう」と呟いた。


「俺は何度かあっちの人たちに遭遇しているから、仲間が増えるのは嬉しい。ありがとう、誠。これから宜しくな」

「うん。宜しく」

「宜しくな、誠」


 改めて握手するというのも、気恥ずかしい。三人はドリンクバーの飲み物を取って来て、小さな音で乾杯することで握手に代えた。ジュースを飲みながら、フライドポテトを摘まむ。


「美味かったな」


 清算も終えてファミレスを出て、三人は何となく同じ方向へ歩く。歩きながら話す中でりゅーちゃんに会いに行きたいという誠に便乗し、大輝も梓の家に行くことになった。

 そして、梓の家まであと数分歩けば良いという十字路。ふと立ち止まった誠が前を指差した。


「あのさ、梓さんが会ったっていう男たちって……ああいう感じ?」

「ああいう?」


 梓と大輝は、誠が指差す方に目を向けた。そして、二人して「げ」と顔を引きつらせる。三人の視線の先には、十字路を曲がって来る黒いスーツの男たち。五人いるそれらは、話す様子もなく、ただ軍隊のように歩いてこちらへやって来る。三人はもう、彼らが人間ではないことを知っていた。


「どうする、梓。この前みたいに全力で逃げるか?」

「それもありだけど……今回は、ここであいつらを倒そう」

「でも、誰かが来たら!」

「その時こそ、全力で逃亡する。――行くぞ、大輝」

「おう」


 待ってましたとばかりに、大輝は右の拳を左の手のひらに叩き付けた。そして右手を勢い引くと、細身の剣が姿を現す。それは、大輝の『神器』だ。


「梓」

「ああ」


 梓もまた、右手を広げた。念じれば、収まっていた大きめの剣が梓の手に掴まれる。それを構え、梓は隣に立った大輝と合図を交わして地を蹴った。

 梓と大輝が向かって行ったことで、男たちも二人に手を伸ばしてくる。それを躱した梓が剣を振り抜けば、五人いる男たちのうち一人が袈裟懸けに切られて姿を消す。


「よし」

「一気に片をつけよう」


 梓と大輝は自分たちに向かって来る男たちと真正面から向き合い、誠を後ろに隠して刃を振るった。

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