力を得るために

第15話 これからの出会い

 神器を手に入れたその夜、七海ななみから返信があった。彼女は梓と大輝の二人が神器を手に入れたことに驚きつつも、その大きな一歩を祝福してくれた。


『武器を扱うための師が欲しいっていう話だけれど、わたくしと同じ人なら紹介出来るわよ』

「お願いしたいです。日守さんの弓矢もナイフも、とても綺麗でしたから」


 梓が素直な感想を吐露すると、七海から数分返答がなかった。その後、何故か咳払いをするうさぎのスタンプが送られてきた。


『話を戻します。私が師事したのは、今日私と一緒にいたすぐるよ。彼は私のボディーガードであり、戦いの先生でもあるから』

「そうなんですね」


 そのまま次回の日取りを決める話になり、梓は大輝とも相談して候補日を決めると約束した。だから、七海にボディーガードがいる理由を聞くタイミングを逸してしまう。

 七海との会話を終えた後、梓は早速大輝に連絡しようとした。しかし夕食を食べたり風呂に入ったりと寝る準備を挟んだため、かなり遅い時間になってしまう。現在、午後十一時。


「梓、私はもう寝るぞ」

「俺も寝る。……でも、その前に大輝にメッセージだけ送るよ」


 梓の家にやって来てから、りゅーちゃんは毎晩梓の部屋で寝ている。客間をりゅーちゃんの部屋にする案もあったが、彼自身が梓と共にいることを願った。

 りゅーちゃんは先に布団に入って、もぞもぞとする。それを横目に、梓は大輝に七海から連絡が来たことを手短に伝えるメッセージを送った。詳しくは明日伝えるとした上で、一度師となる優と話す機会を持つための日程候補を考えておいて欲しいと締めくくった。


「……寝よ」


 欠伸をかみ殺し、梓はりゅーちゃんの横に身を横たえた。りゅーちゃんを迎えてから、以前見ていた謎の声の夢は見なくなっている。その声の主は、今横でのんきに眠っているわけだが。そのお蔭で熟睡することが出来、昼間の授業中の居眠りも減った。


「おやすみ」


 既に眠っているりゅーちゃんからの返答はない。梓はそれでもふっと口元を緩ませると、数分後には眠りへと落ちていた。


「……これは、夢?」


 その日、梓は久し振りに夢を見る。やけに鮮明なそれの中、梓は神器を手にしていた。ぐるりと自分の周りを見回すが、白い霧に包まれたように判然としない。

 その霧に包まれた空間が狭いのか、それとも広いのか。誰かいるわけもないと思いつつも、梓は数歩歩いてみた。


「誰かいるわけもないか。……ん?」


 振り返るが、やはり誰もいない。それでも何かの気配を感じた気がして、梓は振り返って手を伸ばす。


(……日守さん? それから、誰だ)


 七海の気配がする。更に別の気配が二つあったが、梓にとって一つは覚えがあり、もう一つは全く覚えがない。

 首を捻った梓の周りの霧がわずかに晴れ、三つの人影が浮かび上がった。一つは七海、もう一つは竜水神社のみこと、そして最後は見ず知らずの誰かだ。


「これは多分……これから俺が出会う誰かだ。りゅーちゃんに関係ある。俺がまだ会っていないのは、確か千影ちかげの」


 名前はわからない。出会うべきその誰かの影に手を伸ばした梓だが、触れることは出来ずに霧は消えてしまった。暗闇の中、梓の手元が白く光り輝く。


「剣が……。よし」


 梓は神器である剣を握り直し、その白い光が導く方へと一歩踏み出した。




 ――ピピピッピピピッ


「……い、梓。朝だぞ、起きろ」

「……りゅー、ちゃん?」

「おはよう、梓」

「おはよう」


 布団の中で体を伸ばし、梓は上半身を起こしてりゅーちゃんの頭を撫でた。ふわふわとしたりゅーちゃんの髪は、撫でていて気持ちが良い。

 りゅーちゃんもまんざらではない顔で撫でられていたが、ふと梓の手が止まって顔を上げた。


「……梓? 朝ご飯、紗織が作ってくれているぞ。清矢はもう家を出た」

「ああ。……何か、不思議な夢見た」

「夢? 夢見が悪いのか」

「ちょっと違う、かな。日守さんと神代かみしろさんの気配があって、あともう一人もいた」


 これから朝食を食べて、高校へ行かなければならない。梓は朝の支度をしながら、ついて回るりゅーちゃんに夢の話をした。


「千景の」

「うん。多分、これから会うんだと思う。その後のことは何もわからないけど……」

「……もしかしたら、梓には龍磨と同じく夢見の才能があるのかもしれないな」

「ゆめみ?」

「先のことを、夢で見ることだ。それが本当になる可能性が、著しく高い」


 龍磨もそうだったらしい。りゅーちゃんに言われ、梓は祖父を思い浮かべた。確かに人よりも少し勘が良い人だとは思っていたが、夢見も関係しているのだろうか。


「兎に角、まずは大輝と日守さんに会う日程を決めて来るよ。話は多分、それからだ」

「そうだな。気を付けて、いってらっしゃい」

「行ってきます」


 りゅーちゃんに手を振り、梓は玄関を出て行った。

 ぱたんと戸が閉まるのを見届け、りゅーちゃんは「さて」と腰に手を当てた。


「集まって来るんだな、守護者たちが。……私には、もうあの頃のように大きな力はない。いや、再びあの力を持たないことが、この世界にとっての幸いだ」


 りゅーちゃんは首を横に振り、紗織の家事を手伝うために踵を返す。ただずっと家に厄介になるだけではいけない。だからりゅーちゃんは、梓の母の手伝いを買って出ているのだ。


「紗織、手伝おうか?」

「ありがとう、りゅーちゃん。じゃあ、お皿拭いてくれる?」

「わかった。布巾はここだな?」


 最初は創生の龍に手伝わさせることに躊躇していた紗織も、今では傍にやって来るりゅーちゃんに様々な家事をやってもらっている。りゅーちゃんも何もせずにいることがなく、ウィンウィンの関係だ。


「お父さんから聞いていた龍と家事してるなんて、そんな未来になるとはね」

「私も、会えて嬉しいぞ」

「梓のこと、宜しくね」


 沙織に頼まれ、りゅーちゃんは「任せろ」と胸を張った。

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