第20話 タメ口
いつもの鍛錬を終え、一時の休憩をする。梓と大輝は、放置してしまった
「ごめん、ずっと放置してて」
「話したいって言ったのはこっちなのに」
「全然。りゅーちゃんや日守さんがいてくれたし、二人が一条さんと鍛錬してるの見るのは凄く興味深かったから」
お茶請けの草餅を飲み込み、誠は笑う。
ほっとした梓たちに代わり、七海が話を続けた。話しながら、お菓子やお茶を追加して行く。
「地影くん、うちよりもりゅーちゃんに詳しい感じだったの。より多くの資料や記憶が残されたのかしら?」
「僕の曾祖母が、伝説とか大好きだったらしくて。色々調べて、まとめたものが家にあるんで……あるんだ。それを小さい頃から何度も読んだから」
「なるほど! うちにも記録はあるけれど、そこまで詳しいかって言われたら微妙なのよね」
それからしばらく、誠の一族の話が中心となる。
誠の一族、地影家は、創生の龍を守り伝える四家の一つだ。第六感が強く、更に特殊な力に秀でた者が多かった。それは、現在超能力と言われるものに近い。
「だから、神代家を補佐する役割もあったらしい。特殊な力に特化したのはあの家だけど、それに次ぐ力はあったというから」
「私たち日守家と美津野木家は、どちらかというと戦闘が得意だから。守るのは、そちらの二つの家に任せていたのでしょうね」
確かに、七海は優の指導もあってか戦闘センスがずば抜けている。梓や大輝が追い付くには、まだ時間がかかりそうだ。
「あの……」
「どうした、地影くん?」
何か言いたそうにしている誠に、梓は話を向けた。
誠は派手な見た目に反し、大人しい性格らしい。後に本人曰く、ファッションとしてちょっとギラついたものが好きだという。
梓に問われ、誠は「うん」と首肯した。
「みんなの話を聞いていて、祖父母が話していたことは伝説じゃなくて真実なんだって少し実感した。だから、またここに来ても……良い、ですか?」
おずおずと誠が視線を向けたのは、この家の住人である七海と優の方だ。梓たちが「どうなんですか?」という目で二人を見ると、七海は目を丸くしてから微笑んだ。
「当たり前じゃない」
「お嬢様もこうおっしゃっているし、俺も歓迎するよ」
「……ありがとうございます」
「よかったな、地影くん」
ほっと肩の力を抜いた誠に、梓が笑いかける。頷いた誠が壁にかけられた時計を見て「あっ」と声を上げた。その声につられて梓たちも顔を上げ、誠が声を上げた理由を悟る。
「そろそろお暇しないと」
「もうこんな時間か」
「帰らないと怪しまれるな」
時計の針は、午後六時半過ぎを差している。どの家も門限に厳しい家ではないが、あまり長居し過ぎてもいけないだろうというのは、梓たちの共通認識だ。
帰ろうとする客人たちに、七海が待ったをかける。
「どうしたんですか、日守さん?」
「それ」
「――は?」
「あなたたち、私や一条に対して、もう敬語禁止で」
びしりと人差し指を突き付けられ、梓たちは目を丸くした。しかしりゅーちゃんや優は微苦笑を浮かべて傍観していたため、梓たち三人は自ら問いかけに行くしかない。
視線を交わし合い、大輝が「あの」と七海に問い返す。
「日守さん、どういう意味ですか?」
「地影くんは、年下なのにあなたたちとタメ口で喋っていて、羨ましいなって思ったの。私も、折角仲良くなれた貴方たちに距離を取られたくない」
「……お嬢様は、その家柄もあって心を許せる友人がほとんどいないんですよ。俺からもお願いします。気楽に、お嬢様と付き合ってあげて下さい」
「……だったら、俺は一条さんとも友だちになりたいです」
「えっ。でも、俺はただのボディーガードで……」
まさか、自分に話題の矢印が向くとは思わなかった。優が戸惑いを見せると、大輝と誠も梓の側につく。
「僕も、許されるなら日守さんとも一条さんとも仲良くなりたい」
「オレもです。それに、ただのボディーガード以上ですよ。オレたちにとっては、戦い方の師匠でもあるんですから。……って、敬語抜けてなかった」
「徐々にで良いだろう。私としては、四家の者たちが再び結びついてくれたことが嬉しい。今後何が起こるかわからないが、引き続き宜しく頼む」
りゅーちゃんが頭を下げ、その場の全員が慌てる。おろおろする梓たちを見て、りゅーちゃんはクックと笑った。
その日はそのままお開きとなり、梓たちはそれぞれの家へと帰って行った。
***
日守家の屋敷の屋根裏に、一匹のネズミに似た何かがいた。くんくんとにおいを嗅ぐ姿はネズミそのものだが、赤い目に生気は感じられない。それもそのはず、ネズミはとある男が創り出した密偵役だからだ。
その男は、ネズミがその目で見たことを自らと共有させることが出来る。
「……とうとう、四家が揃ったか」
「申し訳ございません、マスター。あの時、息音を止められていれば」
男の後ろでしおらしく項垂れるのは、以前梓を襲った女だ。小さくなって震える彼女は、どんな罰でも受ける覚悟を持っている。しかし男は、温度のない声で「問題ない」と口にした。
「私は、お前に偵察に近い要求をした。だから、この度のことはお前のせいではない。……それに、まだまだあいつらはひよっこ同然だ」
クックと笑った男は、既に次を考えているようだ。そして数十秒後には、思考の不明瞭さから脱している。
「そうだ。今度は、二つの作戦を決行する。
「――はっ」
縁と呼ばれた女は、深々と頭を下げると静かにその場を去った。
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