第2章 古からの縁

新たな力

第10話 ショッピングモールで昼食を

 竜水神社たつみじんじゃの神主、神代陣かみしろじんとの話が終わったのは、昼過ぎのことだった。昼食を一緒にどうかという提案を遠慮し、梓たちは神社を出る。


「困ったことがあったら、いつでもおいで。この国の未来にも関わることだから、遠慮することはないよ」

「ありがとうございます。また来ます」


 貴重な話を聞かせてくれた陣に頭を下げ、梓たちはその足で行ける場所にあるショッピングモールへ向かった。昼食を食べながら、聞いた話をまとめるのだ。そして、ショッピングモールに興味津々だったりゅーちゃんの好奇心を満たす狙いもある。


「おお! 広いし人も多いな」

「目がキラキラしてるな、りゅーちゃん」

「ぼーっとしてると置いて行くぞ」

「ああ、待ってくれ」


 明るいBGMと買い物客の楽しそうな声、そして色とりどりの店舗の様子に、りゅーちゃんは目を丸くしている。梓と大輝は人混みに彼が巻き込まれないよう目を配りながら、一緒にフードコートへと移動した。


「何食う?」

「オレはハンバーガーかな。この前出た新作食べたいと思ってたんだ」

「俺もそうしようかな。看板見てたら食べたくなってきた」

「わかる」

「私も同じものが食べたい」


 はい! と元気に手を挙げるりゅーちゃんを伴い、まずは席を確保しようとぐるりとフードコートを一周する。なかなか空席は見付からなかったが、何とか窓際のテーブル席を確保した。


「荷物番してるから、行って来いよ」

「じゃあ、オレとりゅーちゃんでお先に。行こう、りゅーちゃん」

「わかった」


 梓に昼食代を渡されたりゅーちゃんを伴い、大輝はハンバーガーショップの列に並ぶ。

 二人が戻って来るまでの間に、と梓はリュックサックからノートとペンを取り出した。忘れないように、竜水神社で聞いたことを書き留めて置くことが目的だ。


(竜水神社の創建は、今から千五百年前とされる。水ノ気を始めとした守護四家により、創生の龍と対話するために造られた)


 この世界を創った何者かによって生み出された龍が、何故亡骸となったのかは定かではない。しかし列島が造られた時には既に死んでおり、いつしか生き物が生まれて国が造り出された。

 大昔の人々の中から創世の龍と意思疎通可能な者たちが現れ、彼らが四家の始祖である。彼らにより、創世の龍を祀り伝える社が造られた。それが竜水神社である。

 それから千年以上、代を重ねて四家は存続した。それぞれの時代で最も龍に近い者が『守護者』となり、社に仕えた。


(現代では繋がりこそ薄れたものの、竜水神社は神代家が守っている。各家の当主は次代を定めると、一子相伝として創世の龍の存在とその者との繋がりを伝える、か)


 ガタン、と音がした。梓が手を止めて顔を上げると、ハンバーガーとポテト、ジュースを載せたトレイを持った大輝とりゅーちゃんが立っている。


「お帰り、二人共」

「集中してたな、梓」

「ただいま、梓。とても面白かったぞ」

「よかったな、りゅーちゃん。……ん? どうした、大輝」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるように報告して来るりゅーちゃんを向かいに座らせた梓だが、なかなか座ろうとしない大輝に首を傾げる。すると大輝は「ああ、うん」と歯切れの悪い言い方をした。


「お前が帰って来たら言うよ。先に買ってこい。腹減っただろ?」

「わかった。じゃあ、りゅーちゃんを頼む」

「いってらっしゃい」


 早速食べ始めそうなりゅーちゃんに「先に食べて良いよ」と言い置き、梓も二人が並んだハンバーガーショップへ向かった。

 チーズバーガーセットを買い、席へ戻る。するとりゅーちゃんは既にハンバーガーを食べ終え、残ったポテトを嬉しそうに食べていた。


「お帰り」

「ほふぁーり」

「ただいま」


 ダブルバーガーを半分ほど食べていた大輝の斜め前に座り、梓はりゅーちゃんの口元に付いたケチャップをティッシュで拭ってやる。それから自分のアイスティーを一口飲み、チーズバーガーを手に取ってから大輝を見た。


「で、何かあったのか?」

「ああ。あんまり気にしても良くないと思うんだけど、梓は変な女子見なかった?」

「変な女子? 別に気にならなかったけどな」


 ぱくりとハンバーガーを食べると、溶けたチーズがパンと一緒に口の中に入って来る。咀嚼しながら店に並んでいた時のことを思い出すが、梓の視界に気になる女子も男子もいなかった。

 しかし大輝は、難しい顔をしてポテトを二本口に入れる。


「さっきりゅーちゃんとレジの列に並んでたんだ。そうしたら、何処かのご令嬢みたいな身なりの女の子が、じっとりゅーちゃんのこと見つめていたんだよ」

「ご令嬢?」

「そう。何か用かと思ったんだけど、しばらく見つめてから、一緒にいたごつめの男の人とどっかに行っちゃったんだけどな」

「だから言っただろう、大輝。気にしなくても良いと」

「そうだけどさ」


 食べ終わったりゅーちゃんは、口元を持っていたハンカチで拭う。それから梓と大輝の顔を順に見て、ふっと微笑んだ。


「大方、あの者も関係者だろう。時が来れば、接触することもあろうから、今は気にしなくても良い」

「関係者って、四家の人ってことか?」

「ああ。あの者のまとう雰囲気を、私は昔感じたことがある」

「……だったら、こっちから声をかけるべきだったか?」


 失敗したな、と大輝が眉間にしわを寄せる。そんな彼を見て、りゅーちゃんは隣の彼の眉間に手を伸ばして優しくさすった。


「だから、時が来れば自ずと関わることになる。大輝の警戒は最もであるし、あの場で正しかった。気に病むことはない」

「そう言ってくれるなら、良いけど」


 肩を竦め、大輝は残っていたポテトを食べ終えた。それから椅子に深く腰掛け直す。


「仲間は多い方が良いと思う。オレは四家ではないけど、一つずつ四家の残りを尋ねてみるのもありかもしれないな」

「うん。帰ったら、母さんに聞いてみるよ」


 ハンバーガーとポテトを食べ終え、梓は氷の半分以上が溶けたアイスティーを飲み干した。

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